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15代目片岡仁左衛門襲名披露
平成十年十月一日初日・二十五日千穐楽

昼の部 夜の部
壽曽我対面 近頃河原の達引
義経千本桜・吉野山 襲名披露口上
廓文章・吉田屋 助六曲輪初花桜

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昼の部
壽曽我対面
ことぶきそがのたいめん
  • 工藤左衛門祐経──片岡我當 
  • 曽我十郎祐成───中村福助 
  • 曽我五郎時致───中村橋之助 
  • 小林朝比奈────片岡芦燕 
 曽我兄弟の仇討物語を扱ったお芝居なのに、なぜか「寿」そしてお正月公演には欠かせないというめでたい演目らしい。敵討ちという生臭い話でも、江戸時代にには「仇討悲願達成」というおめでたさがあったよう。曽我兄弟の物語は、江戸時代の庶民にすごく人気があったことを表してますね。確かにこの舞台は立役、女形が勢ぞろいして豪勢でお正月らしい感じです。

ストーリーは、祐経の出世のお祝の席で、めでたい席なら頼み事もできようと思った朝比奈が、曽我兄弟を連れてくる。かねてより、親の仇と付け狙っていた二人はこの時とばかり意気が上がる。祐経としては、兄弟二人を恐れる気持ちは全然ないが、頼朝より大事な役職を賜った身としては、簡単には討たれる訳にはいかない。それで、この役目が終わるまで待て、時節が来たら潔く討たれようと、狩場への通行手形を兄弟に渡す。大まかなところ、こんなものです。

 ストーリーは、どうしても少し御都合主義的なところがあって、最後に友切丸(*1)が見つかるなんてのは、まったくナンセンスー! なんですが、まあ、おめでたい正月の出し物らしいので堅いことは言いっこなしです。全幕を見ればその辺りは大丈夫なんでしょうが、今回みたいに、一場面だけ見ると何でいきなり刀がでてくるか? と思ってしまいます。

 今回の見所は、やはり、曽我兄弟を実際の兄弟が演じている所でしょう。中村兄弟の柔と剛はなかなか面白かったです。
 兄祐成の福助、立ち役なのに女形のように着物の襟を落として着ていて、ちょっとびっくり。しかも、首がすっきり長くて美しい。うっとりです。頭も小さいし。まぁ役者としては顔が大きいほうが舞台映えはするのでしょうが、でも、やんちゃな弟をたしなめる兄、という役どころは面白かった。 弟時致の橋之助はこれがまた良い男で、五郎というキャラクターは人を越えた強さとかを現しているそうで、歩き方もドスドスと凄まじいし、台詞の調子も激しい。でも、その台詞が「いやじゃ、いやじゃ。」とか、兄に駄々をこねているようで、結構かわいい。二人が実際の兄弟というところが、実生活でもかつては、こうだったのか? なんて、要らぬ妄想をしてしまいました。それにしても、橋之助ってこんなにかっこ良い役者だったかなぁ。ちょっとこれから要チェックです。

 本当に二人が対照的で、これから、面白い芝居をしてくれそうです。兄弟の役じゃなくても競演すると良いのにね。って春の公演であったな。確か、恋人役で。う〜ん、役の上とはいえ、兄弟で恋人役を演じるというのはどういう心持ちなのでしょうね。 福助&橋之助で、「桜姫東文章」とか、「鳴神」なんかをやって欲しいものです。桜姫の釣鐘権助は今の橋之助でもできそう。鳴神は流石にもうちょっと年を取ってもらわないと無理かな。福助はどちらもOKです。何度でも言うようだけど 兄弟で恋人役、正に、小説向けのお二人ですね(ど、どんな小説…(ーー;)しかも、どちらも容姿端麗で…。福助にはもう少しファム・ファタール的な色香を付けてもらって、どんどん男性を誘惑してもらいたいものです。玉さまみたいに。

*1・友切丸‥‥紛失していた曽我家の家宝の刀
義経千本桜・吉野山
  • 佐藤四郎兵衛忠信
    実ハ源九郎狐──尾上菊五郎 
  • 早見藤太────市川左團次 
  • 静御前─────中村芝翫 

 昼の部は2回見に行ったのだけど、2度とも少し眠たくなってしまいました。決して、つまらない物ではないのだけど、舞踊の部分が長いせいかな。
 静は実際は平安時代後期の人物なんだけど、このお芝居に出てくる静は、江戸時代のお姫様の姿をしています。それがちょっと変。堅いことは言いっこなしということでしょうか。義経を追いかけて、吉野山に入ったというわりには、大きな冠をつけてます(笑)。

 ストーリーは頼朝の反感を買い、都を追われた義経は苦野山に匿われている。その義経を追って、愛妾静御前が吉野山に入ってくる。みごとな桜にほっと一息ついて、義経に渡された「初音の鼓」をたたき始める。そのうち、その音に誘われるように、佐藤四郎兵衛忠信がやってくる。義経を偲ぶ二人。四郎兵衛は「初音の鼓」が気になるようである。実は、忠信は「初音の鼓」に張られている夫婦狐の子供だったのである。(一千も 生きた霊力のある狐らしい。)忠信は鼓を恋しつつ、義経を慕いつつ静のお供をするのである。大体こんなところでしょうか。

 静役の芝翫さんはあのお年ながら、とてもかわいらしく、色っぽくて、流石人間国宝(笑)でした。忠信(源九郎狐)の菊五郎は少しガニ股気味なのが玉に傷ですが、狐振りがかわいらしくて二重マルでした。義経を追って来た早見藤太の左国次はとても滑稽な役で、その連れの一団も立ち回りが面白かったです。

夕霧、伊左衛門
廓文章・吉田屋
くるわぶんしょう・よしだや
  • 藤屋伊左衛門────片岡仁左衛門  
  • 扇屋夕霧──────坂東玉三郎 
  • 太鼓持 豊作────中村橋之助 
  • 吉田屋女房 おさき─片岡秀太郎 
  • 吉田屋 喜左衛門──市村羽左衛門 

 待ってました、の仁左衛門の登場です。片岡家一門お得意の上方歌舞伎で、大阪の豪商藤屋の若旦那が仁左衛門。若旦那だから二十歳くらいの設定なんでしょうか。無闇やたらと可愛い。とても、五十男には見えない仁左衛門でした。

 ストーリーは廓通いが過ぎて勘当されている伊左衛門が、馴染みの遊女の夕霧が病に臥せっているという噂を聞き、久しぶりに「吉田屋」にやってくる。2年振りに来たというのに、夕霧は別の客といる。その内に夕霧が伊左衛門の元にやって来るが、夕霧に会えて嬉しいくせに拗ねて素直になれない伊左衛門。そうこうするうちに、伊左衛門の元に勘当が解けた知らせと夕霧の身請けのお金が届く。めでたしめでたし。
 と、こんなところでしょうか。全くなんて事はない痴話喧嘩であります。そして、ラス トは大団円。役者の魅力が物をいうお芝居だと思います。

 仁左衛門がまたよい男で花道から出てくるところも、着流しがすっきりして美しい。背が高くて、足が(歌舞伎俳優にしては)長いので、うっとりですわ。夕霧からの手紙をつないで作ったという、紙子の着物、これがまた、紫色で、黒の文字が入っていて、仁左衛門に似合う。上方の大店の若旦那の雰囲気がとっても可愛くて、あんな男がいたらつい貢いでしまうかも…。端正な容貌で、優しくて、適当に我侭で…。いいですねぇ。
 かたや、夕霧の玉三郎はといえば、これがまたため息が出るほど美しい。(登場の時には客席からどよめきがでるほど)病み上がりの遊女ということもあってか、すごく頼りない風情で、不実な伊左衛門を怒る。本当にこちらも可愛らしい太夫さんで、上方の太夫はあんなふうだったのかなー。しかし、本当に玉三郎は美しいです。綺麗だと充分にわかっていても、何度見てもため息が出ます。本当に男性なの? 本当に人間?

 終盤の二人の痴話喧嘩の辺りなんて、もう見ているほうが恥ずかしいようなそんな雰囲気さえ漂ってましたよ…。いやお似合いの一対ですね。ずっと見たかった、孝夫&玉二郎。(今は 仁左衛門だけど。)やはり、素晴らしいです。 しかし、本当に痴話喧嘩の芝居だな。この演目は。大したストーリーがない! 仁左衛門と玉三郎だか らとっても美しくて、見ごたえがあるのだけど、少し我に帰ると何だかな、です。
 最後にいきなり勘当が解けるし、夕霧の身請けのお金の千両箱が積まれるし、こんな御都合主義でいいのかい? と、つい突っ込みを入れたくなります。
 まぁ、おめでたい襲名披露の演目には華やかで楽しくて良いのでしょうかね。玉三郎の出番が少なくて、そこだけ不満がちょっと…。

 う一ん。旧T&Tコンビ、怪しいなぁ。やっぱり。こんなこと考えてちゃいけないんでしょうが、やはり、要らぬ妄想を抱いてしまいます。あの喧嘩の雰囲気は、全く何というか恥ずかしい。それだけ、上手ということなんでしょうが。 2回目に見に行ったときは席が3列めだったので、表情までよく見えて良かったです。関西言葉の上方歌舞伎、こういう楽しいものならもっと見てみたいです。



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