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御園座・陽春大歌舞伎
平成十二年四月一日初日・二十五日千穐楽
昼の部 夜の部
妹背山婦女庭訓 歌舞伎十八番の内毛抜
銘作左小刀京人形 黒手組曲輪達引
〜黒手組助六〜
極付幡随長兵衛
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あらすじがなが〜くなってしまいました。(^_^;)
妹背山婦女庭訓
いもせやまおんなていきん

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あらすじ★
奈良の三笠山のふもとに権勢を誇る蘇我入鹿の屋敷がありました。そこへ藤原鎌足の使いといって鱶七という男がやってきます。不審に思った入鹿はしばらく留まるように言って奥に行ってしまいます。そこに入鹿の妹姫の橘姫が帰ってきます。その後に、姫の後を追うように男もやって来ます。その男姫の恋人求女は、実は入鹿の敵方の藤原淡海だったのです。正体を明かした男は自分と一緒になりたかったら、家宝の刀を持ってくるように姫に言います。姫も兄を裏切ることにためらいを感じつつも男の言うとおりにすると誓います。(歌舞伎のお姫様って自分の感情に忠実だよね〜)その内にまた一人、お三輪という町娘が男を追って屋敷に来ます。しかし、屋敷の女官達から求女は橘姫と祝言をあげると聞き、どうしても本人に会わせて欲しいと女官達に頼みます。でも、意地悪な女官達はお三輪を散々からかった挙句結局会わせてくれないのです。怒りと嫉妬に狂ったお三輪は、どうにも求女に会わなければ気がすまないと髪を振り乱して屋敷の奥に行こうとします。そこへ、先の鱶七がやって来て、お三輪を切りつけてしまいます。鱶七の言うには、爪の黒い女鹿の血と、嫉妬に狂った女の血を混ぜてその血に笛を浸し、その笛の音を聞かせると入鹿の霊力が消えるというのです。求女が実は入鹿の敵の藤原淡海だと聞かされたお三輪は、自分の血が求女の手柄に結びつくならと納得して、鱶七の手にかかるのでした。 オハリ
と、あらすじを長々と書いてしまいましたが・・・
これが、思っていたよりも面白かったです。お話は歌舞伎らしく妙な言伝え(?)と実は〜だったの世界なのですけどね。江戸の人が考える古代の貴人は、なんだかすごく人間離れをしているよう。入鹿はほとんど人でない者の様に描かれているし。 でも面白ければオッケーと言うわけです。愛しい男を追ってきて入鹿の屋敷まできてしまったお三輪を館の女 官達がいじめるのですが、イヤーな人達なんだけど面白いんです。女形は悪役を演じないという大原則があるので、 この女官達はみんな立役の人が演じているのです。だから時々男になってすごんだりして怖いです。笑
團十郎鱶七、ストライプの着物にチェックの裃という、みょうちきりんな衣装を着て登場なわけですが、團十郎丈って ほんとに華やかー。そんな派手〜な着物にも全然負けてないのですよ。歌舞伎は派手でなくっちゃね。
鱶七はお三輪を刺し殺してしまうのですけど、その理由が嫉妬に狂った女の血が入鹿の霊力を殺すのに必要というの だから、まぁ本当に奇想天外なお話。それで納得して良いのか? お三輪ちゃん、て思ってしまいました。

銘作左小刀・京人形
めいさくひだりこがたな・きょうにんぎょう

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あらすじ★
名工左甚五郎は小車という遊女をどうにも好きになってしまいました。でも、妻を持つ自分には適わぬ恋。その気持ちを断ち切る為に、小車そっくりの京人形を作ってしまいました。人形を眺めつつ一杯やっていると、不思議人形が動き出すではありませんか。本物の小車と居るかのような幸せな時間。しかしそこへ甚五郎が匿っていた、主君の妹井筒姫の命を狙う追手がやってきました。姫を助けるために大立回りをする甚五郎でした。
孝太郎さんの人形振り、すごく可愛かったです。この方はもう立女形なんでしょうか。今回の役はすべて女形でしたし。
綺麗な花魁の人形姿なのに、心は甚五郎の男の心が入っているのでがさつな動き。でも太夫の手鏡を懐に入れると忽ち 柔らかな花魁の動きになって、その変わり方がすごく面白かったです。ふにゃあって感じで。人形とともに踊る舞踊を見るだけでも面白い(二人が左右対称の振りでの踊り)のに、このお芝居は立回りまであって大サービス。 その立回りが、大工道具を使っていて一風変わった立回りで面白かったです。左甚五郎だからそういう道具を使ったものになったようです。

極付・幡随長兵衛
きわめつけ・ばんすいちょうべえ

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あらすじ★
江戸の花川戸に住む、侠客の幡随院長兵衛は町の人望を集める親分さん。その長兵衛一家となにかと対立しているのが、旗本奴(侍の不良集団)・白柄組。今日も芝居見物のさなかに白柄組の連中が騒ぎを起こすも、長兵衛がなんとか事を納めます。しかし、そこに居合わせた白柄組の首領、水野十郎左衛門と唐犬権兵衛は顔を潰されたと言い、このままでは済みそうになさそう。
長兵衛が家に帰ると白柄組の使いがやって来て、水野が「仲直りをしたいので家に招きたい」との言葉。水野の企みである事は明白で、行けば殺されるとわかっていつつも、「ここで行かねば男が立たぬ」と一人で水野邸にのりこむ長兵衛。長兵衛、湯殿で無残にも水野の槍に倒れるのでありました。
この芝居、劇中劇から始まります。観客の私たちも舞台の中のお話の観客となって、 舞台を一緒に観ているという設定。そのうち水野組の人間が揉め事を起こし出します。 と、客席の中から長兵衛(團十郎)登場。思わぬ客席からの登場にどよめきが。私はあいにく 上手寄りの席だったので、「12代目が横を通ったぁぁ!」という嬉しい事にはなりませんでした。残念…。 でもその後に子分達がざざざーっと横を走っていき、びっくりでした。風がざーッと起こるくらいの 速さで走っていったんですよ。すごかった。

しかしこの話しなぁ、了見しようと水野の屋敷に呼ばれて、行けば殺されるとわかっていながら出かける長兵衛と 殺そうと思って呼びながら、「敵ながらたいした男よ」とか言いながらも、一人で来た長兵衛を多勢で殺してしまう 水野。男の面子と意地なんでしょうけど、どうも釈然としないものが…。何てことを言っていたらこのお芝居は楽しめ ないですね。長兵衛の男気に見惚れていればいいのですよね。

敵役の八十助さん、ご本人も仰っているとうりあまり憎憎しくない敵役でした。町人に負けているわけにはいか ない旗本武士、といった感じでした。私的にはもっと、いやらしく作っても良かったのになーと思ってしまいました。 その点がちょいと物足りなかったな。


歌舞伎十八番の内・毛抜
けぬき

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あらすじ★
小野小町から数えて3代目の小野春道の館は、お家乗っ取りを企む八剣玄蕃などがいて、どうもごたごたしている様子。ある時に帝の勅使がやってきて、日照続きの今、雨乞いをするので小野家にある小町の歌が書かれた雨乞いの短冊を差し出して欲しいとの事。(この日照は今上天皇に恨みを持つ鳴神上人が龍神を滝に閉じこめて雨が降らないようにしてるのです。)小姓の秀太郎が短冊の箱を持ってくると、おっと中身がない。なんとか3日間の猶予をもらい短冊を探す事に。
そこへ春道の息女錦の前の許婚文屋豊秀の使いの粂寺弾正という男が、のびのびになっている婚儀はどうした事かと様子をうかがいにやってきます。実は錦の前は髪の毛が逆立つ奇病で結婚どころではなかったのです。ひとり部屋に待たされる弾正。毛抜きで髭を抜いていると(しかしなぜここで髭を…)あら不思議毛抜き立って踊り出す…でも銀の煙管は踊らない…。思案する弾正。
すると、以前小野家に腰元奉公していた小磯の兄である小原の万兵衛という男が現れ、妹はこの家の春風の子を妊娠し、難産の末に死んでしまった。どうしてくれる。とやって来ます。話を聞いていた弾正。実は小原は豊秀の領地で、小磯が何者かに殺され持っていた短冊も失ってしまったと訴えていたのを知っていたのです。この男は偽者であると確信している弾正はあっさり男を切り捨ててしまいます。案の定懐には小町の短冊が。
ついでに弾正は姫の髪の毛の病気も解決しようとします。姫の頭から櫛、笄とるとこれまた不思議、髪の毛が落ち着いてしまいました。続いて天井を槍でつつくと磁石を持った曲者がいるではないですか。すべて玄蕃の企みだったのです。ついでに玄蕃も切り捨てた弾正は意気揚揚と帰って行くのでした。大団円
まってましたの歌舞伎十八番。團十郎丈の「毛抜」の粂寺弾正。楽しみだったんですよー。粂寺弾正って、美人ならば男も女もどちらもオッケーな方で、腰元の巻絹と小姓の秀太郎の両方に迫るんですよん。この弾正に迫られる小姓の秀太郎を、秋の西日本巡業で新之助丈が演じるのです。で、それをどんな感じかなーって観るのがすごく楽しみであったのでした。今回の秀太郎の信二郎さんには非常に申し訳ない見方をしてしまったのですが、もう、私の頭の中では秀太郎は新ちゃんでした。白塗りの色若衆姿の新ちゃんに迫る、團十郎パパの弾正・・・。くー、何ともいえんですね。

いかん話しがそれました。お話はすごく分かりやすくて、イヤホンガイドを借りたのですが、借りなくても大丈夫なくらいわかりやすい話でした。台詞も聞きやすいですしね。
毛抜きが立ちあがって踊り出したのを見て、姫の髪の毛の逆立つ病気のからくりにきずいた弾正の様々な見得が、この お芝居の見所の一つでしょう。
ずっと見たかった「毛抜」。これでやっと「鳴神」への話が繋がりました。後は最後の「不動」を観れば、「鳴神不動北山桜」を完璧に観る事ができます。どこかでやってくれないかな、「不動」。


黒手組曲輪達引
くろてぐみくるわのたてひき

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あらすじ★
序幕の忍ヶ岡道行の場では、白玉が両替屋の番頭権九郎と駈落ちから始まります。この権九郎は遊女と駈落ちをするには、どうもぱっとしない感じ。そう思っているとやはり背後から白玉の間夫の牛若伝次が出てきて、権九郎がくすねてきたお店のお金の五十両(!)を奪ってしまい、挙句に権九郎は川に突き落とされてしまいます。うまくいったとばかりに二人は逃げようとするのですが、結局白玉は廓の追手につかまってしまいます。
変わって新吉原仲之町の場。白酒売りを浪人組の鳥居新左衛門の門下生が虐めているところに、花川戸の助六がやって来て白酒売りを助けます。ここで門下生達に股くぐりをさせます。そこに、助六を陰から援助し亡くなった父と懇意であった紀伊国屋文左衛門がやって来て、喧嘩は良くないと脇差に紙で封印をします。
いよいよ三浦屋格子先の場。花魁勢ぞろい。廓に連れ戻された白玉も、反省の色も余りなくいる様子。その内に助六が禿に手を引かれてやってきます。そこに、揚巻につきまとう鳥居新左衛門が顔を出します。先ほど門弟達が助六にやり込められた事を根に持って、ねちねちと助六に嫌がらせをします。ここで足で煙管を渡したりします。(本家の逆ね)いよいよ刀を抜きそうになる助六ですが、紀文さんの封印を守って我慢しています。図に乗った新左衛門は草履を刀にさして助六の頭にのせます。この刀こそ探していた北辰丸であると知った助六。一触即発の状態になるのですが、揚巻が間に入りここはひとまず落ち着きます。
ラストは大立回りの駒形六角堂の場。紀文さんの封印もお許しが出て解けた助六。見事に父の敵の新左衛門を討ち果たすのでありました。大団円。
これは「助六」のパロディです。…ほんとにパロディだった…。最初に助六にはない白玉の足抜けシーンていうのがあるのだけど、後はまんまでした。白玉はここでは結構悪女でして、持てない三枚目の両替屋の番頭権九郎をそそのかして店のお金を横領させて、そのお金だけいただいて、自分の本当の情夫と逃げようなんて…、結構な悪ですな。でも結局捕まってしまうのですけどね。やり手婆に虐められたりするし。白玉大活躍(?)
この舞台では捨てられる権九郎と助六の二役を八十助さんが演じていたのですが、その権九郎の引っ込みの時に、出演 者の名前を折り込みつつしゃべるのです。八十助さん、ちゃんと来年の自分の三津五郎襲名の宣伝をしてました。来年の御園座の顔見世公演は板東三津五郎襲名披露公演ですね。

お待ちかねの花魁勢ぞろいはさすがに助六ほどの豪勢さはないのだけれど、今回の演目の中では綺麗どころ勢ぞろいで 見た目に楽しいです。こちらの揚巻は本家助六の揚巻ほど立回りをすることなくて、ちょっと残念。
この助六もけんかを仕掛けては、盗まれた主家の宝刀北辰丸を探しているのですが、本家助六ではたいてい意休の持っていた刀が宝刀だった! というところで終わってしまうのですが、今回はその後の敵との立回りがありました。立回り好きの私としては嬉しかったです。隣に座っていたおば様も大拍手を送ってました。
本家助六に比べるとどうしても地味な印象がありましたが、八十助さんの色男ぶりが楽しめたお芝居でした。