3つの物語 サイト4周年記念




Epi1 SleepingーBeauty

「・・・何、この花。」

扉の向こうの部屋にあったのは、一輪の凍った花だった。

「あんたの光。」

紅蓮の影がそういった。
役を降りる時である。




普通ではつまらない。
平和ではつまらない。
なにもないなんてつまらない。

そう、つまらないのよ。

普通なら壊せばいい
平和なら争えばいい
なにもなければつくればいい

アタシが望む、アタシの思い通りの物語。


白い建物。
白い部屋。
散らばった赤い花びらはまるで、血のように見える。

「死に様も、美形だと絵のようね。」

倒れた体のそばにいく。
表情は穏やかで、綺麗だった。

「ねえマールーシャ。
 アタシ、あんたのこと・・・」

好きだったよ。

身をかがめてキスを贈る。
ああこれがあの有名な素敵な童話なら、彼は目覚めてくれるだろうに。
残念ながら。お話の登場人物には、お話を変える力はない。

「・・・」
「お前、泣けるんだな。」

背後から紅蓮の影が現れてそういった。

「盗み見?趣味が悪いわね。」
「泣くって、どんな心だ?」

悪態も無視して影はそう尋ねる。
影には心がない。
散ってしまった彼も、また。

「・・・教えない。でもあんた、覚えているんでしょう?」
「覚えているのは、あることにはならないんだ。」

影は首を振る。外見のわりにさながら迷子のよう。

「あっそ。
 ・・・で、何の用?」
「来てくれ、あんたにはまだ役割がある。」
「そう。」

紅蓮のあとに続いて、部屋を出る。
どこからか吹いた風が花びらを巻き上げ、そこには何も無くなってしまった。

「(さようなら)」

思い通りにならないのなら、
幕を閉じてしまいましょう。

そして次の綴り手はアタシ。





Epi2 浦島太郎

「どこから来たの?」
「うーん、どこだったかなあ。」

何て言えばいいのか。
何かがデジャヴュする。

昔から変わらないはずなのに、心のどこかでひっかかる違和感。
そしてどこかで俺を呼んでいるような気がする感覚。

誰も知らない。
俺もわからない。
さながらそれは・・・

「あー龍宮城?」
「お城?」

本が開く音がした。






世界に不満を持ったことはない。
なにもいやなことが無いから。
そりゃあ、うまくいかないこともあるけど、それはそういう運命だったんだよ。
何事も受け入れる。
それが器のデカイ男ってもんじゃないか?

普通で充分。
平和で充分。
なにもないで充分。

そう、充分。


「何かを忘れているような感覚?」
「そう。」

聞き返されたから、頷く。
そして申し訳ないと思いつつも、隣でため息をついた。
案の定、彼女の眉が険しくなる。

「私といるっていうのに、他のこと考えて尚且つため息とか、ひどい。」

むくれっ面になる彼女に慌てて謝る。

「ゴメン、別につまらないとかじゃなくてさ…」

そうすると、彼女は吹き出して笑う。

「嘘だよ、ちょっと困らせてみただけ!」
「カーイーリー!!!」
「アハハハハ!!」

こんな風にじゃれあったり、笑いあったり、それが毎日。
それで充分だった。



「俺、ここじゃないんだ。」

足元で波が押し寄せてはひいていく。
体が引っ張られるようだ。

「まって、どういうこと?!」

彼女はいつも見せない青ざめた顔で、そう声をあげる。
波が押し寄せてはひいていくから、彼女はこっちにはこれない。
今にも泣きそうな顔をするから、笑っていった。

「次は、俺は俺の場所に立って、君に会うよ。」

「待って!」

引っ張られるようだ。
波が、押し寄せてきた。
海に沈む。
彼女が遠のいていくのと同じように、
俺の意識もだんだんと引き離されていった。

・・・


「もしもーし、君、生きてる?」
「んあ?」


玉手箱の煙をあびて、次のお話が始まる。





Epi3 不思議の国のアリス


「やっとみつけたの。
 ・・・これが、私の役割だったんだ。」

私にしか出来ないこと。
私がここに来た理由。

やっとみつけた、私のお話。




どうして私はなにもできないんだろう。
どうして私は強くなれないんだろう。

普通ではいけませんか?
平和ではいけませんか?
何もないのはよくないことですか?

理由がなくては、だめですか?


「扉を閉めなくちゃ!」

大きな心の扉。
内側からあふれ出す、影。

思い扉は、みんなの力で押しても、
内側から引いても、少しずつしか動かなくて、

影は形を成しながら、どんどんおおきくなっていく。

「もうだめ〜!!!」
「諦めるな!」
「!!」

鍵を持った少年と王様の従者。
鍵を持った少年と王様。

チェスのように、駒が置かれている。
彼らのお話。

(じゃあ、私は?)


―――君は、――だから、―――


いつだったか、聞こえた声を思い出した。
気付けば駆け出していて、
閉まりかけている扉にとびこんだ。

「「「「「!!!」」」」」

皆が私の名前を呼んだ。

扉の向こうには、大きく膨らんだ影。
でも不思議と、怖くは無かった。

「なにをするつもりだ!やめろ!」
「あぶない、戻ってきて!」


「ごめんね、戻れないよ。
 これが私の、役割だったんだ。」


守られてばかりで、
皆みたく力とか、魔法とか、
守ってあげるほど強くは無いけれど、

私は私の役割で皆を、守りたい。

「私が、影を全部受け止めるから。
 そしたら君が、私に鍵をかけて。」

そういったら、君はひどく辛い顔をした。
扉の外にいる皆が怒鳴るように、声を上げている。

最後まで迷惑をかけてごめんなさい。
でも、最後の私のわがままだから。

全部を受け入れたあと、君が私に鍵を向ける。
うつむかれたら、顔が見えないよ。
君の笑った顔が私はすきがなのにな。


これが私の、ここにきた理由。






「大好きな皆のために、全部を捨てたっていうの?
 そうやって悲劇のヒロインをぶるの、アタシはキライよ。」

誰かの声が聞こえた。

「いいわ、もうこのお話はおしまいにしてあげる。」



次に目が覚めたとき、
黄金色の君を見た。
銀色のあの人と亜麻色のあの人と同じように鍵を持っていた。


「あんた・・・。」
「君は誰かに似ているね、・・・ロクサス。」


今度のお話の私は、何をすればいいんだろう。










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4周年記念KH夢番外編。
上から順に、CoM・U・無印それぞれの夢主人公の話。
※現在は夢の取り扱いをやめています。(2009/7/5)

写真素材提供 NOIONさま