「お花見しようか!」

あの人の予告無しの提案にはいつも驚かされるけれど、

そういわれなければ、
この部屋から見えるあの満開の桜を、

気にもかけなかったと思う。





はじめまして、僕は2年の水沢卯月です。

ここは川咲中学校。
「のびのび・仲良く・たくましく」というなんとも平和なモットーを掲げた、
割とどこにでもある学校です。

僕はその川咲中学の生徒会役員で、書記を努めさせていただいています。
そして、いま僕らがいるこの部屋は、生徒会室。
使われなくなった教室に長テーブルや生徒会行事で使う大物小物が置かれているだけの
特に飾り気のない教室です。

先ほど「僕ら」と申し上げたとおり、
この部屋には僕以外の生徒会役委員もいます。

「花見って、また突然だなお前は。」

そう言って呆れたように笑うのは、3年水沢七瀬。僕の兄です。
兄は生徒会の副会長を務めています。
スポーツ万能で、人柄もよく、とても人望のある人で、自慢の兄です。
兄は呆れながら言うものの反対する気はなく、むしろその突然な提案にノリノリでした。

「イキナリ言い出してすぐに了解できるわけ無いだろ。」

きりり、と中学生らしからぬ(とは声に出していえないのですが)口調でいったのは
生徒会会計を務める3年三浦潤先輩。
三浦先輩は前年度も生徒会に入っていたので、誰もが会長に立候補すると思っていたのですが
生徒会選挙のとき、先輩は会計を選んだので全校生徒が驚きの声を上げていました。

「大体、なんでお前はいつもそう突然に」
「いいじゃないですか!素敵ですその発想!賛成です!!」

三浦先輩の意見を掻き消すかのように、
勢いよく手を上げて誰よりもはっきりと元気よく賛成の意を唱えたのは
生徒会副会長、2年染井未来さん。
飛びぬけて明るくパワフルな未来さんが生徒会に入った理由は
聞けば脱力、見れば納得するものでした。
と言うのも、憧れの先輩が生徒会長に立候補していたからです。

そしてその人が、

「反対は一人だけだよ、これはもう実行しかないね!」

ブルーシートを小脇に抱えた小柄な女子生徒、
川咲中学3年で生徒会長の小林茜さん。

「場所はねー、ちょっと距離あるけれど私は校門側がいいと思うんだ。」

窓から見える校庭の、校門側を指した茜さんは僕らにむかってそう言いました。

今日は始業式で、午前の集会を終えた生徒会の僕らは
4月中に予定されている入学式や新入生歓迎会の打ち合わせのために
お弁当持参で生徒会室に集まることになっていました。

誰よりも一番に生徒会室に到着した茜さんは、
僕らが全員集まったのを確認すると

「お花見しようか!」

と打ち合わせそっちのけで言い出したのです。


「ちょっとまて、多数決とかいう問題か!?
 っていうかコイツはどうなんだ、まだ何も言ってないぞ!」

すっかり花見の準備を整えた茜さんと未来さんに向かって、
慌てた三浦先輩声を荒げてそう言いました。
ちなみに、「コイツ」とは僕のこと。

「ちっちっちー、三浦センパイわかってないなー、
 ウーチャン(未来さんが僕を呼ぶ時のあだ名)が
 茜センパイに反対するわけないじゃないですか☆」

星マークが飛んできそうなウィンクを飛ばしてきた未来さん。
いやーな予感がして、冷や汗が一筋流れるのを感じました。

「だって、ウーチャン茜センパイのこと」「あの僕、花見に賛成です!!!」

僕は慌てて未来さんの言葉を掻き消しました。
うっかりオーバーに手を振り回したものだから、
三浦先輩はびっくりしていました。

「よーしよーし、わかってるじゃんウーチャン☆」

また星を飛ばした未来さんは僕の頭を軽く撫でたのですが、
今のことで全部の体力を使ってしまったのか僕はヒドく疲れてしまいました。

・・・人のこと言えないのは重々分かっています。

熱くなった顔を冷やすように、僕は頭を振りました。



「じゃ、みんなお弁当持ってレッツお花見ー!!」










「やっぱりいいよねー外でご飯って、遠足みたいで!」

茜先輩がオススメといった校門側の桜並木には
溢れるほど桜が咲いていて、時折吹く風に花びらを散らせています。
川咲中学の校庭は沢山の樹木が植えてあり、季節ごとに彩を見せてくれます。
特に春の桜は、樹齢100年を超える桜並木ばかりでその迫力は計り知れません。

「ホントに桜すごいですね。入学式まで咲いているといいなぁ。」
「大丈夫、桜って結構強いから!」
「去年は嵐になっても案外散らなかったしな。」

未来さんが呟いた言葉に、
茜さんと兄さんが深く頷きながら答えました。

僕らは去年、この桜に歓迎されて川咲中に入学したはずなのに
いまいち思い出せないのは、緊張して桜を見る余裕が無かったからなのかもしれません。
今度来る新入生には、是非この桜並木に気づいてほしいと僕は思いました。


「と・こ・ろ・で。
 さっきからだんまりな三浦センパイ!
 何か無いんですか?
 こんなキレイな桜みて感想とか何か!!」


未来さんが身を乗り出して、三浦先輩に向かってそう言いました。
すると、今まで黙っていた三浦先輩が眉間に皺を寄せながら未来さんをみてため息をつきました。

「染井、少し静かにしてくれないか。」
「私は桜についての感想を聞いてるんですけど。わかりますか?情緒ですよ情緒。」
「お前に情緒どうの言われたくないな、」
「私もセンパイが綺麗だのなんだの言うの聞きたくないですね。」

今更ですが、未来さんは三浦先輩とは正反対のタイプなので
ちょっと会話をするだけで火花が散ります。

「そもそも、自然の美しさを味わうなら心を無にして気を落ち着かせるものだ。」
「センパイ本当に中学生ですか?なんかジジくさ。」
「小学生以下の脳ミソのお前にはわからんだろうな。」

「「・・・」」

桜の花びらが舞う春の穏やかな昼下がりに
一触即発の空気が漂います。

「あ、あの・・・」
「3人ともみかんどーぞー!!」

一陣の風のごとく、
茜センパイがみかんを三つ僕らに渡してきた。

「これ、さっきブルーシート借りに職員室行ったときに校長先生がくれたんだ。
 沢山あるからたべてね、後であったら御礼言うの忘れないようにねー。」

「あ、はい、」
「ありがとうございまーす!」
「お前は花より団子か。」

空気をがらりと変えてしまう茜さんはすごいといつも思います。

なんだかんだ言いつつはじめは渋っていた三浦先輩も今では楽しんでいるようですし、
きっと茜さんが言い出してくれなければ
この桜にはあまり気にもとめずに過ごしていたかもしれません。

「わ、七瀬器用ー!」
「食べ物で遊ぶな!」
「いや軽い衝撃を与えると甘くなるって聞いたからさー。」

兄さんがみかん5個でお手玉をし始めました、









お花見

****あとがき****
連載と言うより季節ごと短編集という形でやっていくつもりです。
ただ今回は1作目だったので紹介が多くなってしまいました(汗)

(2004/4/10)→修正(2008/2/1)