入学


川の流れは清らかに
色を飾るは花々の
咲き乱れること 鮮やかなりて
ああ 懐かしき 我らが学び舎
川咲中学校



今日から中学生。
新しい世界での
新しい生活。

おろしたての制服がなれなくて、すごくドキドキ。
周りには同じように制服をした人たちがいて、
でも同じ学年なのか、先輩なのか分からなかった。
皆、自分よりも大きく見えて、少し怖い。

「凛、お母さんは会場にいくけれど大丈夫?」
「う・・・ウン。」

ずっと傍にいたお母さんのことばに、
私は条件反射で頷いてしまった。

「困ったことがあればすぐに周りの人に聞きなさい、わかったね?」
「ハイ。」

また頷いてしまう。

今日から始まる、新しい生活。

俯きっぱなしだった顔を上げれば、
桜が満開に咲いていて、とっても綺麗だった。

キーンコーンカーンコーン

中学に上がっても小学校のものと変わらない
懐かしいチャイムの音が聞こえてはっとした。

いつの間にか、周りにたくさんいた人たちはいなくなっていて、
さっきまでのにぎやかさが嘘のようだった。

「あれ・・・お母さん?」

頭から足先までに、さっと血が引くような感じがした。

キーンコーンカーンコーン

「うわっ、どいてくれ!!」

遠くから聞こえた声に振り向く前に、
どんっ!と何かが私にぶつかってきた。


「いてて・・・
 わりい、大丈夫か?」

その言葉にすぐに返事を返せなかった。
声が出なくて、じわじわと目が熱くなってくる。
手は汗ばんでいるし、春で暖かくなってきているのに奮えが止まらない。

「・・・なあ?」

しりもちをついたままの私に、また声を掛けてくる。
男の子の、そして多分先輩の、声。
背が大きいからしゃがみこんで私のことを覗き込んできた。

「う、」

駄目だ、そう思った。

「うわーん!!」

頭の中がぐるぐるする。
何もわかんない。
でもとっても不安で不安で、仕方が無かった。

「まさか、迷子?」
「うえーん!!」

顔の分からない先輩の言葉に、私はまた声を上げる。

「・・・そうか迷子か、すげえな」

そんな呟きが聞こえてきたかと思うと、
腕を掴まれて引っ張られた気がした。
涙でぼやけた視界を拭ってみると、
背の高いその先輩は私の手を引いて走り出していた。

「よし、ここであったのも何かの縁だ。
 同じ遅刻もの同士、一緒に行くか!走るぞ!」

明るい声で言われた。
先輩の歩幅は大きく、私は必死になって追いかけた。

そして、何て距離は無い。
すぐに昇降口にたどり着いた。

腕をつかんだまま、先輩は走るコトを辞めず、
どこか楽しげに目前にある「新入生受付」と張り紙のある長テーブルに向かって

「セーフッ!セェェェェフッ!」

飛び込んだ。

どんがらがっしゃん

すんでのところで手が離されると、
勢いに乗った先輩はそのままテーブルごと倒れこんでしまった。
とっさによけた受付の人たち(きっとこの二人も先輩だと思う)は
その人をみてとてもびっくりしていた。

「あ、あの・・・」

思わず声を掛けると、

「おー、ケガ無い?
 とりあえず間に合ったな。」

にかっと、私に笑って見せた。
背がたかくて、小さい私には見えなかった顔が、
今はっきりと見えて、
それはとても明るくて、格好よくて、

ぼっ、今度は頭に血が上ってきて暑くなってきた。

「茜ー、その子迷子の新入生。」
「ということは、神海凛ちゃん、だね?」

先輩に声を掛けられた受付の人はそう尋ねてきた。
またとっさに頷いた私に、受付の人はにっこりわらった。
リボンのついた花の飾りをつけてると「ご入学おめでとうございます。」といって、
近くを通りかかった人に私を案内してくれるように頼んでくれた。

遅れて入った教室にはもう皆が校歌を口ずさみ始めていて、
私は急いであいていた自分の席に着いた。
周りの子がちらちらと見てきていて、恥ずかしかったけれど、
とっても不思議な気持ちになった。


今日から中学生。
新しい世界での
新しい生活。

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。」


あの笑顔が頭から離れなくなった。


***
そな春第2弾。入学式。
 2004/05/01→2008/04/19修正











おまけ、未来視点。


「いやぁ、皆若いねえ!」

目の前を行き交う新入生の群れに、
茜センパイは呑気そうな声を上げた。

ここは昇降口の新入生受付。
「ご入学オメデトウございます。」と印刷されたリボンのついた胸花を
その新入生たちにつけてやるのがアタシたちのお仕事。

「やだセンパイ、アタシたちとほんの1、2年しか違わないのに!」

センパイに胸花をつけてもらった新入生の男子は「ありがとう」とたどたどしく言うと
そそくさと教室の中に入ってしまった。

「・・・今の、タメ口きいてましたね。」

少年、この先の人生、年功序列縦社会は大事だぞ。
っていうかよりにもよってセンパイに向かって!
しかし彼よりももっとすごいのがつい10分前に来たのを思い出した。
「僕にもつけてそのオハナ!」と元気に言い出して、
中学生になった喜びをさんざん喋り捲ったあげく、
「じゃあ、バイバーイ!」なんていってさっさかと階段を駆け上っていったのだ。
・・・あれは、アレはありえない。

「つい2週間前は小学生だったんだから、仕方ないって。」

茜センパイは心が広い、というか器がデカイ!
気にせず次々と胸花をつけてやっては「ご入学オメデトウございます」と声を掛ける。
言われてみれば確かに、中学に入ってから縦社会を学んだ。
「お兄ちゃん・お姉ちゃん」から「先輩」と呼び直した年上の知り合いも多い。

「・・・そうですね。」

アタシの呟きに、茜センパイは満足そうに微笑んだ。
センパイには勝てないなぁ。
・・・今回はセンパイに免じて見逃してやるわ、わたりぐち少年(名簿で確認した)。
するとセンパイは今度は「うーん、」と小さく唸った。

「どうしたんですか?」

すっかり人が少なくなって、
あとは雑談をする新入生の保護者がちらほらいるだけだった。
昇降口を入って階段の傍にあるこの受付からは
上の階の賑やかさが煙突効果で聞こえてくる。

「あと一人、きてない。」

指差した名簿の先にあるのは「神海凛」と言う名前。
(かみうみ?じんかい?・・・読めない)
新入生は入学式の30分前には教室に入って、
担任になる先生の紹介、式中の礼や入場の指導、校歌の練習をしなくちゃならない。
(その間にアタシたち在校生が会場に入って新入生の歓迎の準備をする。)
実はもうその集合時間はとっくに過ぎていて、あと15分で式が始まってしまう。
隣の保護者の受付も片付けを始めていて、
さっきまで雑談をしていた保護者もいつの間にかいなくなっていた。

「欠席なんじゃないですか?」
「その場合はちゃんと連絡が入るから・・・」

心配そうなセンパイの声に、すこし居心地が悪くなった。
というか、センパイはこの後「生徒代表歓迎の言葉」をやらなきゃならない。
全校生徒の前に一人立つこの仕事は会長であるセンパイの大切な仕事。
そんな直前に余計な心配を増やすなんて、いい度胸じゃない!

思わずぎりりと歯軋りをし始めたとき、

「セーフッ!セェェェェフッ!」

やかましい声と足音が受付に飛び込んできた。

どんがらがっしゃん

当然、勢いよく飛び込んできたもんだから
ブレーキ何て効く筈もなく、受付の机をひっくり返して倒れこんできた。
アタシとセンパイはとっさによけてその衝撃から逃れると、
その人はつぶれたかえるみたいな格好になっていた。

「いてててて・・・」
「七瀬!」

センパイが大層びっくりした声を上げた。

飛び込んできたのは陸上部期待の星、水沢七瀬先輩。
それと・・・

「あ、あの・・・」

小柄のおかっぱ頭の女の子がいた。
ちなみにこの子は転ばず、倒れこんだ七瀬先輩をみてオロオロしてる。

「茜ー、その子迷子の新入生。」

倒れたまま顔を上げた七瀬先輩は目を回しながら女の子を指差して言いかけた。
茜センパイは七瀬先輩の指差した先を目で追い、女の子を見ると、ぱっと顔を明るくさせた。

「と言うことは、こうみりんちゃん、だね?」
「う、うん。」

女の子は(こうみって読むのか)勢いよく頷くと俯いてもじもじとする。

「よかったー、中々来ないから心配してたんだー。
 そうか迷子だったのか、よかったあ、間に合って!」

しっちゃかめっちゃかになった受付の長テーブルから、
先輩は胸花をとって神海凛につけてあげた。

「凛ちゃんの教室はすぐそこの階段を3階まで上がってすぐね。」

そう言いながらふと顔を上げて、ちょうど横切ろうとした生徒を見つけると

「あ、そこの君良いところに!
 この子を教室まで誘導してあげて、クラスは3組だから。」

そういって手招きしながら声をかけた。
呼ばれた生徒(吹奏楽部の2年生だった)は
顔なじみのセンパイの頼みとあってか快く引き受けてくれた。

「ご入学おめでとうございます。」

そういって、神海凛の背中をポンと押した茜センパイ、
神海凛は振り向き際に小さくお辞儀をするとそのまま階段を上っていってしまった。
姿が見えなくなるまでみおくると、今度は七瀬先輩に向かって言った。

「七瀬ちこくー、委員会の仕事をサボるとはねー。」
「サボるつもりはなかったって!すっかりわすれてたんだって!」
「先輩、それを世間ではサボるっていうんですよ。」


「そう言うあんたもトイレ掃除サボってなにやってんのよ。」

がっしり肩をつかまれ、
振り向いてみればそこにはクラスメイトのアヤウチがいた。


***
ここまで書いておいてなんですが、
私文章書くの久しぶりで感覚ガモドラナイノデース。精進シマース(仮)