ピンと伸ばした葉が生き生き

 
  香りの強いマンサクにワイレッドの猫目柳

消えた鬼アザミ


連日のような氷点下の朝が続き
やっと一息ついた頃
今度は例年になく遅い雪が降った
まさじいが動き出したのは
その雪も消え
どうやら春かなという3月も半ば過ぎ頃だった
家から少し離れた畑に行ってみた
そろそろ手入れをせねば
そんなことを考えながら歩きまわる畑は
ようやく凍てついた土が消えたとはいえ
まさに冬枯れの状態だった
真っ先に猫目柳の所に行って見た
ずいぶん膨らんできて赤味を帯びていた
もう少ししたら切り花にいい
ビロードのような穂はワインレッド
それからその横にそろそろ芽を出しているはずのもの
鬼アザミ
だが見当たらない
まだ早いのだろうか
なにしろ高さが2mにもなり
その花はまさじいの握りこぶしほどもある
多年草の鬼アザミは根っこで冬を越す
だからいつもの場所に太い芽が出ているはず
そう思ったのだが何の気配もない
まさじいが冬眠するような寒い冬だった
いつものようには行かないのかも知れない
もうしばらくしてから来るか
猫目柳の枝を1本手折り
その日は畑を後にした

マンサクはすでに満開を過ぎ
ロウバイ、サンシュウ、レンギョウと木々の黄色が
春をつなぐ
福寿草、タンポポ、水仙と草花も黄を競う
ながめるうちにまさじいも一枚薄着になり
数日が過ぎた日差しの暖かい日
まぶしい陽の光に眼をしょぼつかせながら
再び畑に来てみた
譲っていただいた一株の鬼アザミも
今では三株に増えていた
圧倒的な大きさの花を楽しんだのは幾春だったか
今年はもっと数を増やしたい
そんな思いの楽しみをたずさえ
散歩を兼ねての訪いだった
猫目柳はさらに赤味を増した
花の数も増えた

さてさて鬼アザミはどうだろう
だが芽を出してはいない
かがみこんで探してみる
よく見るとモグラのような穴を掘った形跡がある
あわてて掘り返してみる
するとどうだ
大きな鬼アザミの根株の中身がない
まわりの皮のような部分だけが残り
中身がすっかりなくなっている
食われてしまった
何者かが鬼アザミの根を食ってしまった
まずい
他の株はどうした!
まわりを手探ると穴が四方に続いている
慌ててまわりを掘り返す
だが他の株も同じだった
みな食われてしまった
野ネズミの仕業か!
まさか根株を食われるとは考えもしなかった
呆然と立ち尽くす
手塩にかけて、とは言えないが
楽しみにしていたものを失くしてしまった
例年にない寒い冬
飢えた野ネズミたちは思わぬごちそう
眠り惚けたまさじいは思わぬ失望
鬼アザミが食われて
まさじいの中で鬼アザミが更に大きくなる
寒かった冬
注意を怠ったというより思いもしなかったこと
鬼アザミは消えた、と考えるしかない
いつかここに
ぽっかり空いた空間に鬼アザミを
探してくるほかあるまい
だが、まてまて
同じことをくりかえすことはない
まさじいの夢
新たな庭にこそふさわしい




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