マルハナキバチは外来種のだんご蜂

 
     在来種のだんご蜂

だんご蜂?


白藤の匂いが一段と強くなった頃の
よく晴れた昼前
まさじいはそれに気づいた
庭の
県道に出る通路を
庭木の手入れで行き来するたびに
邪魔する奴がいる
正確に言えば
まさじいが邪魔をしていたのかも知れないのだが
ちょうど立ち止った目の前の
まさに目の高さよりわずかに高いところ
50センチほど先に
そいつが静止したりする
団子蜂だ!
だが少し感じが違う
何となくてかてかしている
動きが速い
そして何より奇妙なのは
じっとこちらを窺っているように見える
にらむように、だ
かと思うと尻を向けて静止する
勿論はねは目に見えぬ速さで動いてはいるが・・・
そんなことが幾度か繰り返されて
こいつが何をしているのか、に思い至った
「こいつは自分を威嚇してる!」
向き合う
正面から睨む
目の高さだ
そいつが尻を向けて迫ってくる
かと思うと急に飛び去る
大きさと言ったら
まさじいの目の大きさと変わらない
もっともまさじいの目はずっと細いが

近づく虫に飛びかかる
まさに追い出している、という感じだ
同じ姿の蜂に対してもだ
衝突すると睨みあったまま空に昇っていく
5〜6mも上昇して分かれると
追い出した奴がまたもとのところに戻ってくる
その動きを追うのさえ苦労する速さだ
縄張りを持っているとすぐにわかった
ただ、蜜を吸う蜂なのだ
藤の花より数メートルも離れた通路で
なぜそんなことするのかわからなかった
縄張りなら、と通路の先を窺うと
何と10mほど先にもう一匹
横を見ればそこにも一匹
ずいぶん奇妙な蜂だ
人間に対してまで
尻を向けて威嚇し、追い出しにかかる
そんなことってあるんだろうか
何て奴だ
そこに至ってこれは、と
携帯のお出ましとなった
なにしろ空中に静止するのだ
睨む
尻を向ける
これなら何とかなる
睨みあいを続ける間がチャンス
さあシャッターを、と構える
ま、それほど事は簡単ではなかったっけれど
精悍なそいつの姿を切り取ることができた

団子蜂は花の蜜を吸う
ミツバチのように手足を花粉だらけにし
花から花へと移動する
かぼちゃの花に入ったらしめたもの
花の先をふさいでしまうのだ
閉じ込められた蜂は
キーキーはねを鳴らして怒った
子供のころそうして遊んだものだった
だが、いたっておとなしい
ただ黙々と花から花へ移動する
それが日本の蜂だ

人間を威嚇する蜂
まさじいは聞いたことがなかった
見たのも初めてだった
まわりは梨畑
庭には次から次へと草木の花が咲く
蜜を吸う昆虫は多い
それでも今まで見なかったと思う
気性の激しさが際立っている

それから数日して
それがマルハナキバチだと知った
イチゴを栽培するビニールハウスが近くにある
そこでイチゴの受粉のために
外国種の団子蜂を使った
それがそうだという
ビニールハウスから逃げ出したものらしい
本来外に出してはならないもの
それがこうして人間を威嚇している

外来種の生物では世界中が困惑している
だがこんなにあっさり
ごく身近に
見知らぬ昆虫が入り込んでいる
印象が強かっただけに
まさじいの思いは複雑だった

数週間で見かけなくなった奴が
今どこにいるのかは分からない
しばらくすると
在来種の団子蜂が蜜を吸っている
結構数がいるのを見て
まさじいは安心した
だが団子蜂が群がっている花は
真っ白な藤の花だ
それがきつい匂いの西洋藤であることで
まさじいはまたしても複雑な思いに囚われた



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