この道路の縁石のもとに咲くなんて信じられる?


 写真に撮ってと言っているような美形です

ホタルブクロ

その朝
ふと気が付いた
花が咲いていることに気付いたのだ
咲いているその姿を見れば
何日も前からのはずなのに
30センチ横を歩いていて気がつかなかった
まさじいにとっては
そんなところにあるはずのない花だった
ホタルブクロが咲いている

場所は
片道2車線の幹線道路
歩道と車道との境の縁石の下にたまった
わずかばかりの土に
一列になってへばりつくように咲いている

気付いた時
花は5、6輪が満開だった
背丈は30センチもないくらいの寸足らず
そのしぶとさに
まさじいは思わずため息をもらした
早朝の
幾分暗くて人も車もごくわずかな中
しゃがみこんでしばし見とれてしまった

もともと野生の草だ
普通は他の雑草に負けまいと
背伸びしてひょろひょろ伸びる
だがただ伸びるだけ
何かに寄りかかっていないと倒れてしまう
草むらの中が似合う草なのだ
花は野草のホトトギスのような紫色の花で
うつむいて咲くところは
どちらかと言えば地味で
名の由来の通り蛍が舞う6月に咲く
それを庭に移植すると
往々にして花が白くなってしまう
アジサイのように土に影響されるのかも知れない

この花が好きだという女性がいたな
性格的には地味だろうか
だが誰かにもたれかかって生きるような
そんな人ではない
ホタルブクロを見ると思いだす

眺めながらあれこれ考え
そして
なんでこんなところにと思う
周りを見渡す
道路沿いには店舗やアパートが並ぶ
その中に一軒の住宅があった
比較的広い庭が雑草に覆われていて
人の住んでいる気配があまりない
だが植物を好んだ住人がいた形跡がある
あらためて庭をのぞきこんでみるが
ホタルブクロは見当たらない
そこから逃げ出したのだろうか
それにしては今の場所の方が住み心地が悪そうだ

もう一度戻って眺める
するとどこからか声が聞こえた
歌声にも聞こえる
何か言っているようにも聞こえる
だれか連れとおしゃべりしながら歩いてくる
そう思って振り返る
だが歩道のずっと先まで人影はない
老いたな、まさじいも
空耳か

それにしてもかわいそうである
これじゃ明日がない
今を生きるだけで精いっぱいだ
まわりはアスファルト
それとコンクリート
次に根を下ろす場所がない
そんなことを考えながら眺めていると
歌声が聞こえる
やはり誰かがうたっている
じっと耳をすませるが
どこから聞こえるかわからない
いくら耳をダンボにしても
わからない
あきらめてそこを離れ
歩きの続きを始める

ずいぶん明るくなった
明るくなるのが早くなった
だから気付いたのだろうか
それからホタルブクロのことを考える
声が聞こえたことを考える
ひょっとしたらホタルブクロの花たちが
歌っていたのだろうか
今咲いていることの喜びを

否、厳しい環境でやっと咲いた
そう感じるまさじいの耳が
勝手に歌声を聞いたかな
明日のことは関係ない
今がすべて
ホタルブクロの花たちは
その喜びを歌っていたのかも知れない
明日のことを心配するまさじいが僭越(せんえつ)か
今を精いっぱい生きる
それが結果につながるのかも知れない
あっけらかんと歌おう

明日また眺めよう


ページトップはこちら