毎年この赤を見るのがまさじいの楽しみ

 
 もうだめだ〜

そして悲劇は起こった



つた蔓(かずら)が色づくころになった
またあの鮮やかな赤を見に行こう
今日は掛け値なしのインディアンサマー
こんな日はそれがいい
いつもの散歩コースより長めになってしまうが
彼が喜ぶのは確か
愛犬アレどん
彼にあわせて手に持つ缶ビール
そう言われては迷惑かな
でも本当はかなり危ない
彼の走り
やっぱり美しい
躍動感
まさじいのとうに忘れたもの
それが彼の中で踊っている
猪突猛進がなかったら
いや、あるからまさじいと釣り合う

散歩道の雑木林
まさじいが手入れをはじめてずいぶん時がたつ
昔に比べればきれいだ
だが、と次の一手を思いながら
手にしたビールを一口
枝を広げた木々の天井図
確かに狭い
空を見上げると窮屈(きゅうくつ)なのだ
なのに、間伐はせつない
そのうちやろう
そう言い聞かせてまた一口

歩きはとことこ
あっちに立ち寄りこっちに立ち寄り
見ていればわかる
道のまん中になんて何にもない
そう言っているのだ
アレどんに聞いてみるか
路肩に何かおもしろいことあるの?
そしてまた一口
やっぱり今日も未解決

やがていつもの停留所
ミツバチはどうだろ
活発かな?
ブロックの土台
物置の床下に作られたミツバチの巣
通るたびに覗き込む
さてさて今日は・・・
うわっ!
オレンジと黒のまだら模様
何かをあさるように這いまわる蜂
大クマン!

大きい・・・
まさじいがミツバチなら
マンモスか

ふさがれた小さな入り口
戻ってきて
巣に入れず群れるミツバチ
あっという間につかまり肉団子
運ばれていく
なすがままだ
ミツバチにはなすすべもなし

スズメバチの動きは遅い
とっさにまさじいの足が動く
たかだか数匹
踏みつぶしてやれ!
何度も繰り出すまさじいの靴
何だ何だとアレどん
そして彼の悲鳴

這いまわるスズメバチの狩
動きは遅い、と惑わされたまさじい
反撃は想定外
痛い!
思わず頭を抱える
わずかに残っていた黒い髪のあたりに激痛が
逃げ帰って
病院での緊急治療
無謀のそしりが責め立てる
それもこれも大好きなもののやりすぎ
負け惜しみか・・・
まさじいは思う

とばっちりはアレどん
背中のこげ茶の斑点が災いした
食いつかれ、刺される激痛
悲鳴と共に
とっさに蜂を食いちぎる
転げまわる彼に群がるスズメバチ
逃げだした
転げるように、はまさじい
跳ねるようにはアレどん

刺されたところを触らせない
あれからもう数日
アレどんの背中に針が残ってしまった
まさじいはすぐ気付いた
かわいそうなことをした
ミツバチに加勢したまさじい
あと先もない行為ではあった
たとえ見ていられなかったとしても

押さえつけられての治療はアレどんの本意ではない
蜂を嫌いにさせてしまって
それはまさじいの本意ではない
赤いつた蔓
きれいだろうな
軽い気持ちの始まりと
悪夢の戦闘
まさじいの一人舞台

結果
何が何だかわからぬまま
アレどんの数日は
痛い秋の思い出になってしまった
悪かった、アレどん



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