大内宿で買った民芸品のガマ


 大内宿はいいね


 家のまわりにたくさんいるコゲラ

田舎の朝


初夏のある朝
お母さんにたたき起こされた
「おとうさん、大変!」
まだ6時前、もう少し寝ていたい時間
あわてて布団から飛び出した
「ちょっと来て」
と、小さな声で言う
大変、と言う割にせっぱつまっていない
だからと言ってのんびりしてもいられない
二階から階段を下りるのに忍び足だ
一体どうしたことだ
どろぼうか!?
眠気が吹き飛ぶ
後をついて行くのにやっぱり忍び足だ
一階につく頃秘密を打ち明けるように言った
「大きなカエル、ガマガエルがいる!」
「何?」
「庭で鳴いているのよ・・・」
そうやって庭に面した和室から外を覗く
うん、確かに鳴いている
ゴロゴロゴロゴロ
だが、後ろから外を見ても見当たらない
「どこにいるの?」
「それがわかんないのよ、声は聞こえるんだけど。
 だから呼んだの」
「何で見えないのにガマガエルってわかるの?」
「だってうちのカエルにそっくりじゃない!」
「うちのカエル?」
「ほら、大内宿で買ってきたの」
「え〜?あれかよ」
確かにうちにはカエルがいた
見た目
よくぞここまでと言うほどガマガエルだ
貫録が違う

大内宿に毎年一度は行く
宿場を一往復して土産品を見て回って楽しむ
それからソバを食べて帰る
それだけなのに毎年だ
そしてある年見つけたのがカエルの民芸品だ
最初、大小ずらり並んだそいつらを見た時
びっくりした
こげ茶色のカエルがずらりだ
そいつらはそれぞれが棒をくわえている
すかさず店のおばちゃんがデモ
くわえている棒を抜くと
カエルの背中に並んだ突起の上を
尻から頭に向かってスライドさせた
すると、見事
ゴロゴロゴロゴロっと鳴いた
「すご〜い!」
一発で気に入った
手に取ってみると彫がまたすばらしい
何でこんな風に彫れるんだろう
カエルの中が空洞になっている
いい音が出る所以だ
見事にくり抜いてある
当たり前だが
大きさによって鳴く音が違う
楽しくてついつい全部の音色を確かめた
そうしながら覗いてくる客に
自分のもののように自慢してしまった
まだ買ってもいなかったのだが・・・
お母さんはさっさといなくなってしまった
後で言うには
恥ずかしくて一緒にいられなかったらしい
ところでこのカエル
色、形からしてガマガエル
だが、残念なところが一つ
リズム的にガマガエルにならないのだ
トノサマガエル、だろう
結局、一番気に入った音色
コロコロコロコロ・・・
10センチサイズのを一つ買った
それがうちのカエルだ

さて、それから二人で音を頼りに探す
家の中をあちこち移動して外をうかがう
だが見つからない
そんなに大きなガマガエルなら
これだけはっきり鳴いているなら
そうやって探しているのにだ
仕方なく二階に上がり
そこから外を覗く
音のする方を見て、ひょっこり発見!
え?あれなの?
なんとそれは巨大ガマガエル?
には、似ても似つかない生き物だった

さっそくお母さんを呼ぶ
「お母さ〜ん、見つけたよ〜」
「本当〜?」
階段をドタドタ上がってくる音が聞こえる
二階の窓から覗いていると
「どこどこ?」
と言って肩の上から覆いかぶさるように
身を乗り出してきた
「おかさん、ガマガエルじゃなかったよ」
「え?じゃ何なの?」
「あれ!」
と言って指をさしてもわからない
わからないのもそのはず
そいつは庭を這ってはいなかったのだ
犯人はコゲラだった
音を聞かないと場所はわからない
コゲラは目立たない鳥だ
保護色なのだろうか、全体が灰色がかっている
ところで、コゲラの鳴き声ってどんなだった?
トンと記憶がない
そう、鳴き声じゃなく音なのだ
コゲラと言えばキツツキの仲間
突ついていたのだ
それも何と竹だ
松の木の支えの太さ10センチほどの竹
そこにつかまって盛んに頭を動かしている
それにあわせて
ゴロゴロゴロゴロ・・・

音につられて移した視線の先に
やっと目にしたお母さん
「え?あれなの?」
信じられない様子だった
と言うよりはむしろ残念そうであった
まったく、おお騒がせの朝だ
うちのカエルは10センチ
それよりずっと低く鳴くガマガエルは
どんなに大きかったろう
ちょっぴり残念な気もする
そんな奴なら見てみたかった
それにしても、お騒がせの朝だ
ま、面と向かっては言えないが・・・



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