やっと見つけ出した写真は四半世紀ほど前のもの
  しかも親子のツーショットが二枚だ
  丁度以下に登場する時期のものと思われる
  実はもっと素敵なものがもう一枚見つかったのだが
  なにしろお母さんの顔をアップしなければならなくなる
  物語に出てくるそのものなのだ
  だから残念ながらアップできなかった
  本当に仲のいい猫の親子だった
  上品なめめ、母親思いのぺんぺんでした


 上品な“めめ”が左、美人の“ぺん”が右

めめとぺんぺん

むかしむかし、そんなことがあった
考えれば考えるほど
そんなことがあったんだ
と、そう思う
まず面白かったな
今だから思う
この思い出には
時間の大幅な巻き戻しが必要になる
親父がまだ若く
お袋もバリバリだった
何よりお母さんが若かった
まだ娘たちが小学校に上がる前
だからずいぶん昔の話だ
家に伝説の猫がいた
彼女たちのことを、少し

家族で実家に戻ったのは転勤になったから
お母さんも二十代の後半
そんなころだった
ずいぶん昔の事だ
そのころ家には二匹の猫がいた
親子で
顔と体つきがよく似ためす猫が二匹
とは言え肌にまとった三毛が全く違う
それだけを見れば
とても親子とは見えない
それどころか
性格や得手不得手が
全く違う
どうしてと思うほどだから
ま、それぞれを思うがままに
表現するしかあるまい

見た目はともかく、性格があまりにも違う親子
それが同じことをした
娘が親のすることを真似したのかも知れない
それに違いない

その前にそれぞれの紹介を
めめ
おかあさんが顔見知りになった時
すでに十年以上も家猫だった
体全体がほとんど白
それでもわずかに頭と背のあたりが三毛
ぽっちゃり
お嬢様そのまま
子供を産んでも育て方がわからない
妙な猫だった
おかさんが実家に戻ったあとも
そんなめめとのおつきあいは続いた
長生きした

ぺんぺん
波乱万丈だったな
めめの3度目の子供
見るからに三毛猫
小紋のきものを着たような細身の美形
めめの子供を育てることもあった
晩年
交通事故にあって
下半身が不自由になった
それでも長生きした

彼女たちが生きたその時を
家族のみんなが思い出を共にした
そして一番の思い出
残念ながらお母さんの
つまり、まさじいとのかかわりではない
台所での出来事だから仕方ない

そう
台所
カツオをマナ板でさばく
勿論おかあさん
さあ、さばき始める
そうするとめめのお出まし
お母さんの背中にトンと飛び乗り
(本当にテーブルから飛び乗るんだ!)
お尻を左肩に
頭を右肩に置き
まな板をじっと窺いながらねだる
にゃ〜、と優しい声
ねえ、ちょうだい・・・だろう

もうおかさんの顔がニタついている
ほ〜ら、食べる?
何かと食べさせる
ま〜何というか
何も言うことはない
ただお母さんとめめが楽しんでいるだけ
そんなだから
長生きした
そういうわけでもないだろうけど
不思議な光景だった
そうそう、ちょっと付け加えなければならない
このめめの行動は
なんとお袋が台所に立っている頃に始まったのだ
ずいぶん仲よくしていた
たぶんめめの体の置き方、尻と頭の
それはお袋が教えたものなのだ
何と言っても不器用なめめだったのだから

それが
ある日お母さんの叫び声
ぎゃ〜
ぺんぺんのバカ〜
台所で魚をさばいていたはずのお母さん
一体どうしたのだ・・・
ぺんぺんの奴、横からカツオをかっさらったか!
そんなに腹が減っていたのかな?
ま、そんなに大ごとじゃないな
お母さんの様子がそう言っている
痛〜い
ぺんぺんのへたくそ!
爪を立てた〜

爪を立てたって何だ?
聞いてみれば何のことはない(失礼!?)
魚をさばくお母さんの背中に飛び乗る
その際に落ちないよう爪を立てたのだ
めめを真似たのか
カツオをねだろうとお母さんの背中に飛び乗ったのだ
だのに
何かが違った
結局体の置き場所をお母さんに教えられ
カツオをしっかり味わったようだ

それからこんなこともあった
めめ、床に置いた新聞を読むお母さんの背中に乗る
だいたいがそんな恰好で新聞を読むこと自体おかしいのだが
土間からの上がりかまち、膝を立てて両腕を床に置き
新聞に覆いかぶさるようにして読む、よくやっていたのだ
なんでなのかなと思うが、それが好きなのだ
特等席に居座っためめ
あったかいから、かな
そうするとお母さんが動けなくなってしまうのだ
動いたらかわいそうと思うからだ
そして、やがて叫ぶのだ
めめ、疲れちゃったよ。もう降りて〜!
(なんてことはない、これがアップできない写真なのだ)

次は、ぺんぺん
当時(というのは1980年代頃までかな)
産直のトラックがよく来た
小名浜直送〜!
トランペットスピーカーが叫ぶ
田舎
行商のトラックは魚だけじゃないが
それぞれにいつも同じ演歌
だからぺんぺんは演歌がわかったんだ
魚の匂いがする演歌が

門口に車が止まる
さあそれからが大変
魚を買うつもりがなくて
だから聞き流してる
するとぺんぺんが呼びに来る
にゃ〜
にゃ〜
あ〜ぁ
仕方なくお母さんのお出まし
ぺんぺんが先頭に立って歩く
もう、曲がった尻尾を目いっぱいぴんとたてて・・・
まさに魚屋さんの勝利
ぺんぺんにはしっかりおこぼれがある
刺身にさばきながら
何かと気遣う
毎回これだもの

さてさてお次
めめの得意技は狩
すずめを追って軽々ジャンプ
そんなのは日常茶飯事
ある日
家に帰るとお袋の手打ちうどん
そのうどんの汁が何と
めめから巻きあげた
やまどりだという
やまどり
山鳩より大きい
いつもあいがもの親子のように子供を引き連れぞろぞろ
雑木林の主だ
ちょっとにぶいところはあるが
だとしてもそうそう隙は見せない

それが餌食になった
家猫は自分の狩を自慢する
めめは自慢する
見事な成果を
運ぶのも大変な獲物を
得意げに見せる
めめ!なんでそんなに手放しで?

や〜
すごいね、めめ
ど〜れ見せて
そしていつの間にか獲物は親父の手の中
はて、めめは少しは口にしたのだろうか
そうしてうまいうどんをいただいた
さぞめめは文句を言ったろう

狩にまつわるめめの話は
数限りない
めめとぺんぺん
狩りは得意なのに子育てができないめめ
器用に見えるのに狩りは蛇やトカゲだけのぺんぺん
長生きして
まさじいの家族に
限りない思い出を残した
だから今でもめめとぺんぺん

近所の小さな子どもたちは
ぺんぺんちのおばちゃん
そう呼ぶ


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