茨城県の鷲子山(とりのこさん)神社の土産品
  −平成25年、寺子の江戸彼岸の夜桜を観に行きました。
   そこでフクロウの鳴き声を聞きました。まだいるね−

間もなく夜明け


ある寒い夜
ギョッとして目を覚ました
枕元で鳴いている
ホー ホロスケ ホー
ん?
鳴いている
本当にあれか?
あいつが鳴いているのか?
間もなく夜明け
すっかり目が覚めてしまい改めて耳をすます
折しも三月の新月
月明かりもなく
起き出すにはあまりに寒く
体を固くしたまましばらく・・・
ホロスケ ホー ホー
わっ、本当に鳴いている!
でも、かなり遠くから
あ〜、残念
たった今枕元で鳴いていると思ったらもうあんなに遠くに
それにしてもいるんだ
今でもいるんだ!
まさじいはもっと鳴き声を聞こうと耳をダンボに
布団の中で体を固くして身構えた

すいぶん前の冬の初めに聴いて以来だ
その時も朝方だった
出勤のため早朝の暗いうちに起き出し
車庫から車を出した時
遠くで鳴く声
ホロスケ ホー
を聞いたのだ
ああ、まだいるんだ
その時はそう思った
だが、それからずいぶん長い間聴くこともなかった
本当に忘れていた

昔・・・

小学校にあがっていただろうか
そんな昔だ
虫歯が痛くて泣いていた
夕ご飯のころだろう
農作業をして一日働いた母親が
あり合わせのもので夕食の準備に忙しい時間だ
家の裏のヒバの生け垣が北風に悲鳴をあげている
ギー、ギー
だが虫歯の痛みに聞こえるはずもない
いくら泣いても
母親にはどうにもしようがなかったのだ
そしてうるさく泣き続ける息子に言った
「ほら、聴いてみろ・・・ホロスケが鳴いてっぺ」
「いつまでも泣いてっとホロスケに連れていがれっと」
びっくりして耳をすます
確かに鳴いている
ホロスケ ホー ホー
北風ときしむ木ずれの音に交じって聞こえてくる
怖くなって囲炉裏の火囲いにしがみつく
じっと耳をすまして
いつまでもしがみついて

それらは夢の世界だったか

確かにフクロウが鳴いていた
夜に鳴くそれが鳥であることを教えられた
見たこともない恐ろしい鳥が
子供をさらっていくのだという
泣いている子供を見つけては
さらって行って食べてしまうのだという
歯の痛みも忘れて耳をすまし
いつか寝入ってしまう

あの頃は
よく火囲いにつかまったまま眠ってしまった
虫歯が痛くて
お腹がすいて
でも泣き疲れたままいつか眠っていた
今思い出すことの断片は
フクロウと共にやってくる
そうでなければ決して思い出すことのないような
ごく些細なことだ
たぶん、まさじいのころまでの
風景画みたいなものかもしれない

それほど懐かしい鳴き声
それを枕元で聴き
それをずっと離れたところで聴き
もっと聴きたいと身構えて息をこらす
あんなに遠くに飛び去って
また聞けるんだろううか
そして耳をすます

ホロスケ ホー ホー ホロスケ ホー
わっ!
まるっきり枕元!
桜の木だ
家を抱え込むような大木の桜の木だ
頭から直線距離にしたら3m
そんなだ
また戻ってきたんだ!
ホロスケ ホー

う〜ん、遠い
2羽いるとしか思えない
そうか、呼びかわしているんだ!
すごい!

目にすることができない生き物
それが今耳元にいる
恐怖の仮面をかぶってまさじいをおびやかした
ホロスケ
変わってしまった環境でもまだいる
よかった

それからいくらもたたないうちに
彼らの鳴き声は聞こえなくなった
移動した
食事場所を変えたのだろう
ホロスケと教えられたフクロウが
まさじいの夢の中で鳴くのは
遠い昔に戻った時かもしれない
だが、彼らはしたたかに今を鳴くのだろう
そうあってほしい



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