病原体
                              
  
                              
「 情報は知識にあらず 」  アインシュタイン


  20世紀半ばまで、人類にとって最も恐ろしい病気は結核菌をはじめとする様々な病原体でした。抗菌薬の発明により、現在ではその恐ろしさを忘れていますが、病原体の恐ろしさは今も変わりがないはずです。人と細菌の戦いは生物間における生存競争であり、細菌は人体の生態防御機構から逃れるために絶妙な進化をとげています。特に抗菌薬の切り札ともいえるバンコマイシンにも耐性を持つMRSAが生まれ、O157の様な毒素を産生する大腸菌が生まれる現在、患者さんを治療するにおいて、サブラクセイションに目を奪われているだけでなく、細菌による感染症に対しても注意を向けなくてはなりません。先天的治癒能力が著しく落ちた老人、子供、糖尿病や腎臓疾患等の病気を持っている人、病み上がりの人を治療する時、サブラクセイションを矯正することにより病気とその進行を予防するという治療姿勢だけでは、適切な治療が遅れ勝ちになる危険性も否めないと思います。

感染症が腰痛の原因?
 よく風邪をひくと体の節々が痛くなると耳にしますが、サブラクセイションが見つからないのに関節痛を訴える患者さんに出会うことがあります。この様な患者さんは風邪が治ると関節痛も消えてしまうのが一般的です。医師による抗菌薬の選択が正しい時、関節痛がクリアーに消失する経験から、痛風、リュウマチ以外に関節痛の原因として感染症が考えられるのではないかと思う次第です。

感染症は隠れた死因の第一位?
 平成15年度の日本の死亡原因の第一位は癌で30.5%、第二位は心臓疾患で15.7%、第三位は脳血管疾患で13.0%、第四位は肺炎で9.3%で、上位四つの原因だけで67.8%になります。山田 毅著「病原体とヒトのバトル」によれば、「Scientific Americansによると、癌の約15%はウイルスや細菌等のような微生物によって起こるという。米国における癌の原因調査では、喫煙は約30%、食事も約30%の原因を占めた。残りの40%の主なものは感染症である。・・・・・慢性結核症のヒトは、最後には、結核により死亡することが多いが、幸運にも結核に耐え生存している患者は、最後には肺癌で死亡することが多いことは、米国でも日本でも疫学調査でわかっている。チフス菌の保菌者は肝・胆嚢癌や膵臓癌を起こしやすいことが多いし、慢性真菌症患者に肺癌が多く、分裂菌属のクロスチジウム・セプチクムと呼ぶ菌は強い免疫抑制をもつので結腸癌を起こしやすい。アンギノーズス・レンサ球菌は食道癌と口腔癌を起こしやすい。それどころか、あらゆる感染症は、ヒトに活性酸素を産生させ、これが慢性化すれば、癌だけでなくほとんどあらゆる慢性疾患を誘導しうるのだ。」とあります。感染症はいつまでも怖い病気であり続けています。この感染症への的確な治療は、今のところ感染症と関係があるとは考えられていない慢性疾患を予防する上でも大きな治療分野になりうるようです。

筋力検査による細菌感染の判定法

 細菌感染の問題において最も困ることは、医師が必ずしも適切な抗菌薬を選択するとは限らないことです。発熱、咳その他細菌感染によると思われる症状があると、開業医は病巣由来菌の耐性検査を実際の臨床の中で患者さん毎に行うことはできないので、その結果を待たずに広域の抗菌薬を投与しているのが一般的だと思います。医師に効かない抗菌薬を処方された状態で、腰痛その他の愁訴を持ってカイロプラクティックの治療室に来る患者さんは多いのではないでしょうか。細菌感染があり、なおかつサブラクセイションに苦しんでいる患者さんはさぞかし大変だろうと推察する次第です。この様なケースにおいて、サブラクセイションのアジャストメントによって、患者さんの自然治癒力により病原菌に打ち勝つことができるなら、カイロプラクティック治療としては理想的ですが、その様なケースはあまりありません。ではカイロプラクターは医師が処方した抗菌薬が病原菌に効いているのか、アジャストメントが治癒能力を高めて患者さんを救うことができるのかをどの様に判断したらよいのでしょうか。

 その手段として、私は筋力検査のセラピローカリゼイション(TL)を工夫して利用することを提案します。なお、日常の診療において、各患者さんが医師から処方されている抗菌薬や様々な薬を一日分だけ預かり、項目別に揃えておくと、薬の必要性とその適否だけでなく、愁訴の病因を推定する上で有力な武器になります。

(細菌感染の有無の検査法)
 TLの工夫とは次のようなものです。まず患者さん又は第3者の手背面を患者さんの体表にTLさせ陽性部位を探します。手背面TL陽性部位があるなら、そこに炎症があると推定できます。次にステンレス棒を握らせ、炎症部位にTLさせます。TL陽性になるなら細菌による炎症が起きていると推定します。サブラクセイションのアジャストメント後、TL陽性が陰性になるかを再度検査します。陰性になるなら、カイロプラクティックの哲学が実践されたことになります。陰性にならないなら、医師に適切な抗菌薬を処方してもらわなくてはなりません。ただ、原因となる病原菌に有効な抗菌薬を処方してもらえるか否かが問題です。

(抗菌薬の選択と服用量の検査法)
 有効か否かを判断するため、まず患者さんの体表にその抗菌薬を乗せて再度ステンレス棒でTLを行います。TL陰性になるなら、その抗菌薬が正しい選択となります。TL陰性にならないなら、陰性になる抗菌薬を探してもらわなければなりません。

 次に、その抗菌薬の副作用を検査します。アレルギー反応の有無を検査するため、抗菌薬を腹に乗せた状態でコルク棒で全身をTLします。どの部位でもTL陰性になるなら、アレルギー反応は起こらないと推定できます。TL陽性になるなら、TLした部位にて何らかの副作用があると推定できます。

臨床において
 症状の原因が感染症であったということはよくあることです。反対に、感染症でもないのに抗菌薬を延々と処方され、その副作用で苦しんでいる患者さんもいます。その副作用で最も心配なのは、最近話題になっている腸内細菌の構成を破壊する可能性があることです。その他に、新しい抗菌薬に対する耐性菌が早期に出現する理由にもなっています。我々としては、筋力検査で感染症が症状の原因であると推定できるなら、カイロプラクティック治療をすることなく、病院に行くよう患者さんを説得しなければなりません。