カイロプラクティックは近代西洋医学の補完代替療法になりうるのか

 
補完代替療法に惑わされないためのヘルスリテラシーを高めることを目的とした大野 智 著「民間療法は本当に効くのか」(化学同人)を読んでいて、カイロプラクティックが近代西洋医学の一部でも補完代替できるのか考えてみました。

 補完代替療法の対象として分かりやすい腰痛を例にして考えてみましょう。整形外科医で構成される腰痛学会によれば、腰痛の85%は原因不明としていますので、腰痛に対する治療はその多くが対症療法ということになり、治る治らないは患者さんの治癒能力に頼るしかないというのが実情なようです。このことは、カイロプラクティックの評語である[Adjust it.Leave it alone.]のサブラクセイションをアジャストして、後は自然治癒力に任せるというのに似ていて、治療の不確実性の最も分かりやすい例と言えるのではないでしょうか。では腰痛の原因で不明な割合の内、サブラクセイションの割合はどのくらいあるものなのでしょうか。私の経験では、症状の程度に関係なく、2~3割の患者さんにはカイロプラクティックは即効性があります。おそらくサブラクセイションが原因だったのかもしれません。しかし、残りの8割近くは脊柱の可動性が制限されていて矯正したとしても、即効性はなく、時間の経過とともに少し楽になるか、全く変わらない患者さんがいる一方、そもそも可動性が制限されていない患者さんも多くいます。従って、カイロプラクティックの哲学がいう「病気の原因はサブラクセイションである」と割り切ることはできません。臨床では腰痛の原因の正確な診断が求められていますが、それができない現状であるため、患者さんは様々な補完代替療法を渡り歩くということになるようです。

 近代西洋医学の世界では、EBM、根拠に基づく医療を目指していますが、根拠となる結果というのは臨床試験に参加した患者さんの集団を対象にしたもので、個人の体質を考慮したものではありませんので、効くか効かないかはやってみなければ分からないという悩ましい現実があるそうです。医療の世界は案外、科学で証明されないことで動いていることが多いのかもしれません、と著者は述べています。その医療の不確実性が大きい分野に補完代替療法が多く集まってくるようです。だからと言って、カイロプラクターが症状が楽になるなら何をやってもいいということにはならないのであり、サブラクセイションを見つけアジャストすることだけに傾注するのではなく、サブラクセイションが見つからないなら、少なくともカイロプラクティックの検査方法で他の原因を探すというアプローチが求められるはずです。

 従って、カイロプラクティックもEBMに基づく治療を目指すべきと思いますが、その検査法が感覚的な検査法に限られるため、西洋医学とは違う理由によるより大きな治療の不確実性が存在します。即ち、カイロプラクティックの本場アメリカでは、脊柱全体の可動性をつけることを目的としたジェネラルアジャストメントのグループとサブラクセイションのみを矯正するスペシフィックアジャストメントを良しとする2つのグループに分かれています。さらにサブラクセイションのメジャーマイナーに対する考え方でも各カイロプラクターの考え方は分かれており、治療方法の再現性がまったくないのです。この様な現状を考えると、アメリカでもその指導を受けた日本でも、カイロプラクティックが西洋医学の一部でも補完代替の関係を作れるとは思えません。カイロプラクティックの法制化運動が続けられていますが、いかに教育体制が整備されたとしても、この困難な課題を克服することは、その性質上未来永劫できそうにないというのが、開業して40年になる私の結論です。結局、カイロプラクティックはその哲学に従って独自の道を生きていくしかないようです。

 因みに、著者によれば補完代替療法で最も多いのはサプリメントで、それに関して人々のヘルスリテラシーを高める必要があると強調している一方、カイロプラクティックに関しては残念ながら本文中で触れることはありませんでした。

令和4年9月1日