「腎臓が寿命を決める」
老化加速物質リンを最速で排出する
黒岩誠 著 (幻冬舎新書)
寿命と体の大きさ
動物は体が大きいほど長生きする傾向にあり、ネズミは3年、ウサギは10年、羊は20年、ゾウは70年といった具合です。一方、この傾向から外れて長生きする動物たちもいます。30年程生きるコウモリやハダカデバネズミ、そして、人間です。著者が血中リン濃度を測定してみると、血液中のリンが少ない動物ほど寿命が長い、即ち体内にリンをためがちな動物ほど寿命が短く、リン排出の調整能力が高い動物ほど長く、寿命と血中リン濃度にはきれいな相関関係ができるとのことです。ハダカデバネズミ、コウモリ、ヒトなどの天敵の少ない動物は、生存を脅かすリスクが少なく、自分の体の調整機能を進化させるだけの余裕があったために、高性能の腎臓を備えることができたのかもしれません。
腎臓は「ネットワーク管理システム」を構築している
腎臓は尿をつくる臓器であるとともに、体内の「必要なもの」と「不必要なもの」を仕分けして、血液や体液の成分バランスを調整しています。その他にも血圧を調整したり、ビタミンDを活性化したり、造血ホルモンを分泌したりして、骨、肝臓、肺、心臓などの各臓器とネットワークを構築しています。血中リン濃度の調節では、主に骨と腎臓が連携して行っています。骨が出すFGF23は体に必要なリンの量を腎臓に伝えるメッセージ物質で、これを腎臓のクロト―遺伝子が作るタンパク質が受け取り、リンの排出量が決められているとのことです。
リンが老化を加速する
体内のリンの80%は、骨を維持するために使われ、残りの20%のリンは、細胞膜の成分として、核のDNAの成分として、細胞内のシグナル伝達物質として、そしてATPサイクルに使われています。リンは重要な元素ではあるけれども、必要以上に体内で増えると「細胞毒」になったり、「老化加速物質」になったりします。その80%のリンが使われている骨では、破骨細胞と骨芽細胞の働きにより3~5年で全身の全ての骨が入れ替わる非常に激しい新陳代謝が行われています。その際リンとカルシウムが出し入れされているため、生体内ではいつも過飽和の状態に保たれているとのことです。そのため何らかの理由で余分なリンが腎臓から速やかに排泄されなかったなら、骨以外の場所で析出しやすくなり、血管など様々な組織の石灰化を引き起こしまうとのことです。
若々しく長生きするために、いまわたくしたちにできること
リンを排出する腎臓の糸球体と尿細管の数には個人差があり、年とともに減少していきます。20代では100万~200万セットあったものが、60代、70代になるとその半分に減り、年とともにリンの排出量が減っていきます。もしも若い時と同じ食習慣を続けていくなら、上記のメカニズムにより体内に余分なリンが残り、様々な慢性疾患が避けられなくなります。日本に暮らして普通の食生活を送っている人であれば、誰でも必要量の3倍くらいのリンを摂っています。砂糖や塩などを制限するのは分かりやすいのですが、無味無臭のリンを制限するのは、まず制限する必要性を理解しなければなりません。
老化を防ぐメカニズム
リンには有機リンと無機リンの2種類があるとのことです。有機リンが多く含まれているのは、肉類、魚介類、卵、乳製品、穀物などで、食品中の有機リンの量はタンパク質含有量に比例しますが、体内への吸収率は20~60%と食品によってかなり違いがあり、植物性の有機リンは体内に吸収されにくいとのことです。無機リンは食品添加物として利用されているリンで、加工肉、干物や練り物、インスタント麺、ファーストフードに含まれていて、体内への吸収率は90%以上です。このことから、動物性タンパク質を控え、インスタント食品を食べないことが健康を守るうえで重要です。
さらに、宇宙飛行士の骨密度を調べた結果から、骨密度は重力負荷を受けないと急激に低下し、必要のなくなった骨中のリン酸カルシウムが血中に出やすくなることが分かったとのことです。人一倍健康な宇宙飛行士では直ぐに問題は起こりにくいでしょうが、腎臓の働きが低下している人、座業の多い人は、重力負荷を受けるため「動くこと」が欠かせないとのことです。
治療室でできること
私の治療室で様々な症状を訴える患者さんの多くで、全ての動物性食品サンプルが筋力検査陽性になるのは何故なのか、長年疑問に思っていましたが、それはネットワーク管理システムの要である腎臓の数値に現れない機能低下があったためかもしれません。動物性食品の制限と毎日30分ほどの散歩をお願いしていたのは、このためでもあったのかと腑に落ちた次第です。それらの患者さんに対してカイロプラクティックの治療室でできることは、まずサブラクセイションがあるなら、まずアジャストメントを行い、次に患者さんが日々口にしている食品以外の薬、サプリメントの検査も行い、もしも筋力検査陽性になるものがあるなら、それらを制限してもらうことです。私はその様なアプローチが症状の改善につながる最善の治療法だと思います。その際、患者さんに理論的裏付けをもって食養を指導することができるなら、患者さんもそれを実践してくれるのではないでしょうか。以前取り上げた丸山優二著「臓器たちは語り合う」(NHK出版新書)と合わせて、是非本書を一読されることをお勧めします。
令和4年2月26日