自分のカラダで
   人体実験
  大塩 俊 著(幻冬舎) 

 本の著者は84才になる未だ現役で元気に働いている方です。本書は、著者が57才で髄膜種を患い、その標準治療を受けた後、10年前から現代医学に疑問を感じ、飲んでいた全ての薬を止め、自らの体で様々な健康法を実験し、その研究成果を書き起こしたノートです。

 私がこの本になぜ注目したかというと、著者が様々な健康情報に目を通しながら、自らの五感だけを頼りに食事療法、生活習慣の改善に努め、ご自身の言では500㌔、1000㌔の運転も苦にならないほどの健康な状態にあるという点です。特に、その食事療法は、自宅ではご飯、パン、肉、魚、卵、牛乳、バター等に類するものを食していない。調味料として砂糖、味醂、油、ドレッシング、ソースみたいなものは使わないという点です。この食品の制限は和田洋巳著「がん劇的寛解」(角川新書)にある体内環境をアルカリ性にするための食品の制限と同じであり、私が筋力検査で食品サンプルを使って制限すべき食品と特定したものと同じだったからです。著者が味覚嗅覚視覚だけを頼りにこの結論に到達したとは、世の中には鋭い感覚の持ち主がいるものだと驚きました。現代医学は細菌、ウイルス性の疾患、急性疾患には切れ味鋭い効果を発揮しますが、慢性疾患に対する治療は対症療法になりがちになり、治療の不確実性から逃れられないでいます。そんな中、常識とは異なるこの食事療法を含む生活習慣の改善は、慢性疾患に対する有効な治療法になるのではないかと思います。本にある好奇心旺盛な著者が疑問に感じたことは、その多くが的を得た疑問であり、常識を覆す1冊だと思い、一読をお勧めする次第です。

 著者は本質的には非常に健康だった方で、20代から84になる現在まで、日本酒以外のウイスキー、焼酎を毎日欠かしたことがないそうです。この様な方だからこそ、カラダに合わないことを引き算していけば回復できたのではないでしょうか。人の体質は様々であり、引き算だけで全ての人が健康を取り戻すことができるとは限りません。食品の制限だけでなく、足し算として薬があり、薬効のある健康食品の世話にならなければならない人もいることをお忘れなく。私としてはカイロプラクティックがその一翼を担うことができたなら嬉しいのですが、がんの患者さんには不適応でした。

令和4年8月12日