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末期がんの患者さんの緩和ケア

 
末期がんの緩和ケアについて、先月の6月25日に山崎章郎著「ステージ4の緩和ケア医が実践するがんを悪化させない試み」(新潮社)、今月の7月1日に萬田緑平著「家で死のう!」(三五館シンシャ)が相次いで発行されましたのでご紹介したいと思います。

 山崎先生は、大学卒業後一般医療現場で外科医として延命至上主義の終末医療現場で働き、様々な疑問を抱きながら、あるべき医療を求め手探りの日々を重ね、緩和ケアこそがそれを解決する概念であると確信し、30年近く2500人を超える終末期がん患者さんの人生に同行してきたという生粋の緩和ケア医です。著書の内容は、ご自身に2018年ステージ3の大腸がんが見つかり、腹腔鏡手術と抗がん剤治療を受けるも、翌年肺に転移巣が見つかり、その標準治療である抗がん剤治療を受けることなく、ご自身の体を実験材料にして、副作用が少なく高額ではない「がんと共存できる方法」を探し求め、何とかその基本形に辿り着くまでの経過を報告するものです。その戦略は、糖質制限ケトン食、クエン酸療法、丸山ワクチン、少量の抗がん剤治療からなります。ただ、ご自身の病状が思うに任せず、「がん共存療法」が治療の新たな選択肢となるための更なる進化をスタッフに託さざるを得ないのが残念です。

 萬田先生は、17年間手術や抗がん剤治療に明け暮れる外科医を終わりにして、「在宅緩和ケア」を自らの専門として、2000人ほどの患者さんを自宅で看取ってきた経験から、「終末期の患者さんは、病院の延命治療を止めて、自宅に戻って過ごした方が人間らしく生きられる」と断言します。そして、人生の最終章には、「病院で治療する」という選択肢以外にも、治療を止めて「家で生き抜く」(それはつまり「家で死ぬ」)という選択肢があることを知ってほしいと言います。
緩和ケア萬田診療所の大きな方針は、「本人が好きなように」「本人が望むこと」をサポートすることで、「本人の笑顔を引き出す」にはどうすればいいかをケアの中心にしているとのことです。そしてその様な選択をした患者さんの中には、標準治療を選択した患者さんよりも長く元気に生きていけるケースもあるとのことです。

 両先生の緩和ケアは、そのアプローチは全く違いますが、共通するところは、ステージ4の固形がんに対する標準治療である抗がん剤治療の現実を鑑みると、「がんを治すことは難しい」ということです。2022年現在1ヵ月約100万円するあのオプチーボでさえ、肺がんに対する生存期間の延長効果は2.8カ月と言われています。治癒を前提にはできないステージ4であれば、標準治療により延命された時間のほとんどが、副作用との闘いの日々に費やされてしまう場合が多く、中には副作用で縮命することも稀ではないとのことです。山崎先生の経験では、通院が困難になるほど病状が悪化し、抗がん剤治療は終了と言われて在宅療養を開始した患者さんの約4分の1は2週間以内に、約半数は1ヵ月以内に最後を迎えているとのことです。

 にもかかわらず、本人や家族の願いで多くの患者さんが延命を名目とした治療を死ぬまで受け続けている現在、標準治療を止めて緩和ケアを選択するには、まず死を受け入れなければならないとのことです。年間38万人ががんにより亡くなり、がんは人ごとではありません。萬田先生は最後に、本書があなたとあなたの家族が「どのように生きたいか」「どのように死にたいのか」を考えるきっかけになることを願ってやみませんと締めくくっています。両先生の著書を推薦する次第です。

令和4年7月16日