「健康寿命をのばす食べ物の科学」 
佐藤隆一郎 著(ちくま新書)

 
著者によれば「どのような食品を選択して健康寿命を延ばすことができるかについて、食生活を自己管理できる基盤となる知識を提示することを目指しました。」とのことで、以下のような構成になっています。

第1章では、人間の寿命について
第2章では、脂質の過剰摂取の危険性について
第3章では、人類の進化に果たした食べ物の役割について
第4章では、食品の機能成分について
第5章では、テレビなどでもよく耳にするコレステロールについて
第6章では、「畑の肉」とも言われる大豆の底力について
第7章では、長寿を支える筋肉について
第8章では、健康寿命を延ばすための食習慣について、

 特に、第3章では、食生活の内容の違いが民族の遺伝子的な背景を支配しているとして、白人種における乳糖不耐症を例としておよそ4000年間、120世代を経て民族の大半が環境に適応した遺伝子を獲得した経緯を解説しています。日本の酪農関係者の生活を考えると、食品生化学の権威である著者が、日本人は乳製品を制限すべきだとは言えないとは思いますが、90%以上が乳糖不耐症である日本人の食生活を考える上で、この問題はもっと注目されるべきであり避けて通れない問題だと思うのですが。

 第6章 大豆はすごい!は、カイロプラクターが食養を行う上で、全ての動物性タンパク質が筋力検査陽性になる患者さんに対して、それを制限してもらう代わりに大豆製品を推奨する際の科学的根拠になる記述だと思います。即ち、必須アミノ酸を十分量含むタンパク質はアミノ酸スコアが高いタンパク質とされ、動物性タンパク質はこのアミノ酸スコアが高く、植物性タンパク質のそれは低いとされてきました。必要量を満たさないアミノ酸を「制限アミノ酸」と呼び、多くの植物性タンパク質ではリジンが制限アミノ酸となり、植物性タンパク質は動物性タンパク質に比べ質が落ちるとされてきました。よって、多くの医療関係者から「年をとったら肉を食え。」との声を聴くことがあったのですが、著者によれば、乳タンパク質、鶏卵タンパク質のアミノ酸スコアを満点の100とすれば、小麦タンパク質は制限アミノ酸がリジンであるため、そのスコアは37と低値になる一方、大豆タンパク質は乳、鶏卵と同じくアミノ酸スコアは100と評価されるとのことです。その他、大豆タンパク質には、1.血中コレステロールを低下させる、2.心臓病発症のリスクを下げる、3.肥満予防効果がある等、類書にはない最新の科学的知見から大豆の有効性を謳っています。

 第7章 早歩きは長寿命!では、運動することの効果とその必要性を説明しています。運動することは骨格筋での脂肪酸の燃焼を活性化させ、血中の中性脂肪を低下させる。さらにその様な効果を高めるため、骨格筋によるグルコースの取り込みを上昇させ、脂肪肝の予防効果が期待されるというグレープフルーツの果皮に含まれるヌートカイン、抗ウイルス、抗菌、抗腫瘍、抗マラリアなど様々な効果が報告されている柑橘成分、特にユズの種子に豊富に含まれるノミリン等の研究も紹介されています。細かいメカニズムは私には理解できませんので、紹介されているグレープフルーツの果皮、ユズの種を筋力検査で追試していこうと思っています。
 第8章 この食品が健康寿命を延ばす!では、一部私の筋力検査の結果と異なる部分はありましたが、多くの健康寿命を延ばすアドバイスが紹介されています。

 以上、本書は今までの類書にない最新の食品生化学に基づく健康読本と思い、是非一読されることをお勧めします。

令和5年5月23日