「機能性医学入門」 ジェフリー・S・ブランド著(アチーブメント出版)

 表紙には、「体はさまざまなシステムからなるネットワークであり、機能性医学はゲノム革命から生まれた健康を作り出す新しい科学である。機能性医学は体を一つの生態系と捉え、機能異常のパターンを調べて根本原因に働きかける。」とあります。「はしがき」には、「機能性医学は、症状中心の医学から原因中心の医学、臓器中心の医学から生命体中心の医学への根本的なパラダイムシフトを意味する。体をひとつの生態系と捉え、様々な生命反応が交わり作用しあって、ダイナミックなネットワークを形成していると考えるのだ。そのダイナミックなプロセスのバランスが崩れれば病気になり、バランスが保たれていれば健康に過ごせる。」とあります。

 アメリカでは、慢性疾患に医療費の78%がつぎ込まれているが、現代の高度に発達した医療は慢性疾患への対処ができないでいる。その慢性疾患の特徴は、
1.不調がひとりでに治ることはない。
2.不調が時とともに悪化する。
3.これと指摘できるような単一の原因がなく、いくつかの要因又は原因物質が関わっている。
4.症状が複雑なパターンを示す傾向があり、特定しにくい多くの要因がかかわっている、とあります。

 慢性疾患への対処ができないでいる理由を、「現代の医療モデルはもともと細菌論からみちびかれたため、還元主義的思考方法に基づくからである。病原菌を見つけ、専用に開発された薬でやっければ一件落着という考え方なのだ。急性疾患の治療は目覚ましい成果を発揮したモデルだが、生体機能を司るシステムやそれをつなぐネットワークの回復や維持となると明らかに手も足もでない。」としています。

 39ページにスタンフォード大学医学部教授のジェームス・フリース教授の次の様な文章が引用されています。「若いときは体の諸器官の機能の予備力が平均的な日常生活の必要量をはるかに上回っている。いわば生理的な能力の貯金があって、必要に応じて外傷や損傷、病気に直面した場合に引き出せるからである。・・・ところが、年を取るとこの予備力が失われる。つまり、必要な時に使える予備力が減り、器官の回復力が衰えるのだ。この予備力が失われるスピードが各個人の生物学的加齢のプロセスを多かれ少なかれ決める。器官の予備力を失うスピードは人によって違い、したがって年の取り方も違う。・・・この予備力の減り方を穏やかにできるなら、生物学的加齢を遅らせることができ、それと相関関係にある慢性疾患を最低限に抑えられるはずだ。」

 その方法として、著者は環境、習慣、食事のなかで最も重視しているのが食事だといいます。即ち、「ある種の食物にはネットワークへの影響を介して遺伝子にメッセージを送る物質が含まれている。・・・食物は私たちの遺伝子のための情報であり、炎症に関連した遺伝子の発現に係わる形で私たちの生理的な復元力と総合的な健康に明確な効果を発揮する。」そして、「その最も重要な物質は植物性の栄養素であり、それは酵素活性と抗酸化能力を高めることができる。定期的な運動、植物性食品中心の食事、適切なサプリメントにより健康を維持できる。」としています。

 本書では生理機能のアンバランスが起こる原因として「構造」を取り上げていますが、それは人体の「構造」を構成する骨、筋肉組織が常に入れ替わり、常に変化していることにより「構造」への影響があるという趣旨であり、カイロプラクティックでいう「構造、即ち関節の機能が生理的機能をコントロールする」という論理ではないようです。この点で機能性医学に足りない分野を補う意味で、カイロプラクティックは機能性医学と相性は良いのではないでしょうか。食事の改善では、もしもカイロプラクターが筋力検査を駆使し、一人一人体質の違う患者さんに合わない食品を選択し制限することができるなら、より効果的な機能性医学、即ち食養を提案できると考えます。「機能性医学の父」といわれる著者の言説は、患者さんに食養の重要性を説明する上で参考になると思い、7000円と少し値が張りますが本書を紹介する次第です。

令和3年9月18日