胸郭の損傷に注意
80代半ばの女性。5年ほど前、運転中にハンドルを大きく切った際、胸にバリバリという音がして以来、右肩を動かすと肩が痛いと来室しました。脊柱の可動性検査では制限されているレベルはなく、右肩関節の亜脱臼もなく、胸鎖関節、肩峰鎖骨関節の制限もありませんでした。筋力検査では、内臓の体壁反射部位で陽性になる部位はなく、内科的な問題はないと推定しました。ただ、右季肋部に手掌面でTLすると陽性になりました。以上の検査結果から、この患者さんの症状の原因は肋軟骨の損傷による胸郭の不安定性によるものと推定しました。患者さんに原因の説明をし、肋軟骨の損傷の治療として弾性胸帯をTL陽性が陰性になるレベルに最初の1週間は24時間、次の3週間は寝るとき以外、苦しくない限度で強く装着するように指導して治療を終えました。
2週間後に来室してもらいましたが、未だ24時間装着する必要があり、なかなか肋骨軟骨の損傷が改善しませんでした。4週間ほどして寝ている時は外すことが可能になりましたが、その間どの関節部位も矯正することができず、症状も目だって改善することなく、胸帯を装着し続けることしかできず、3ヵ月が経とうとしています。この患者さんは5年間、整形外科、接骨院、整体、カイロプラクティック、鍼灸マッサージの治療を受けてきたのですが、肋軟骨の損傷と言われたことはなかったとのこと。固定すべきところを運動療法、手技療法等で可動化させ続けてきたため、偽関節化してしまったため治癒しにくくなったのではないかと思われます。80代半ばということもあり、肋軟骨の損傷が治癒するか、気長に様子を見るしかないようです。ただ、初診時に足腰も急に弱ってきたと帰り際に話していたのですが、それは胸帯をするようになって気にならなくなったといわれたのが救いです。
肋軟骨の損傷はレントゲン検査では見つけることができず、唯一筋力検査で見つけるしか方法がありません。見つけられないまま原因が分からず長い間症状に苦しむ患者さんが多くいます。特に、胸郭の不安定性は、腹腔による体重負荷を受けにくくし、その分脊柱への負担が増加することにより、肩だけでなく腰痛、膝痛の原因にもなりますので、無関係に見えても必ずチェックしてください。
令和5年5月4日