「腸内細菌と脳の真実」 生田 哲 著(育鵬社)
本書は近年爆発的に増加する発達障害、その代表的な自閉症の子供の85%に便秘があり、90%に腸の障害が現れることから、その原因として注目される脳と腸、そして腸内細菌の相関関係を分かりやすく解説した入門書です。
その「まえがき」で、病気の発生は遺伝子が10%の役割しか果たしていないが、残り90%は環境要因によって引き起こされる。腸内には100兆個の細菌とその10倍のウイルスが住んでいて、脳と腸はその腸内細菌を介して双方向のコミュニケーションをとっている。腸には脳を除いたどこよりも多いニューロンが存在し、最も多くの免疫細胞が集まっている。その腸内細菌を改善し最善化する最も容易で効果的な方法は、食事の改善であるとしています。
腸内環境を悪くする最も多い原因は食品アレルギーである。食品アレルギーとは、食事からとるタンパク質の分解が不十分なため、いくつかのアミノ酸がつながったペプチドの状態で腸管から吸収され、それが免疫細胞により異物と認識され攻撃を仕掛けられ、炎症が発生している状態である。それを防ぐには腸内細菌のバランスが重要である。正常な腸内細菌では、善玉菌が2割、悪玉菌が1割、あとの日和見菌が7割とのこと。肉類を多く食べると悪玉菌が増加し、砂糖と精製デンプンはカンジダ菌、クロストリジウム菌を増やし、低脂肪で高食物繊維食は善玉菌を増やし、高脂肪低食物繊維食は悪玉菌を増やすとしています。
腸内細菌のアンバランスの原因は、悪い食事の他に抗生物質の乱用がある。それにより腸内細菌のバランスが壊れ、腸の粘膜細胞が弱くなり、リーキーガットといわれる状態になり、免疫細胞が吸収されたものを異物として認識し攻撃するため、活性酸素が発生し、炎症が起こる。自閉症の人では、血液脳関門も緩んで、有害物質が脳に侵入しやすくなっているとのことです。
私が食品の検査の重要性を繰り返しHPで取り上げるのは、上記のメカニズムが様々な症状の原因になっているからです。それと、患者さんごとに食品に対する腸内の受容体の感度が違うため、筋力検査を利用する以外にアレルギーを起こす食品を特定できないからです。なぜ発達障害の子供たちにも食品の検査を行うべきなのか。その必要性を患者さんに納得してもらうためには、まず治療者がその理論的背景を知らなければなりません。それにうってつけなのが本書であると思い紹介する次第です。
令和3年6月16日