これからカイロプラクティックを学ぼうと考えている人へ
「 天ハ自ラ助クルモノヲ助ク 」 サミュエル・スマイルズ著 「 Self-Help (自助論) 」
カイロプラクティック法制化の現状
昭和22年にあんま、マッサージ、鍼、灸に関する法律ができて以降、既存の療術師を除いて無資格者は医療類似行為を行えなくなったはずですが、昭和30年代の最高裁の判例、すなわち人の健康に危害を加える恐れの少ない行為に関して、職業選択の権利を認めて無資格者の施術行為を合法としたことから、それ以来現在にいたるまで、多くの無資格者による様々な名称での治療室が乱立し、事故が起きない限り行政の取り締まりができない状態が現在まで続いてきました。カイロプラクティックもその一つで、中国整体、気功、オステオパシー、ナチュロパシー、足裏療法、その他なんでもありです。
最高裁の判例が生きている限り、たとえカイロプラクティックが法制化されたとしても、無資格者はカイロ以外の名称で治療室を開設することでしょう。
法制化における問題点
(診断に再現性が得られないこと)
カイロプラクティックの法制化に関して、カイロプラクティック自身にも問題があります。まずその診断法が感覚的な検査法に頼らざるをえないため、創始者が主張するところの科学性に反して治療者間に再現性が得られないのです。このため各治療者の診断結果と矯正法はばらばらにならざるをえません。また、サブラクセイションの病態に関して見解が相反することが多々あります。例えば、脊柱の土台である仙腸関節の病態について、可動性減弱と考えるか過可動性と考えるかでカイロプラクターの考え方は大きく二分されています。すなわち同じ関節の治療についてまったく逆の治療を行っているわけです。この様に、カイロプラクティック治療とは何かを定義するにおいて、何をもって括ればよいのかを実際の臨床の場で決められないという大きな問題があるのです。
アメリカの様にレントゲン写真を撮ることができるなら、感覚的な検査法より再現性が得られると考えるかもしれませんが、試しに一人の患者さんのレントゲン写真を複数のカイロプラクターに渡してレントゲン診断してもらうと、同じ患者さんに対してまったく違うレベルで違うリスティングを出してくると思います。各カイロプラクターは各自の感覚に基づいて診断し治療しているのであって、科学的な診断法に基づいて治療しているわけではありません。レントゲン写真はあくまで病理的な問題の診断に利用されるべきものです。
(マニピュレイションを独占的に行えるか)
また、アメリカでは医師、物理療法師も独自の判断でマニピュレイションを行っており、カイロプラクターに脊柱のマニピュレイションを行う独占的な権利があるわけではありません。日本でも長年、物理療法師、あんま、マッサージ、指圧師が独自の治療体系でマニピュレイションを行ってきましたので、カイロプラクティックが法制化されたからといって、彼らの施術を制限することは出来ません。従って、苦労して法制化されたとしても、そのメリットは限定されたものとならざるをえないでしょう。
CHIRO-JOURNALの77号に「カイロプラクターVS理学療法士」と題する記事が掲載されていました。内容は、カリフォルニア州でカイロプラクターと理学療法士の職権に関する法案が2本提出されたとのことです。1本めは、マニピュレーションを行えるのが、医師、外科医、カイロプラクター、オステオパスに限られるという法案でしたが、カリフォルニア州の下院ではその法案支持者が少なく審議中止になったとのこと。もう1本は、理学療法士が独立開業し、医師の指示なく関節のマニピュレーションも行えるという法案で、下院を通過し上院に送られ、平成25年中には通過するそうです。米国ではすでに医師の指示なく理学療法士が患者さんを診ることのできる州がいくつかあるそうで、カリフォルニア州でこの法案が上院で可決されると、カイロプラクターの強力なライバルになりそうです。米国で起こることはやがて日本でも起こります。患者さんにとって治療者間の競争が激しくなることは歓迎すべきことです。大切なことは、どの様な医療制度においても、的確な治療を行うしかないのであり、患者さんはそれを支持してくれるはずです。
(業界が団結して運動できるか)
平成8年、カイロプラクティックの単独立法を目指し、法制化の前段階としてカイロプラクティックの研究財団を設立しようとする運動がありました。私自身は日本の医療業界の構造を考えると、あんま、マッサージ、指圧、鍼、灸師に関する法律の改正が最も現実的だと思うのですが、カイロプラクティックの各団体は世界基準の単独立法を目指し、意見の一致を得て、平成9年にWFC(世界カイロプラクティック連合)の世界大会を日本に招聘するなどの法制化に向けた活動が行われました。当時厚生大臣であった小泉前総理にもご挨拶を頂き、大会は盛大に行われたのですが、大手のマスコミはこれを一切報道しませんでした。その上残念なことに、当初の目標であった財団の設立以前に、その後連合は指導権争いで対外的にまとまることはできませんでした。平成26年カイロジャーナル80号に、再度WFCの世界大会が日本で開催されることが決まったというニュースが掲載されていました。業界の状況は平成9年と少しも変わっていない現在、忘れられかけたカイロプラクティックがマスコミ、厚労省、他の治療業界の注目を集めることができるか疑問です。その世界大会は、平成27年の最新の「カイロニュース」によると、日本側の内部対立により中止とのことです。
(団結できない理由)
法制化までの手続きに関する意見の相違も大きな問題ではありますが、対外的にまとまる事が出来なかった根本的な理由として、私はカイロプラクティックの治療に再現性がないからではないかと思います。各カイロプラクターの間には共通の言語が存在しませんので、自分の患者さんをよその治療者に紹介しても同じ治療を期待することはできません。各治療者はてんでんばらばらに自分の診断基準で治療しているのですから、慣れない法制化運動でまとまるわけがありません。
(診断に再現性が得られないのは日本だけか)
この様な現象はアメリカの指導的なD.C.の間でも同じことです。以前PAACがSOTの創始者であるディジョーネットD.C.と2人のSORSIの本部理事を招聘してSOTのセミナーを開催した時のことです。セミナーで疲れたディジョネットをその理事達が治療するのを見学した折、下肢の長短で2人の意見が分かれ、前回の治療でどうだったかをディジョネットと相談してから治療を行っていました。下肢の長短の診断が逆になるということは、脊柱の歪みの診断も逆になるということです。サブラクセイションの怖さを考えると、矯正法に長けたD.C.による誤ったリスティングのアジャストメントは、素人療法の乱暴な矯正法による被害と何ら質的にも量的にも変わりがないどころか、より大きな被害をもたらす可能性さえあります。私と共に多くの日本のカイロプラクターが30年以上に亘り40~50人のアメリカの指導的カイロプラクターから基本的な原理と多くのアイデアを教えていただきました。残念ながら、多くの治療者たちが期待した再現性あるテクニックを学ぶことはできず、当初の熱気はしだいに冷めていきました。結局、指先の感覚の世界であり、日米の治療者の悩みは同じであることを確認することになりました。その指先の感覚だけでいえば、日本人の治療者はアメリカの一般のカイロプラクターより器用で鋭いかもしれません。私の経験からいえば、治療現場での本質的な問題はアメリカと現在の日本においてまったく違いはないと思います。
法制化運動の前に
(まず行うべきは診断の再現性の確立)
現代医学が発達している日本において、一世紀前のアメリカでB.J.が行ったような政府や医師達をカイロプラクティックの哲学論争に巻き込み、法制化を認めさせた様なことは、今の時代に誰がやってもできることではありません。サブラクセイションへのアジャストメントで病気が治ると主張しても、現代の解剖学の知識からすると、医師及び厚労省の人々の納得は得られないと思います。それよりも、関節の構造的な機能障害、すなわちサブラクセイションがあるなら、関節は重力負荷を効率良く受け止めることができず、そのために様々な症状が出ると共に、それによって生命力が著しく消耗することをアピールするべきです。カイロプラクティックの主要な役割は、症状を軽快させるだけでなく、この生命力の消耗を予防することだと思います。
以上の現状を考えるなら、まず日本のカイロプラクターがやらなければならないことは、法制化に向けた運動ではなく、サブラクセイションの診断における再現性を確立することだと思います。診断の再現性が確立できれば、各治療者の独自性はアジャストメントの方法に表現されればよいのです。その様な体制ができたなら、カイロプラクティックは科学的かつ有効な治療法であると主張することができます。それができないなら、法制化する必要はないと思います
(法制化の現状)
その様な努力が全くなされることなく、これから各団体が法制化に備えて独自にカイロプラクターの認定証を発行しようとしていますが、何を基準に認定証を発行するのでしょうか。テクニックは数多くありますが、再現性のある診断法と矯正法はまだ確立されていませんので、基礎医学的知識の有無以外に認定証を与える基準となるものがありません。また、カイロプラクティックのアジャストメントが有効であるという裏には、他の手技療法以上に大きな危険性もあります。この再現性が確立されることがないなら、ばらばらの基準による認定証を持った治療者による医療事故が発生し、業界として患者さん並びに他の医療業界はもちろんのこと、厚労省に対してもカイロプラクティックの有効性と独自性を主張し説得することは出来ないでしょう。現状では、私はアメリカのカイロプラクティックをそのまま日本に導入する必要はなく、法制化も必要ないと考えます。カイロジャーナルによれば、その厚労省は現在のところ法制化は必要ないとの認識であり、平成3年6月28日付けの厚生省健康政策局医事課長通知「医療類似行為に対する取り扱いについて」に何ら変更はないそうです。
(法制化の見込み)
平成26年のカイロジャーナル80号にて、登録制が法制化の第一歩だとの記事が掲載されていましたが、現状はいままで述べてきたことと全く変わりがありませんので、時流に乗り遅れないようにとあせる必要はありません。各団体に入会するのはカイロプラクティックの知識を得るためであり、見込みのない資格を得るためではないはずです。以上のことから、日本におけるカイロプラクティックは、あんま、マッサージ、指圧の法改正により法制化することさえ難しいと思われます。その上、日本のカイロ業界をリードしているアメリカの大学を卒業したD.C.達が、日本の医療法制度を根底から改変しなければ実現できないような世界基準の単独立法を目指しているため、その法制化はこの数十年単位では期待できないと思います。
カイロプラクティックを学ぶ前に
骨格の歪みが原因で様々な症状が出ているにもかかわらず、適切な治療を受けることが出来ないために苦しんでいる患者さんは、皆さんが想像する以上に多くいます。カイロプラクティックはこの様な患者さんにとって最も有効な治療法です。私の治療室でも、しばしば驚くような効果をあげることがあり、それが治療師としての私の生きがいでもあります。また、その様な患者さんが各医療機関に行く回数を大幅に削減できることから、社会的な医療コストの削減に貢献できます。ただ、例えば、腰痛の原因が骨格の歪みであることは、全体の3割ほどしかなく、残りはカルシウム不足による圧迫骨折、食生活習慣による血行障害、何らかの臓器疾患の反射痛等ですので、原因を鑑別することが求められます。従って、求められることは多く、カイロプラクターの役割は限定されています。以上述べてきた事項を考慮したうえで、これからカイロプラクティックを学ぼうとする前に、知っておいて欲しいことがあります。
(卒後の開業率)
これから日本社会は急速に老齢化が進行し、それに伴ってカイロプラクティックの需要も増加すると宣伝している広告を見ますが、老人達は本当にカイロの治療室に来てくれるでしょうか。私の推測するところ、老人達は保険診療の範囲内であればカイロプラクティック治療を受けてみてもいいと思っているでしょうが、自由診療でも受けたいという人はいつの時代も少ないと思います。日本では国民皆保険が制度として定着しています。その保険料と自己負担額は年々高くなっています。不況のため可処分所得が減りこそすれ増える見込みのない中で、自由診療で、しかも自分の指先の感覚だけで開業するということは、カイロの宣伝文句ほどには易しくないと思います。
カイロプラクティックが保険適用になる本場のアメリカでも、新たに開業するのは難しいようです。20年ほど前にアメリカのカイロプラクティック雑誌であるChiropractic
Economicsで読んでいて知ったのですが、アメリカでもパーマー大学を卒業した人のなかでカイロプラクティックを職業としている人は40%弱、ナショナル大学を卒業した人は40数%だそうです。知り合いのD.C.に聞くと他大学ではもっと低いそうです。まして日本では、カイロプラクティックの学校を卒業し開業した人で長年にわたり治療室を続けていられる人は、その10%程ではないかと想像します。21世紀の新しい職業であり、将来的に成長が見込め、人助けをすると共に少ない資本で独立開業できるとの夢を振りまく広告を目にすることがありますが、実際はそんなに甘くはないのです。
(カイロプラクティックはタレント業)
それを承知でこの世界に興味を持ち勉強しようとする人に分かって欲しいことがあります。すなわち、カイロプラクティックの基本的理論は単純明快なものですが、基本的な知識を学んだからといって感覚的な検査が出来なければカイロプラクティックを習得することは出来ません。悲しいことに、カイロプラクティックのアート、すなわち術は科学的に裏づけられているとはいえず、感覚に頼る部分がほとんどであるため、その基礎的な原理をテキストから学ぶことはできても、それを実際の臨床の場で応用できるようになるとは限らないのです。また、多くのテクニックを学んだからといって、その問題が解決されるわけではありません。場数を踏めば分かってくるというカイロプラクターもいますが、診断できないでどうして臨床経験を積み重ねることができるのでしょうか。一見慣れた手付きで治療している様に見え、その実はまったく見当はずれの治療であることはよくあることです。それよりも踏まれた患者さんのほうがいい迷惑です。
どうしても感覚的な検査と治療法になじめないなら、あなたはカイロプラクティックには向いていないのです。自分に感覚的な才能があるか否かを知るには、それが好きか否かを自分に問わなくてはなりません。「好きこそものの上手なれ」で、自分の好きな分野には自分の才能が存在する確率が高いものです。もしも触診、筋力検査等の感覚的な検査法を教えられた通り一年間努力してみて感覚的な才能がないと感じたなら、潔く諦めてもっと自分に合った仕事を探して欲しいのです。一時のカイロブームは遠い過去のことです。仮に治療室の経営が軌道に乗ったとしても、収入は他の職業よりも低いかもしれません。向いていない仕事にあなたの貴重な時間と資金を投じないでください。現代医学が急速に発達しつつある現代において、そして国民皆保険が施行されているわが国において、カイロプラクティックは究極の自由業です。自由業では、努力は専ら自分の才能を引き出すためにのみ行うべきです。本当にこれしかないと思ったら、頑張ってください。
(資格について)
もしも自分は感覚的な検査法、治療法にむいているかもしれないと思ったなら、そしてカイロプラクティックの原理がとても面白いと感じたなら、まず、あんま、マッサージ、指圧、鍼、灸、接骨等のいずれかの開業資格を取って下さい。できれば柔道整復師免許がとれるなら、経営的には有利だと思います。前に説明した様に、日本ではカイロプラクティックは法制化されることはありませんので、いきなりカイロの学校に入学しても何らの身分的保証はありません。例えば、あなたが出す領収書は医療費の控除の対象にはなりませんし、交通事故にかんする治療費を保険会社に請求することもできません。
(カイロプラクティックの学び方)
カイロプラクティックを学ぶ上での順序は、まず基本的な考え方(それをカイロ業界では哲学とよんでいますが)を学びます。それには拙書「臨床カイロプラクティック」が役に立つと思います。頭が整理されたなら、次は検査法を学びます。主な検査法である触診と筋力検査に基ずく診断基準を確立することが、治療においてなによりも重要なことです。次にテクニックを学ぶことになります。アメリカで生まれたテクニックはセミナーでも学ぶことができますが、学ぶ上で気を付けておかなければならないことは、テクニックはその創始者の主張を表現したものであり、全てが真理を具現化したものではないということです。触診、筋力検査の感覚が分からず、自らの診断基準がないなら、多くのテクニックを学んでも、それらテクニック間の矛盾に対して自分で判断することができず混乱するだけです。反対に、自らの診断基準があるなら、各テクニックの有効範囲を掴み、取捨選択することができるはずです。テクニックは記憶するものではなく、考え方とその着眼点を学ぶべきものです。
患者さんをトータルに治療できるバイブルのようなテキストそしてテクニックはないのです。従って、臨床では一つのテクニックだけで治療することはできず、足りない部分を補うため様々なテクニックをつなぎ合わせていかなければなりません。このことはカイロプラクティックだけでなくオステオパシ-やその他の手技療法を学ぶ上でも同じことです。私が「臨床カイロプラクティック」で紹介しているテクニックは、アメリカのテクニックを必要に応じて継ぎ接ぎし、足りない部分に私のオリジナリティーを加えたもので、この様な構成はどの治療者にもいえることだと思います。その様なカイロプラクティックでも、全ての腰痛を治せるわけではありません。なぜなら、腰痛の原因はいろいろあり、サブラクセイションが原因である割合は2~3割ほどだからです。
(学ぶ上で大切なこと)
触診の感覚の切っ掛けをつかむのに1年以上かかるかもしれませんが、筋力検査の感覚は早い人で数ヶ月でこつをつかむことができるかもしれません。触診をマスターするには、基本事項を理解した上で、臨床で多くの患者さんを触診していく必要があります。なぜなら、患者さんの関節の動きの範囲には個性があり、臨床では関節の固着の有無の決断が求められるからです。どちらかというと止まっているという診断では役に立ちません。この様な経験を積み重ねていくことにより、長い年月をかけて徐々に進歩していくしかないのです。それができるまでは筋力検査に頼ることになりますが、筋力検査だけに頼っていると思いこみの世界に嵌ってしまう恐れがあります。要するに、診断には触診と筋力検査に習熟することが求められるのです。治療面において、うまく関節音と共に矯正できるかを心配する人がいますが、その様な心配は御無用です。直接法はトムソンテーブル、木槌、ブロックを利用し、直接法が利用できない患者さんと患部に対しては間接法を利用すれば、大した熟練を必要とすることなく矯正できます。大切なのは診断力なのです。
最後に
カイロプラクターとして何よりも大切なことは、患者さんを救おうとする思いであり、カイロプラクティックの原理と術がとても面白いと思えることです。もしも面白くなかったなら、この業界に入ってはなりません。そして、臨床の場で大切なことは、感覚的な検査法を駆使した正確な診断力と、その診断結果を正確に解釈し対応する治療能力です。治療室には様々な原因で症状を訴える患者さんが来ます。治療者はその患者さんの病因に対して最も適した治療法を選択する必要があります。サブラクセイションが原因ならカイロプラクティックのアジャストメントが最も有効であり、その様な患者さんが多くいます。現代医学が見過ごしているサブラクセイションで苦しんでいるその様な患者さんを救うことが我々の役割です。その一方で、サブラクセイション以外の原因で症状を訴える患者さんも多くいます。この様な患者さんに対して、カイロプラクターは食養その他可能な限り治療しなければなりません。もしも、自らの検査結果を自らの治療でクリアーできないと感じたなら、すぐにその患者さんを適切な医療機関に紹介しなければなりません。
国民皆保険が完備しているわが国で、保険料が年々上がるため、患者さんはできる限り治療費は保険で賄おうとするはずです。従って、自由診療のカイロプラクティック、オステオパシー業界だけでなく、鍼灸業界も、これから長い縮小傾向が続くと思います。そのためと思いますが、カイロ界の機関紙ともいえるカイロジャーナル紙が平成30年3月号をもって廃刊となりました。マッサージ、カイロもどきの治療、鍼灸まで行う整骨院が激増する環境で、新規に開業しても患者さんはそうそう来てはくれません。昔各地の温泉地は農閑期に湯治のため混雑していたのですが、現在は一部の有名な温泉地を除いて閑古鳥が鳴いています。同じ様に、高い、効かない、危ないと言われるカイロプラクティックは、行き着く所まで行かないと、その回復は望めないほどどん底に来ています。そんななかで、治らない原因が、アジャストメントが正しくないためなのか、他に原因があるためなのか、治療者としてそれを感覚的な検査法のみで判断していかなければなりません。それは時に苦しい試行錯誤になることもありますが、カイロプラクティックへの思いをもって努力していけば、他の医療機関で救われず苦しんでいる人々を救うことができる時が来るかもしれません。人生は短く、だからこそ夢がなくてはならないと思います。自分が好きな仕事で生活できるなら、たとえそれがどんなに苦労を伴うとしても、それが最も幸せな生き方だと思います。カイロプラクティックが本当に面白いか、何度でも自分に問いかけてください。
令和2年3月のダイアモンド プリンセス号の騒動以来、現在に至るまでコロナ禍は何時治まるとも知れず、9月現在も続いています。この間、カイロプラクティック業界はコロナ禍の蚊帳の外にいる様な状態であり、我々カイロプラクターはなすべきこと、なしうることを知らず、ただ立ちすくんでいるのではないでしょうか。それは有効な治療法のない医療業界でも言えることなのですが、我々にも何かできることがあるのではないかと思います。まずなすべきことは、患者さんの慢性的な基礎疾患の主な原因である食生活を改善することです。自宅にいる時間が長くなる今こそ、患者さんには食べてはいけない食品、飲んではいけないアルコールや飲料を制限してもらうチャンスではないでしょうか。次に、コロナに効くと喧伝されている多くの健康食品の良し悪しを患者さんに知らせなくてはなりません。できるなら、コロナに有効な健康食品を見つけて患者さんに飲んでもらえればよいのですが、それは望み過ぎなのかもしれません。いずれにしろ、コロナウイルスに感染しても重症化しないよう、患者さんの免疫力を高めるための努力をするしかありません。100年に1度のパンデミックなコロナ禍の渦中において、カイロプラクターはアジャストメントだけでなく、なしうること全てをやるしかないのです。それが何時かは終わるコロナ禍後のカイロプラクティックの評価につながるはずです。