触診と筋力検査の注意点

                               「 真実はいつも少数派 」  湯川秀樹


 カイロプラクティックの診断法には、問診、視診、下肢の長短、レントゲン分析、体表温の測定、触診、筋力検査などがありますが、最も重要なのは触診と筋力検査だと思います。経験則として、サブラクセイションは可動性の制限された脊椎の分節間にありますので、制限された分節のレベルと制限のあり様を触診で判定しなければなりません。触診における関節の可動性を理解するには、ウイリアム・J.ジョンストンD.Oの可動範囲と緊張度の図を利用すると分かりやすいと思います。そして筋力検査では、拇指小指対立筋の図をもってその注意点を確認しようと思います。

動的触診の注意点

 
図は関節を左右に動かした時の可動範囲(横軸)とそれに伴う緊張度(縦軸)を図表にしたものです。左の正常な関節では、左右に動かしていくと、左右等しく生理的障壁、そして解剖学的障壁まで緊張度を高めながら苦痛なく動かすことができます。サブラクセイションのある右図の関節では、静止位置ですでに緊張 r が存在し、静的触診でこの r を感知しなければなりません。右に動かすとすぐに緊張度が高まり、すぐに解剖学的障壁にぶつかり、それ以上動かすと痛みがあり、無理に動かすと組織損傷を起こします。左に動かすと緊張度は低下し、さらに動かすと緊張度が再び高まり始め、生理学的障壁、そして解剖学的障壁まで苦痛なく動かすことが出来ます。棘突起に左右から圧をかけ、右図の様な反応であるなら、棘突起は左に回転し右に戻れないのですから、リスティンングはPLと推定することができます。





 動的触診では、図が示す概念を頭に描きながら、以下の注意点を守り可動性の有無を判断してください。

1.炎症や組織損傷がある関節の触診を行ってはならない。
2.関節周囲の軟部組織の弾力性、不随意の動きの範囲を検査するのですから、患者さんがリラックスした状態で触診しなければならない。
3.検査する関節のみを動かし、固定法を利用して隣接する関節を一緒に動かしてはならない。
4.関節の動きをベクトルに分解し、ベクトル毎に触診し、複数のベクトルを一度に触診してはならない。
5.解剖学的障壁を越えて動かしたり、関節面の非生理的な動きを起こし、痛みや緊張を起こしてはならない。
6.一分節間の関節包と靭帯の伸長の左右差、即ち、左右の生理学的障壁と解剖学的障壁の間を比較しなければならない。

 カイロプラクターの指先は考える指先でなければならず、集中力がなければなりません。触診している関節の生理的障壁と解剖学的障壁を指先で感知できるか否かが触診習得の鍵です。


筋力検査の注意点

 
筋力検査は、サブラクセイションの有無とそのあり様、矯正の順序、矯正に利用する刺激の種類、各種の反射点、病理診断、食養等に幅広く利用され、その習熟のレベルが治療の範囲とレベルに比例する重要な検査法です。従って、再現性のある検査を目指して以下の注意点を守って練習してください。

1.炎症や組織損傷のある関節に関係する筋肉を検査に利用してはならない。
2.治療者が力を加える時、無理な力を加えたり、急に力を加えたりせず、患者さんに力を入れる余裕を与えなければならない。
3.常に同じ条件で、即ち、同じ力、同じ方向、同じタイミングで検査しなければならない。
4.検査の間は集中力を維持しなければならない。
5.治療者の質問は明確でなければならない。
6.治療者は思い込みを持って検査してはならない。
7.治療者と患者さんの筋力の釣り合う点にて検査しなければならない。

 注意7.について拇指小指対立筋で説明します。この検査は患者さんの片方の拇指と小指を治療者の両拇指と人差し指でつまんで引っ張るという検査です。患者さんの筋力には個性があり、治療者の筋力にも個性がありますので、患者さん毎に両者の間の筋力のバランスは変化します。検査は治療者と患者さんの筋力の拮抗した一点で行うことにより、微妙な筋力の変化をYes or Noとして感知できるようになります。従って、両者の筋力の釣り合いを取るには、1.つまむ位置 2.つまみ方 3.引っ張る方向 4.治療者の手首の使い方の4つを微調整しなければなりません。では図でその注意点を説明します。

1.通常つまむ位置は拇指の末節基節関節 A と小指の末節中節関節 B 付近です。患者さんの筋力がとても強いなら、わずかに遠位に、弱いなら近位に移動します。
2.つまむという行為は治療者の側の負担になり、引っ掛ける行為は負担を軽くします。治療者が両手で検査し、患者さんが片手で検査を受けるわけですから、微調整するには必ずつまみ、引っ掛けて検査してはなりません。
3.矢印 1 の方向に引っ張るのではなく、矢印 2 の方向に押し込むようなつもりで検査します。
4.治療者の両肘を外に広げる動作が加わると、患者さんはコンタクトを保持できません。肘を動かすことなく、手首を屈曲させる動作のみによって、矢印 2 の方向に押し込む様にして検査します。