Lo-D HMA-9500Uの修理
最終更新:2005/4/4

LO-D のMOS−FETパワーアンプHMA9500 MkUは長岡鉄男氏が使用していたことでも有名なアンプです。一部のマニアの間では発売から20年を経た現在でもオークションなどでかなりな価格で取引がされております。
以前から少なからぬ興味があったのですが、たまたまリサイクルショップでジャンク品として出ており、購入いたしました。簡単な商品説明ではプロテクタが動作して不動品となっておりました。
早速家に持ち帰り電源を入れてみたところやはりプロテクタが動作したままです。
現状を掌握する為に裏ブタを開け、電圧のチェックを行いました。すると片チャンネルは出力が電源電圧近く(60V)まで振れています。もう一方のチャンネルも明らかに異常です。そんなことをしているうち抵抗の一つが”パチッ”と音を立て塗装が飛びました。慌てて電源を切り今後の方針を考えました。直すか、、、、現状で転売するか。
しかし、この物量を投入したアンプを目の前にして結論は、、、、やるっきゃないでしょ!!

かくしてHMA−9500MkUの修理が始まりました。
    
内部検証
 
  
内部で目立つところは
 ・ラムダコンなどの採用
 ・ガラスエポキシ基板の使用

などです。
使用部品にはかなり気を使っているようです。
改良の後が見られ、整流用のブリッジダイオードがM4C-1からファストリカバリーDiの30DF2が4本に変更になっておりました。
容量の大きな抵抗にはエンパイヤチューブが被せてありますがこれはサービスマンの火傷防止でしょうか??どう考えても放熱上好ましくないのでは。
基板上の部品実装はまあまあ。
配線はあまり綺麗ではありません。サービスし易いようにかなり長めとなっております。 まあ、可もなし不可もなしといったところか、、、、、、

データ収集

何はともあれ回路図が欲しいところです。早速日立のサービス担当にメールを送り回路図の提供をお願いいたしました。すると快く提供していただき、2日後にはサービス用技術資料が届きました。
感謝感謝!!以前ケンウッド、オンキョーさんも同じように回路図を送っていただいたことがあります。京セラさんはもう無い部署の資料まで探してくれたことがあります。オーディオ関係のサービスはコンピュータ関係に比べると格段に対応が良いような気がします。いずれにしても古い機種をいじるにはありがたいことです。
回路図を見るとそう複雑な回路ではないことがわかりました。これで何とかなりそうです。
問題はただ一つ、このアンプの特徴の一つであるノンカットオフバイアス回路です。
この部分はTM1001−01というパーツNoのモジュールになっており、セラミック基板の上にチップトランジスタが実装されています。この部分だけ回路図に品番及び抵抗の数値の記載がありません。
しかし、回路図における部品点数と基板に実装してある部品点数が一致していることから回路の解析は難しくないと思われます。但し、モジュールが生きていればの話ですが。後は、インターネットの検索サイトでHMA9500関連の情報を集めました。そう多くは無かったのですが、幾つかは有益な情報が得られました。
使用トランジスタも通販でほとんどが入手できる事がわかりました。
後は終段のMOS−FETが生きているかです。2SK135と2SJ50のコンプリメンタリですが販売店経由では入手が難しいようです。入手ルートを偶然見つけましたが日立製ではなく同等品のようです。最後の手段は耐圧が低いだけで同規格の2SK134、2SJ49の使用です。
これは手持ちのLUXMANのL-58にちょうど4ペア付いています。最悪L-58から外そうかと思いましたが、L-58もオーバーホールしたし、結構気に入ったアンプなので、できればそのままにしておきたいのでネットで探しました。2SK135、2SJ50は見つかりませんでしたが(オークションで1件ありましたが落札できず)、何とか2SK134、2SJ49を4ペア入手できました。6ランクの内のどのランクかは不明でしたが何とかなるだろうという軽い気持ち(価格は軽くはなかったですが、、)購入しました。
これで何とか修理ができそうです。但し耐圧が定格ぎりぎりですが、、、、
メーカーに在庫部品の確認をしたら供給できるのはヒューズ抵抗とヒューズのみとの事でした。
部品の破損が無いことを祈りました。
  
修理開始
 
まずは現状調査のために完全に分解しました。
基板関係はトランジスタは全て外し、トランジスタチェッカーでHfeを測定し良否を判断しました。抵抗も全て抵抗値を確認しました。その結果、トランジスタは1個が不良、更に1個が異常という結果でした。これで、大きな損傷は無いことが予想されます。その代わり素子保護のために多用されているヒューズ抵抗は惨憺たる結果で、良品率は10%もありませんでした。調整用の半固定抵抗は完全に接触不良で、これでは全く動作しない状況です。コンデンサー類は本来一番経年変化を受ける部品ですが、秋葉原からは遠く離れた当地では適当な物を見つけるのは難しいので、とりあえずパスしました。修理が上手くいったら2期工事で交換するつもりです。

いよいよMOS−FETの検査です。サービスマニュアルに記載されたテスターを利用した方法で調べると、3ペアは異常無いようです。しかし、1ペアは良否が微妙な所です。
次に実際に動作させてみる事にしました。ドレイン−ソース間に3V印加し、アイドリングの下限値の100mAになるようにゲート電圧を調整し、その時の電圧を測定いたしました。
その結果、全て動作が確認されました。怪しい1ペアもとりあえずOKとしました。

次に問題のノンカットオフバイアスモジュールです。
全てのチップトランジスタを外し、足にリード線をはんだ付けし、トランジスタチェッカーでHfeを測定しました。結果左右チャンネル合計12個のトランジスタの内1個が不良であることが判明しました。Hheの実測値、サービスデータの定格からトランジスタの規格が見えてきました。
それらの推定規格をもとにチップトランジスタを選定しましたが、通販のリストに適当な物が無く困っていた所、たまたま東京に行く機会があり、上野で新幹線の時間まで1時間半ほどあったので急いで秋葉原まで行き、何とか使えそうなチップトランジスタを購入してきました。

リレーは接点がイマイチでしたが清掃で行けそうです。
修理できる見通しが出てきました。
 
ノンカットオフバイアスモジュールの修理
  

   
モジュールのチップトランジスタ撤去後
取り外したチップトランジスタ


Hfe測定のためリード線を半田付け
トランジスタのHfe測定状況


何せ小さいトランジスタなので大変

動作確認及び改良のためコネクタを使用
    
改良点と部品調達

トランジスタは2個のみが不良でしたが、念のため全てを交換することにします。
幸い、通信販売で1種類を除き全て調達できました。全て必要個数の2倍以上の個数を購入し、Hfeを測定後ペアを組みました。ツェナーダイオードは地元の電気店で入手できました。
電源整流用のダイオードはファストリカバリーの30DF2、10DF2から31DF2、11DF2に変更しました。
オリジナルは回路保護の為ヒューズ抵抗を多用してありますが、一般的な金属皮膜抵抗に変更しました。半固定抵抗は地元でコパルの物を購入しました。
配線の線材は入力部のみ音響用を使用したのみで、他はごく普通の線材を使用します。
抵抗コンデンサ等は高級品もありますが、1本200円の抵抗を使う予算も無い為汎用品を使用します。上手く修理が完了したら、2次改修で少しは高級品を使ってみようかと思っております。リレーは接点がNGでしたが、分解し、接点復活材をかけながら磨いたらほぼ回復しましたので流用します。

部品交換

いよいよ基板の部品交換の開始です。
トランジスタ、ダイオードは新品に交換、抵抗も不良品は交換します。はんだ付け部分は経年変化で接触不良や剥離が出やすいので、交換しない部品のはんだ付けも全てやり直します。

ノンカットオフバイアスモジュールは変更を考慮してコネクタを利用しています。

バイアス回路だけに接触不良が心配でしたが、正常動作したら2次改修の時にでも直付けにする予定です。
ノンカットオフバイアスモジュール周辺

初段のFETは2SK131
パワー段の整流ダイオードは31DF2に変更しました。

いつの時点からかブリッジダイオードから変更になったようです。
両方取り付けができるようになっています。
電源部分全景
入力端子

DC−ACの切り替えスイッチ基板は撤去してDCオンリー
プリアンプのDC漏れには要注意です
撤去した部品の一部

ヒューズ抵抗が一番不良率が高い

単純な交換作業が主ななので特に問題も生じず、順調に進みました。
部品交換が終わった基板は年代を感じさせない位綺麗になりました。
  
塗装

元々そう傷も無く程度は良かったのですが、せっかくですので塗装をすることにしました。
塗装の剥げた部分はパテ埋めし、トランス上部等の文字部分はマスキングし、全体にマットブラックのスプレーを吹きます。乾燥後マスキングを外し、全体にマットクリアのスプレーを吹けば完了です。
結構上手くいき、綺麗に化粧ができました。
  

   
組立・配線

いよいよ最終組立と配線を行います。
パワーアンプであり、回路自体もシンプルなので、そう時間もかからずに終わりました。オリジナルはラッピングワイヤー方式の接続が多いのですが、配線接続は全てはんだ付けにしました。
  
   

本当はMOS−FTEはソケットを使わずはんだ付けにしたかったのですが、基板の固定もかねているのでとりあえず現状維持です。次回の改良でははんだ付けにするつもりです。
パワーアンプはプリアンプに比べ、配線の量が少ないのでオーバーホールもあっという間に終わってしまいます。
試運転までもう少し、、、、、、、。

火入れ式
  
いよいよ火入式です。
何回やっても火入式は緊張の瞬間です。
しかし、この緊張感がたまらないのですが、、、、、、但し上手くいくかどうかで天国と地獄。
 
一応安全の為パワー段の±電源に1.5Aのヒューズを入れておきます。
そうすれば最悪の場合でもFETは生き残ります。
配線を確認して深呼吸。
祈るような気持ちでスイッチ”ON”
数秒後プロテクタの赤色LEDが消え、出力リレーが”カチッ”といってONになりました。
ヒューズも飛びません。  最低限の電圧をチェックします。 特に異常なし!!
一度電源を切って、アイドル電流を監視する為FETのソース抵抗にテスターを繋ぎます。
そしてバイアス調整用のトラッピングポイントにデジタルテスターを繋ぎます。
再度スイッチON。
FETの電流値は規定値(100−300mA)の範囲に収まっています。
バイアス電圧の調整用の半固定抵抗を回すと徐々に規定値(Nチャン側2.0V、Pチャン側1.5V)に近づいて行きます。N側、P側とも半分ちょっと回したところで規定値になりました。
次に出力のDCバランスの調整です。わずか回すと0V近辺になりました。
規定値は±5mV以内ですがかなり調整がシビアです。これは半固定抵抗をもう少し抵抗値の小さい物にしたほうが良いようです。
0分程度経つと各電圧が安定してきます。終段FETの最終的なアイドル電流はFET1個当たり230mA程度です。
とりあえずは大きな問題は無いようです。

次は音出しに入ります。
入力にCDデッキの可変主力を、スピーカー端子にはいつもどおりエッジの壊れたスピーカーを繋ぎます。緊張の瞬間、、、CDを入れスイッチON。スピーカーからはCDの音が流れてきました。
ほっと胸を撫で下ろします。
裏ブタを閉じ視聴に移ります。音の傾向としては高音が伸びた華やかな感じがします。
兄弟FETの2SK134、2SJ49を使ったLUXMANのL-58と同じような音質です。
L-58から現在使っているONKYOのM-506RSに換えたときは高音の出方がかなりおとなしくなったので、なお更高音部の変化を感じます。 M-506RSの時はプリアンプ(ONKYO P509)のトーンコントロールを1目盛りブーストしていましたがフラットに戻しました。
もう少し様子を見てから12時間連続運転し再調整を行う予定です。

かくしてHMA9500 MkUの修理は完了しました。
 
     
その後
 
今後の予定は以下のとおりです。
  ・電解コンデンサの交換
  ・MOS-FET(終段)のソケット撤去
    接触不良防止のため取付け用のソケットを撤去しリード線を直接半田付けする。
  ・リレーの交換
  ・調整用半固定抵抗の抵抗値変更
DCバランス及びアイドル電流調整用半固定抵抗の抵抗値を小さいものにし、調整しやすくする、、等々。