2章 エンジンに見る慣性モーメント

【燃え尽きて、灰になるまでメグロ】

ホンダにシェアを奪われ、川崎に吸収されてしまったメグロ。

故障しなければ、最高出力と最高速の数値の大きい方が性能は優れていると、普通は考える。

しかし、一番大切なのは常用速度域での“使い心地”である。

馬力より、トルクが大事なのです。

我々は、レーシングマシンに乗っている訳では無い。

ボアは大きくても小さくても良いが、長いストロークではフライホィールも大きくなり、慣性モーメントは大きくなる。

大きな駒は慣性モーメントが大きく、低回転でもゴロンゴロンと安定しています。

四気筒より幅の狭いエンジンは低い位置に置かれています。

低い重心と四気筒より軽い車体に、複雑なサスペンションは必要ありません。

小さく軽いフライホィールは回転の上昇も軽く加速も速いが、その鼓動は小さい。

大きく重いフライホィールの回転は遅いのですが、排気音も低くてエンジンの鼓動を感じながらアクセル一定のパーシャル状態でも気持ち良い。

大きく重いフライホィールが奏でる排気音は、太くて低い音になります。

それ故、昔の単気筒は面白いのです。

当時、バイクは配達などの仕事に使われていました。

壊れては翌日の仕事に影響します。

基本的なところは頑丈に、壊れても何とか使えるように作られていました。

メグロはギアやクランクなど、基本的な所は壊れません。

頑丈なので、残っている数も多いのです。

写真は1951年Z型です。

細かい部品は工夫次第で代替使用可能です。

何度かアクセルワイヤーが切れました。

アクセルグリップから直ぐに90°曲がり、ここで切れます。

タバコを一服しながらのんびりと、アイデアを駆使しながら余裕で考えます。

これが楽しみでもあります。

そうだ、チョークワイヤーを使おう。

帰りはチョークレバーでアクセル操作をしながら、帰ってきました。

「どこで壊れても何とかなる。」メグロには絶対的な信頼がありました。

トランジスター点火等、電気系統が多くなった新車にこんな事はできません。

今のエンジンは部品を小さくし、エンジンもコンパクトに作られています。

メグロは一つ一つの部品が大きく、耐久性もあります。

単気筒は部品が一つなので、構造もシンプルです。

S5型以降はフライホイールが一回り小さくなりました。

上が私のS5型、下がS3型です。

S3型以前のメグロは大きなフライホイールを持っています。

ドッドッド、低回転の鼓動はS5型以降より力強いものです。

メグロの500cc、Z7型の最大トルクは毎分3,100回転で3.4kgmです。

1956年の250cc、メグロS3型の最大トルクは4,000回転で1,66kgmです。

1960年のS5型は同じ回転数で、1,8kgmです。

フライホイールが大きいので、トットットットッ、トルク変動が大きく、250ccでも鼓動は体に伝わって来ます。

一日中乗っていても飽きません。

  

春の初乗りで室蘭から洞爺湖に行き、気分良いのでそのまま中山峠を目指しました。

中山峠を上り、止まるのが勿体無いのでそのまま峠を越えて札幌まで行ってしまいました。

帰りは暗くなった国道36号線を、震えながら帰ってきました。

コンビニで買ったビッグコミックを皮ジャンの中に広げ、熱い缶コーヒーを何本も懐に入れて!