第3章 快楽のジャイロモーメント
【禁断の縦置きクランクシャフト―モト・グッツィ編】
回っている駒の床を右に動かすと駒の軸は左に傾きます。
駒の回っている床を一定の方向に定速で移動し、その床を進行方向に加速すると回っている駒の軸は後方に傾きます。
加速時の駒の軸は進行方向に水平で安定します。
この前後方向にクランクシャフトがある代表的なバイクはBMWです。
重いフライホィールは後ろから見て反時計回りで回り続けます。
そのトルク反力で、クランクケースは時計回りをしようとします。
お互いの動きを干渉しながら安定し、乗り手が気付かない程度に小さく左右に揺れながら反力安定の状態で前進します。
運動している物体は左右の動きが無い状態より、左右の力を受けて小さく揺れながらの方が安定します。
そのフライホィールが更に大きいのは、フィアットの小型自動車用エンジンから進化?したモト・グッツィです。
もとは軍用の設計なので、耐久性は驚異的です。
エンジンは90度V型です。
ヤマハの500cc単気筒、SR500は6,500回転で、最大出力32馬力。
6,500回転で最大トルク4,5kgmを発生します。
45度ずらし、単純に500ccを2個並べます。
1,000ccのモト・グッツィは5,200回転で最大トルク88,5Nm=9,0kgmを発生します。
@Aの間隔とABの間隔は違い、不等間隔です。
@ とAの点火時期のトルク変動に違いがあります。
これらのことから、V型2気筒は独特の鼓動を生み出します。
車用エンジンの流用なので、フライホイールは桁違いに大きくなります。
鼓動はハーレーに近く、直進安定性はBMW以上です。
だから、モト・グッツィはやめられないのです。
代わりになるバイクは無いのです。
モト・グッツィは単気筒の時代から外に露出した大きなフライホィールを持ち、大きな慣性モーメントの美味しさを知っていました。
大きなフライホイールを組み込むと、ストロークは長くなります。
同じ回転数でも、ストロークが長いとピストンリングは長い距離を通る事になります。
ストロークを短くすると、リングの負担を軽くできます。
短いストロークを実現するために、大きなフライホイールはエンジンの外に付け足しました。
重心を低くするため、エンジンは寝かしました。
こんなエンジン、イタリア人にしか作れません。
モト・グッツィはレースに、V8エンジンを造ったりします。
しかし、市販車は独創的な単気筒や二気筒を長期に渡り作り続ける不思議なメーカーで、イタリア人の考える事は分かりません。
当たり前の事を煮詰め、心地よい快楽を求めるのがイギリス人です。
笑われても良いから、究極の快楽を追求するのがイタリア人です。
メグロの魅力に浸りながら慣性モーメントについて考えていたら、モト・グッツィに辿り着きました。