第1章 燃え尽きて、灰になるまで慣性モーメント
【オートバイの慣性モーメント―エンジン編】
オートバイにはピストンの往復運動を安定させるための大きな円盤、フライホイールがエンジンの中に組み込まれています。
タイヤの他に回転運動している物として、このフライホイールが加わります。
エンジンの中には回転運動をしている部品が、沢山あります。
メグロの250ccエンジンは約5000回転で最高速度100km、時速72kmでエンジン回転数は3600rpm位になります。
時速72km、3600rpmで回っているエンジンは1分間に3600回転します。
3600÷60秒=60回転、1秒間では60回転しています。
時速36km/hで走っています。mに換算すると36km/h=36000m/h、1分間では36000m÷60分=600m/分、1秒間では600m÷60秒=10m/s。36km/hで10m/s、2倍の72km/hでは20m/s。
タイヤの直径を1mとするとタイヤ1周で約3m、72km/h=20m/sの1秒間では約7回転します。
1秒間でエンジンは60回転、タイヤは7回転 !
フライホイールはタイヤよりもはるかに高回転数で回り、その角加速度は非常に大きくなります。
フライホイールの角加速度はタイヤよりはるかに大きく、車体の運動特性に大きく影響するのです。
フライホイールの慣性モーメントと回転数で角加速度が決まり、角加速度は大きくなければ安定しません。
「パワーボール」という、遠心力で握力を鍛えるトレーニング用の器具があります。
毎分5千回転で8kg、1万回転で16kgの負荷を作り出します。
小さなボールでもこれだけの力を産み出します。
エンジンの大きなフライホイールは、さらに大きな角加速度を作り出します。
大きな力で、グイグイ引っ張ってくれるのです。
高回転型のエンジンはフライホイールを軽く作り、慣性モーメントは小さくなります。
回転体が軽いと、シュルシュルと高回転まで回ります。
重いと、高回転まで回りません。
高回転でなければ大きな角加速度が得られない高回転型エンジンは、低回転では安定しません。
アイドリングの回転数も、高くなります。
常にアクセル全開で緊張の連続、回転数を下げると角加速度は小さくなり、不安定になります。
フライホイールが大きく重いエンジンは、かなりの低回転でも惰性で回転します。
ドッ!ドッ!ドッ!停まりそうで停まらない。
ギクシャクしながら、タイヤを振るわせるアイドリングには鼓動を感じます。
フライホイールが重く、低回転でも大きな慣性モーメントが得られる低回転型エンジンは、高回転まで回りません。
重すぎて、高回転までは回らないのです。
低速でも慣性モーメントが大きいので、低回転でも角加速度が大きく、安定しています。
この様なエンジンは低回転=低速でも安定性が強く、曲がる為には仕事が必要になります。
腰を入れて車体を寝かせないと、曲がりません。
ライダーが横Gを感じながら仕事をする、ただ曲がるだけでも面白いのです。
フライホイールの慣性モーメントをどの様に組み込むかで二輪の性格、味付けは大きく変わります。
その乗り味は誰でも体験できます、だから二輪は面白いのです。