第2章 エンジンに見る慣性モーメント
【気持ちの良い音】
オートバイの音について考えてみます。
大昔のメグロの単気筒は、ドッドッドッと良い音でした。
メグロが珍しくなった今、その音を聞けるのは非常に恵まれた方です。
キャブトンマフラーに変えている物が多い現状では、普通は聞けません。
キャブトンマフラーはパンパンパンパンと、硬い音になります。
イギリスのトライアンフもキャブトン似ですが、柔らかい音です。
メグロよりはトライアンフの方が、聞ける機会は多いと思います。
低音で、歯切れの良い音がします。
今のバイクにキャブトンマフラーを付けると硬い音になります。
昔のバイクは柔らかい音になります、何故でしょ?
皆さんが何とか聞く事のできる良い音は、ハーレーです。
でも、多くのハーレーはマフラーを変えています。
乗っている本人は気持ち良いのかも知れませんが、パンパンパンと硬い音になっている物が多いようです。
乗っている本人は「良い音で、皆が振り返る。」と、言います。
それは、大変な誤解です。
うるさいから、びっくりして振り返るのです。
メグロのK1,K2の2気筒や、キャブが1個のW1なども低音で柔らかい良い音でした。
1個しかないのでキャブ調整も楽で、燃費も30km位走ったそうです。
キャブが2個になったW1Sからはキャブトンマフラーになり、音は硬くなってしまいました。
メグロのハンドリングは、歩くような低速でもどっしりと落ち着いていました。
W1Sの低速はフラフラと、安定感にかけます。
話は横にそれましたが、良い音とは低音で歯切れ良く、柔らかい音のことです。
トントントントン、あるいはドッドッドッ!
どちらにしても低音で柔らかく、歯切れの良い音が条件です。
何故、音は変わってしまったのでしょうか?
「高回転まで回る=軽いクランク」で、慣性モーメントを小さくした事が原因です。
高回転型になり、低音は出なくなったのです。
音楽の世界で考えてみます。
低音を出すのは、太い弦です。
ギターの太い弦は低音、細い弦は高音を出します。
最近のオーディオ機器は小型になりました。
低音は、かなり細い音になっています。
同じ低音でも、エネルギーは小さいのです。
長い時間聞くと、耳に刺さります。
低音も出ますが、小さいので古い大きな機器にはかないません。
昔のステレオはかなり大型でした。
低音は体に振動が伝わるほど、エネルギーの大きなものでした。
小さなスピーカーで頑張っても、気持ちの良い低音にはならないのです。
エネルギーが小さいので、遠くまでは聞こえません。
真空管アンプで音楽を聴いていると、妻がびっくりして帰ってきました。
外までガンガン聞こえているよ!
普段と同じ位の音量なのですが、真空管の音質は太く、遠くまで届くようです。
バイオリンをそのまま大きくしたような、コントラバスと言う楽器があります。
ドゥン,ドゥン,ドゥンと、低くて柔らかい良い音がします。
ジャズやクラシックなどで良く使われますが、これで太い低音が作れるのです。
小さなトランペットより大きなサックスの方が、太い低音になります。
小さな太鼓はテンテンと軽い高音を出しますが、大太鼓は図太い低音で遠くまで聞こえます。
大きな楽器の低音は小さな音でも、遠くまで聞こえます。
大きく重い楽器でなければ、太い本来の低音は出せないのです。
知人の飼っている犬は、メグロが1km離れた陸橋を越えるとほえます。
排気音は太い低音で犬には聞こえ、ご主人の帰宅を知るのです。
低くて遠くまで聞こえるような、大きなエネルギーを持った低音。
このような低音は、大きなフライホイールのエンジンにしか作れないのです。
気持ちの良い排気音とは、この様な音を言うのです。
快感〜!