発行所:聞光寺発行人:釋温成寺報

第86号 2014/7/1発行

第85号

さるべき業縁のもよおせば、如何なる振る舞いもすべし。

立っている大地は

この春4月26日から6月8日まで、長岡の新潟県立歴史博物館で開催されていた「親鸞となむの大地」展は、県内外から沢山の方々が訪れられ賑やかに終わりました。

この展覧会は、新潟県の真宗寺院が中心となり開催されましたが、なぜ「なむの大地」という名だったのでしょうか。

それは、越後は真宗門徒によって開墾された土地だからでありましょう。

親鸞聖人が「承元の法難」によって越後に流罪となった頃には聖人の教えの影響を受けた方々が多くおられたことでしょう。

上杉謙信の若き頃には、越後から門徒がいなくなっていたのです。

しかし、門徒の人が許されたのは、謙信が都へ行く為に北陸の一向宗(門徒)と和平を結んでからです。

北陸方面と信濃方面から、お寺とそれにかかわる僧侶と門徒が沢山移動してくるのです。

当時の越後は、多くの大きな暴れ川があり、大地は沼地のようになっていた所が多かったようです。

遅れて越後に入ってきた門徒たちは、そんな沼地や荒れ地しか残っていない大地を一生懸命開墾し育ててきたからこそ、今では門徒さんや寺院は、平場に多くあることや、新潟県の中心となる盛んな街が、真宗寺院を中心に出来上がっているのです。

念仏と共に育ってきた真宗門徒が作ってきた大地だから「なむの大地」と言えるのでしょう。

しかし、並大抵の事では開拓できないのですから、今の自分たちの生活を見るときには、嬉しい事や良かった事以上に、悲しく辛い嫌な事の方が多くあった事を忘れてはならないのです。

そんな歩みの中に、念仏と共に生きる事によって、念仏が、それらをひとつひとつ乗り越えて、確実な大地を作って行く力を下さったのではないでしょうか。

今年になって群馬県の富岡製糸場関係の場所が、世界遺産として認定され、明治以後の日本の発展する歴史が感じられます。

しかし、日本が殖産興業・富国強兵を叫びながら急いで近代化してゆく歩みの中に、素晴らしいものが沢山ありますが、それらを支えてきた悲しい歴史のあることも忘れてはなりません。

今やっている、朝の連続テレビ小説の中でもあらわされていたように、製糸場のほとんどが、今で言うブラック企業と変わりのないことを、貧しい人達に強いて、生活格差を作り差別社会を助長してきた歴史を持っております。

世界遺産を見つめる時、前述の歴史をも含めて、接しなければならないと思います。

ただ素晴らしい建物等が残っているというだけでなく、大きな苦しみや悲しみの上に築かれてきた遺産が、遠い昔から現代にいたるまで、多くの亡き人たちによって支えられてきた事を、忘れかけている日本人の心に、留めてほしいと、世界の人達が問いかけて下さったのが世界遺産ではないでしょうか。

合掌

聞光寺親睦旅行

安田  上野 昭一

今回の親睦旅行は、いつもの旅行とは少々趣を異にしての旅である。

あの世界中を震撼とさせた東日本大震災、3年を過ぎた現況に接すべく、2泊3日のバスの長旅である。

6月18日朝6時半、バスは定刻通りに出発した。

バスは地元越後交通の中型車、ベテランガイド付き、ゆったりとした車内、申し分ない雰囲気、一行は和気あいあいの中、順調に第一の目的地である福島の菊祭りで有名な二本松は、真行寺に到着した。

町中の大きな真宗寺院、早速、本堂で若い住職様よりお話をお聞きした。

此処は、福島第一原発より50キロ離れた地で、事故による大量汚染は免れたが、目に見えない放射能の恐怖は深刻で、今尚、暗い影に脅えてるとのことです。

引き続き幼稚園の副園長であられる坊守様より、お子さんとの他所の地での長い避難生活の話。

そして、放射線害に最も敏感といわれる園児を守るための切実な苦労話、同じ原発立地の住民として、胸に迫る思いで聞き入ったのは言うまでもありません。

その後バスは、一気に北上し、南三陸は志津川に入った。

此処は、途中の田園地帯と打って変わって地震・津波の後の惨状そのまま、瓦礫はほとんど片付けられたのでしょう、茫々たる更地です。町がすっぽり津波に浚われたのです。

早速、御地の語り部なるお方が同乗され、時あたかも深い霧に覆われた罹災地を、懇切丁寧にガイドして頂いた。

津波でなくなったと言う平場の小学校跡、そこから少し離れた高台の中学校、この学校の基礎部分に達する想像を絶する30メートル余の巨大な津波。唯々驚くばかりだ。

続いてバスは、志津川の防災拠点だった、あの三階建ての赤く錆びた鉄の残骸の前についた。

大津波の到来を訴え続け、殉職した若い市の職員たち。

また、此処へ避難して居て亡くなった多数の市民。今も供花と香煙の絶えることはない。

遅々として進まない被災地の現状を視察。その後今夜の宿、志津川温泉ホテル観洋。

ここは天国、温泉に浸り懇親会に寛いだ。

2日目は、霧も晴れた名勝松島。瑞巌寺周辺散策の後、松島遊覧の船旅。名物蒲鉾工場見学、そして昼食。

「アクアマリン福島」見学、予定より一寸遅れて五浦観光ホテルに到着。泊まり。

3日目、国営ひたち海浜公園。めんたいパーク。水戸を廻っての帰路。

お土産を買うのも被災地支援。空いた車内も満杯です。

実り多かった今回の旅行。お世話して頂いた住職をはじめ、同行各位に感謝をいたします。

合掌