未来のイヴ(冒頭のみ)

L'Eve future

ヴィリエ・ド・リラダン Villiers de L'Isle-Adam

石波杏訳 Kyo Ishinami




 転変ノ中ニ永遠ヲ探求セヨ
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読者への注意

 本書の主人公について、ありうる誤解を事前に防いでおくのが得策だろう。
 今日では誰しもご存知の通り、最も著名な米国の発明家であるエジソン氏は、この十五年の間に奇妙にして独創的な数々の発明品を生み出した。――中でも、電話、蓄音機、マイクロフォン――そしてあの、地球全体に普及している電灯という素晴らしい発明――他にも驚くべき品々が数多くあることは言うまでもない。
 米国と欧州では、大衆の想像の中に、この偉大な合衆国市民をめぐる伝説が生まれた。大衆は彼を、「世紀の大魔術師」、「メンロー・パークの魔法使い」、「蓄音機のパパ」等々、空想的なニックネームで呼ぼうとする。彼の祖国でも外国でも――当然ながら――巻き起こった熱狂は、大衆の頭の中で、ある種の神秘的な特性を(あるいはそれに似た何かを)エジソン氏に付与した。
 こうなると、この伝説中の人物は、――たとえその元になった人が存命であっても――人類の文学のものではないだろうか。――別の言い方をすれば、もしもヨハネス・ファウスト博士がヴォルフガング・ゲーテと同時代に生きていて、その象徴的伝説を生み出したのだとしても、それでも『ファウスト』は作品として正当なものではないだろうか。
 ――こういうわけで、本書のエジソン、その人格、住居、言葉、理論などは、現実のそれらとは少なくとも一定程度の隔たりがあり、そして隔たりがあって然るべきなのだ。
 現代の伝説について、私が思い描いてきた形而上学的芸術作品のために最も役立つような形で解釈するのは当然のことであり、要するに、本書の主人公は何をおいても「メンロー・パークの魔法使い」等々なのであって、我々の同時代人たる工学者エジソン氏ではないのである。
 お断りはこの他にはない。
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 夢見る人々へ。あざ笑う人々へ。
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第一巻 エジソン氏

 一 メンローパーク

庭園は麗しい女性のように
喜びのうちにまどろみ
広い空にまぶたを閉ざす
天にある紺碧の野には
光の花が大きな円をなす
アイリスの花と紺の葉に
しずくの玉は輝く
夕の青さにきらめく星のように
ジャイルズ・フレッチャー

 ニューヨークから二十五里、送電線のネットワークの中心に、深く静かな庭園に囲まれた邸宅がある。建物の正面には見事な芝生が広がり、そこを横切る砂の小径を歩いていくと、一軒の大きな離れ屋敷のような建物に行きつく。南側と西側には、老木の並ぶ長い並木道がそれぞれ延びて、枝影を離れのほうに投げかけている。メンロー・パークの第1号館。――ここに、山びこを捕らえた男、トーマス・アルバ・エジソンが住んでいる。
 エジソンは四二歳の男だ。数年前の彼の顔つきは、かの有名なフランス人、ギュスターヴ・ドレに驚くほど似ていた。あの芸術家の顔が学者の顔へと翻訳されたと言っても良いほどだった。同じく天賦の才を持ち、異なる方途に活用する。神秘的な双生児。二人が完全に似ていたのは何歳の頃だろうか。いや、そんな時期は無かっただろう。二人の写真を立体鏡ステレオスコープで重ねて見ると、知的な印象を強く呼び起こす。それは立派な人々の肖像が社会に流布する貨幣に刻まれたとき初めて存分に実現されるほどの印象だった。
 エジソンの顔はと言うと、それを古代の打刻画と比べるなら、シラクスのメダルに刻まれたアルキメデスがそのまま甦ったかのようだった。
 さて、何年か前の秋の夕方、五時頃のこと。多数の栄光を生み出す驚異の発明家、耳の魔術師エジソン(彼はほとんど聾者であり、いわば科学界のベートーヴェンであったが、自身のために発明したごく小さな器具を鼓膜付近の開口部に装着すると、難聴を克服できるだけでなく、以前以上に聴覚を鋭くできるのだった)、彼は実験室の一番奥に、すなわち邸宅から離れたあの別棟に籠っていた。
 その夕方、工学者エジソンは、彼の作業場で主任を務める五人の助手を既に帰宅させていた。彼らは献身的で知識豊富で技術もある工員であり、エジソンから潤沢な報酬を与えられ、彼のために固く秘密を守った。エジソンは独りでアメリカ製の安楽椅子に座り、肘をついて、ハバナ煙草をくわえ――煙草は雄大な企画を夢想に変えてしまうから普段はほとんど吸わないのだが――、その目はぼんやりと一点を見つめ、脚を組み、既に伝説的になっているゆったりとして紫の入った黒いシルクの上着を羽織り、深い瞑想にふけっているように見えた。
 右側には西向きの大きな窓が開いていて、この広い伏魔殿パンデモニウムに風を送り込み、あらゆる物を赤く金色の靄で覆わせていた。
 あちらこちらにテーブルが何卓もあり、そこには精密機器、機構不明の歯車、電気装置、望遠鏡、反射鏡、巨大な磁石、チューブに繋がれたフラスコ、謎の物質で一杯の小瓶、方程式で埋まった石板などがある。
 外で地平線の向こうに落ちる夕日は、楓や松の茂るニュージャージーの丘の遥かな緑に別れを告げつつ、きらきらと光の筋を投げかけ、時おり室内を赤紫の煌きやまばゆい光線で照らす。そんな時には、金属の鋭角、ガラスの平面、電池の丸み、それらが至る所で赤く血を流すのだった。
 風が冷えてきた。昼間の嵐は庭園のハーブを濡らし、――窓の下の緑色のプランターに咲いた、重くかぐわしいアジアの花も濡らした。滑車の間の横木につるされた乾いた植物は、気温のおかげで元気になり、森の中で過ごした頃の豊かな人生の記憶を示すかのようにその香りを放っていた。瞑想家エジソンの思考は普段なら強靭で活発なものであるが、この雰囲気の微妙な作用のもとで――弛緩し、知らず知らず幻想と夕暮れの魅力に誘惑されていった。
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 二 蓄音機の父

奴だ!ああ!……僕は暗闇の中で目を見開いて言った。あれは砂男だ!
ホフマン「夜話」

 髪が灰色になりつつあるとはいえ、彼の顔はいつでも永遠の子供という印象を与えた。しかしエジソンは懐疑派の徒であった。彼によれば、自分が発明するのは小麦が育つのと変わらないのだという。
 冷ややかに、駆けだしのころの苦い経験を思い出しながら、彼は微笑した。多くの代償と引き換えに得たその微笑は、いわば、隣にいるだけで「行け!俺がついてる」と言われた気になるような、頼りになる人間の微笑だった。――実証主義者たる彼は、非常にもっともらしい理論であっても、それを事実にきちんと当てはめて確認するまでは評価しない。「人道主義者」たる彼は、自身の天才よりも自身の労働に誇りを持っている。しかし自身の賢さを他人と比較してみると、その結果の明らかさに絶望を覚えた。彼の好む奇癖は、ある種の正当な自惚れによって、自らを無知と考えることであった。
 こういうわけで彼は、裏表のない歓待や粗雑な率直さという――時には一見親しげにも見える――ヴェールをまとい、自身の思想の冷徹さを包み込んでいた。貧乏という栄光を経験したことのある真の天才たる彼は、自身と会話する人々の価値をひと目で測ることができる。誉め言葉の本当の動機が何カラットあるかを測り、その真贋と品質を見極め、それがどれほど誠実であるかを無限小の近似値で導き出す方法を知っている。しかもその全てを相手には永遠に気付かせないのである。
 偉大な電気学者エジソンは、自分が独創的な知性に恵まれていると証明したことによって、瞑想の中ならば自分自身のことさえ嘲笑する権利を得たと考えている。かくして彼は、砥石でナイフを研ぐように、辛辣な皮肉によって科学精神を研ぐのだが、その火花は自身の発明品にも降りかかる。つまり味方の軍勢に発砲するふりをするのだ。しかしほとんどの場合それは実弾ではなく、士気向上の空砲にすぎないのだった。
 身にしみるような夕暮れの魅力へと自分から身をゆだね、エジソンは楽な気持ちで、この夕暮れの詩情と孤独を、愚者ならば恐れる尊い孤独を、拒むことなく楽しみ、ハバナ煙草の極上の煙を静かに味わった。
 ありふれた凡人のように気を緩めて、あらゆる種類の非現実的な奇妙な妄想にさえ耽るのだった。
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 三 エジソンの嘆き

あらゆる悲しみは自己の縮小である。
スピノザ

 彼は一人、低い声でつぶやいた。
「私はこの人間界に生まれるのが、あまりにも遅すぎた!」そう言ったのだ。「なぜ私は人類の一人目に生まれなかったのだ!……そうすればたくさんの偉大な言葉が今日でも、『改変禁止』で――(原文ママ)で――元の言葉通りに、私の円筒蓄音機の原盤に刻まれていたろうに。何しろその驚異的な改良で、今後は遠方からの音波さえ集められるのだから!」……それら全ての言葉は、声調、声色、アクセントとともに記録され、さらには発話者の発音上の欠点さえも保存されていただろう。
 「光あれフィアト・ルクス!」というあの叫びを電気メッキで蓄音機に記録したいとまでは言わない。というのも、あれはもう七十二世紀も前のことであるから(それにあの叫びは、事実かどうかはともかく歴史を超えた大昔のもので、どんな蓄音技術でも捉えられないだろうから)。しかしおそらく、――例えばリリスが死んでアダムが独身でいた頃に――、エデンの園の草むらあたりに身を潜め、まずはあの「ひとひとりなるはよからず」という崇高な独り言を捉えて記録するくらいなら出来たろう。――さらには「汝等神の如くなるべし!」とか「生めよえよ!」とか……、ついにはエロヒムの陰鬱な冗談、「よ、アダムは我等のひとりの如くなりぬ」とか――他にも色々だ!……その後、私の振動板の秘密が広まってしまえば、私の後継者たちはどれほど楽しめることだろう。異教パガニスムが高まる時代なら、例えば有名な「最も美しい女神に!」――「le Quos ego!」――ドドナの神託、――それに巫女シビルラの歌も!……そうした人間と神々の全ての重要な言葉が、数々の時代を通して、消えることのない銅板の記録アルシーヴに刻み込まれよう。そうすれば、伝説が真実だったかどうかと後の時代に疑うこともなくなるのだ。
 過去の音響の中に、先人たちはたくさんの神秘的な音色を聴いていたというのに、それらを保存する適切な装置がなかったために、響きは永遠に失われてしまった。実際のところ、ジェリコのラッパの音、ファラリスの雄牛の叫び声、二人の占い師の笑い、夜明けのメムノンの溜息、これらの音について現代の誰が正確にイメージできるだろう。
 没した声、失われた音、忘れられた響き。深淵の中へと走り去り、今では遠すぎて捉えられない振動! このような鳥の群れを、いかなる矢が狙えようか?
 エジソンはすぐそばの壁についている陶器製のボタンを無造作に押した。彼の安楽椅子から十歩のところにある古いガルバニ電池から、まばゆく青い閃光が走り、象の大群でさえ感電死させられるような強さで、溶解力を持つ稲妻が水晶の塊を貫き、――そして十万分の一秒以内に消えた。
「そうだ」この偉大な機械工学者は落ち着いて続けた。「私にはこの電気の火花がある。……火花と音とを比べれば、処女犬と亀のようなものだ。電気なら、地球の深い溝の底で大昔に響いた音を追って、五十世紀以上も遡れるかもしれない!……しかし、どんな電線で、どんな筋道で送ってやろうか。……音をつかまえた後に、音を狩る我々の鼓膜へとそれを甦らせるためには、電気をどう使ってやろうか。……これは解きがたい問題だ、少なくとも今はそう思える」
 エジソンは憂鬱そうに、小指を揺らして葉巻の灰を落とした。――沈黙の後に彼は微笑みを浮かべて立ち上がり、実験室の中を歩き回り始めた。
「私の蓄音機なしに過ごしてきた悲惨な六千年とさらに数年の後で」彼は続けた。「私の最初の試作品が世に出ると、人々は無関心から嘲笑した!……『子供の玩具だ』と大衆は不満気にこぼしていた。確かに奴らにとってみれば予想外のことをやられたのだから、ふざけた事でも言って安心したいだろうし、気を取り直す時間を稼ぎたいだろう。……しかし私が奴らの立場なら、冗談を言うにしても、恥知らずに下らない言葉を投げつけるのじゃなく、もっと上手く洗練された冗談を仕上げただろうにな。
 そうだ、私なら例えばこういう難癖だ、蓄音機といえども再現できない音もあるでしょう、ローマ帝国崩壊の……音、……雄弁な沈黙の……音、……そして声についても、内なる良心の声も、……血縁の――声も……、偉人が言ったことになっている名言も……、「白鳥の歌」も……、モノトーンも、天の川の流れの声も、録音はできませんね。できませんとも! いや、これはやりすぎだ。――ただ、同志諸君に満足してもらえるような機械を発明する必要があるとは痛感している。つまり、人が喋り終える前にその言葉を返したり、――実験者が『やあ、こんにちは!』と言うと『どうも、お元気ですか?』と答える機械。あるいは、見物席の暇人がくしゃみをした時に『大丈夫?』とか『お大事に!』とか言える機械を。
 実に驚くべきものだ、人間というのは。
 確かに私の最初の蓄音機は、「良心」が道化師ポリシネルの金切り声で喋っているようなものだった。だが軽々しく文句を言わず、少し待っていればいいんだ、畜生! ニセフォール・ニエプスやダゲールの最初の銀板写真が、今のフォトクロミック版やヘリオタイプ版のカラー写真になったように、蓄音機も進歩して改善されるんだから。
 ――いいだろう、我々に対する偏執狂的な疑念は不治のものなのだ。新たな時代が来るまでは、あの驚くべき、絶対的な発明品のことは秘密にしておくことにしよう!……――あれはここの、地下にあるのだ!――エジソンはそう付け加え、片足で軽く床を蹴った。――そうしておけば古い蓄音機が五百万か六百万は売りさばける――それに、人はみな笑いたいのだから……私は一番最後に笑ってやろう」
 彼は呟くのをやめ、少し考えをめぐらせてから……
「へえ!」肩をすくめて言った。「要するに、人間の愚かさにも常に何かしらの取り柄があるということか――ああ、下らない冗談はやめよう」
 すると突然、澄んだささやき声、若い女のやわらかな声が、彼のそばでつぶやいた。
「エジソン様?」
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 四 ソワナ

なぜ何かに動じるのか。
ストア派

 しかしそこには影さえも無かった。
 彼は身震いした。
「あなたは……ソワナ?」彼は大きな声で尋ねた。
「ええ――、今夜はぐっすりと眠りたかったのです! 例の指輪をはめました。いま指につけていますわ。普段通りの声で大丈夫です、そばにいますから。先ほどから、子供みたいに言葉遊びをされてるのを聞いていました」
「それで、肉体的にはどこにいるのです?」
「地下室で、毛皮の上に寝そべって、『鳥の茂み』の陰におります。アダリーは眠っているみたいですね。錠剤と純水を与えておきましたから、すっかり……生き返ったようです」
 電気学者からソワナと呼ばれた目に見えない存在の声は、最後の言葉を笑いながら言ったが、依然として控えめに低く、紫色の布のかかったペグの中で響いていた。棒は音響板の働きをして、遥か遠くから電気で伝わった囁きにより振動する。これはつい最近発明された新しい蓄電器コンデンサであり、音節の発音も音色もはっきりと伝わるのだった。
「どうでしょう、アンダーソン夫人」エジソンは少し考えてから言った。「誰かが今ここで私に話しかけたとしたら、あなたにも聞き取れますかね?」
「ええ、あなたの口でそれを小さな声で繰り返して下されば。お相手に返事する時は調子を変えて下されば、会話も分かりますわ。ねえエジソン様、わたくし、『千一夜物語』の指輪の精みたいでしょう」
「では、あなたが今話しているこの電話線を、例の若い体に繋いで頂けたら、以前話したあの奇跡が起こるでしょうかね?」
「もちろんです。独創的な夢のような不思議なことですが、実現してしまえば、全く自然なことになるでしょう。
 こういうことでしょうね。エジソン様の指輪に蓄積された生命流体で飽和して、不思議な融合体になっている私には、あなたの声を聞くために電話など必要ありません。ただ、あなたやお客様のほうで私の声を聞き取るには、いま私が送話器を持っている電話が何らかの音響板に接続されている必要があるのでしょう。もちろん、人目につかないように隠して繋げるのでしょうけれど」
「それで、アンダーソン夫人……」
「『眠りの名』で呼んでください。ここにいる時の私は、単なる私ではないのですから。ここにいる時には全てを忘れ――何の苦しみもありません。別の名前で呼ばれると、まだ捨てきれないあの恐ろしい地上の記憶を思い出してしまいます」
「ソワナ、本当にアダリーは大丈夫なのですね?」
「あの美しいアダリーのことは、あなたがよく教えてくれました。それに、自分でも研究したのです。請け合います……鏡に映る自分の姿と同じくらい、確かなものですわ。私は自分でいるよりも、あの生気のある娘になりたいのです。なんという崇高な存在なんでしょう! アダリーは今この時の私と同じ、高次元の状態で存在しています。そして融合した私たちの二つの意志が、彼女の中に染みわたっているのです。それは二重の存在なのです。意識ではありません、魂です! 『私は影』などと彼女が言うのは悩ましいことです。――ああ、予感がします――アダリーが化身する!……」
 表面的にはわずかな驚きしか見せず、「そうですか。おやすみなさい、ソワナ」電気学者は小声で答えた。「ああ!この偉大な事業が完成するには、三番目の人物が必要です!……自身が適役だ、という者が果たして地上にいるでしょうか?」
「ねえ……、今晩私のほうは準備しておきます。火花ひとつ送って下されば、アダリーが現れるでしょう!」その声は眠りに落ちそうな調子で言った。
 この理解しがたい奇妙な会話が終わると、しばらく神秘的な沈黙があった。
「実際こんな現象にはいくらでも出会ってきたはずだが、それでもやはり、眩暈がするものだな!……」エジソンは独り言のようにつぶやいた。「しかし全く、こんなことに頭を悩ますくらいなら――、むしろあの……誰も聞くことのなかった……言葉について思いをめぐらせたほうがいい! 私の前には誰も蓄音機というものを思いつかず、あの言葉たちのアクセントを云々することなどできなかったのだからな」
 今問われていた――奇怪な!――秘密を、この偉大な工学者が急に安々と片付けたのはどういうわけだろうか?
 ああ! 天才とはそういうものだ。彼らはしばしば、自身の真の思想からあえて目を背けようと努めているように見える。彼が独りの時でさえそうしなければいけない理由を我々が初めて悟るのは……、炎が燃え立つように、その思想が明らかになるときだけである。
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※史上初のアンドロイド小説といわれる L'Eve future の冒頭の日本語訳です。「全六巻」のうち、「第一巻」の「四」まで。





底本:Auguste Villiers de l'Isle-Adam [1886] L'Eve future.
底本の言語:仏語
翻訳・公開:石波杏
2018年01月28日公開
2018年01月28日最終更新

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