心−写真について−

写真家が作品を生み出す作業は、客観性と主観性の葛藤から始まる。
真実を導く記録としての写真、個性を主張する芸術としての写真、写真はこの両面性を持つ。
作品を通して被写体に心を語らせるのか、写真家が別の心を吹き込んでゆくのか。
場合によっては、写真は真実を写さない、ということもある。
あまりに強い意志を主張する被写体は、時には写真家を片隅に追いやってしまう。
私流に、その身体に、あそこの風景に、私を語らせようか。
その対象に私の生命を吹き込もう。そして、私の存在を語りたい。


Harajuku Paradigm

休日に原宿にたたずむ彼女たちを見ていて、そのまなざしが語るものを知りたくなった。
事実を写し取ることから真実を見つけだそう、そんな思いから彼女たちの姿を撮り始めた。
ふと気づくと、真実探しの迷路に入ってしまった。写真は事実を語るのみなのだから。



透明な匂い

ここに身体の一部を切り取ってみた。そして、この身体に私を語らせようと思う。
目の前にある身体が、私の問いかけに揺れている。柔らかい光をまとってゆく。
身体が発する艶かしい香りも、私の見つめるまなざしによって透明な匂いと化してゆく。


土方巽の衣

舞人・竹内理恵、彼女とのコラボレーションは、舞踏家土方巽の衣を纏うことから始まった。
今は亡き土方巽に想いを寄せる人々の目には、きっとこの衣に土方の心が宿って見えるのだ。
この衣を纏った彼女は、その心を通して別人へと変身してゆく。私は熱いものを感じた。


ヘナ・タトゥ

ヘナはインドをはじめ熱帯地方の装飾文化として発達した。肌に塗ると体温を下げる効果がある。
ヘナの塗料を塗った部分が3〜4日で茶色に発色し、2〜3週間で消え去ってしまうタトゥである。
これは、ヘナ・アーティスト菅沼ゆきこさんとモデル三岡千景さんとのコラボレーションである。


心の境界線

人の心は不思議だ。愛情、友情、孤独、心のあり方は表情に表れ、心の境界線を創りあげてゆく。
離れても繋がる心、隣合う無関係な心、空間を共有することと、心が交わることは別のことだ。
喜怒哀楽、以心伝心、一期一会、街中に繰り広がられる人間の豊かな心の行動を捉えたかった。



光に流されて

光は幸せを象徴する。まるで光によって幸福化された身体がそこには漂っているかのようだ。
ゆれる身体が何を感じているのか、まなざしが何を見つめているのか、人は心に陰を持つ。
光は彼女の柔らかそうな心だけを伝える。彼女に彼女であるための真実は語らせない。