「影」モチーフに
しかし、思い直して筆を取り、一気に描き上げたのが「水景」(F100号)だった。 自宅の近くを流れる新城川の水面に映る光景を緻密(ちみつ)なタッチで表現したもので、静寂、幽玄の 世界が広がる。
日常の見たまま、感じたままを絵にする中で、一貫して「影」をモチーフとしてきた。 実体から遊離していながらも実体を映し出す存在に不可思議な魅力を感じてのことだ。
「研究会での指摘は心に突き刺さったが、作風を変えるつもりはなかった。しかし、いい発奮材料を 与えてくれたことに感謝している。特異な題材、画風だけに、認められてうれしい」と念願の 特選受賞を喜んでいる。
八竜町出身。三歳の時、高熱が原因で耳が不自由になった。県立聾学校を経て、絵の道を志して 筑波大学付属聾学校で学んだ。
日洋会委員。県芸術選奨(平成三年度)、安田火災美術財団奨励賞(五年)、春の日洋展委員賞(七年) 受賞。昨年はパリで開かれた「日本現代美術代表作家選抜二十人展」に出品している。 県立近代美術館に三点が収蔵されている。