2024年6月


郵便料金が値上がりするとのことですが、さもありなんという気持ちで受け止めています。全国一律の郵便料金で、離島でも過疎地でもわずか1通でも配達するのですから、値上げはやむを得ないでしょう。人件費や、燃料費など高騰していますから値上げは当然のことと捉えています。それにしても最近はめっきり手紙を書くことが少なくなってしまいました。

私は以前はかなり筆まめな方で、しょっちゅう手紙を書いていましたし、下手な絵手紙を書いては知人に送ったりしていました。そういえば高校時代には大好きな歌手にファンレターなるものも何百通も出しましたから、毎週必ずペンを持っていましたね。当然のように、かわいい便箋、きれいな便箋を求めてはあちこちで探して書いていたように思います。私の文箱には今もたくさんの便箋や封筒が残っていますが、中には郵便番号が5ケタの時の封筒もあります。
鳩居堂やはいばらで購入したものは和紙で素敵な絵柄のものが多く、そのほとんどは便箋と封筒がセットですから、もったいなくて捨てきれないのですが、そんな古い封筒は郵便番号の桁数が違いますから、使いたくても使うわけにもいかず、新しいものを買ってしまいますので、文箱にそのまま置いてあるということです。

先日墨痕鮮やかな封書が届きました。中は巻紙でお茶時の案内状でした。私の通う稽古場では時折茶事をするのですが、亭主になった人は案内状を必ず出します。普段お稽古しているのは11人で、そのうち他で教えている教授の方が4人おり、他の方も茶名を持っている人がほとんどですので、かなり本格的な茶事がたびたびあります。
以前通っていたお稽古場では簡単なお茶会しかありませんでしたので、こちらに通うようになってからは勉強することばかりで、その一つが巻紙での案内状です。

案内状をいただくと私からはその返事を出さなければなりませんが、それも巻紙で筆でというのが正式なのですが、私は筆ペンで失礼しています。しかも悪筆ですから恥ずかしさでいっぱいです。
茶事が終わればまた同じようにお礼状をお出しします。

昨今こういった手紙のやり取りは珍しいことでしょうが、私はそのしきたりを守ろうとする茶道の世界やそれを守り続ける先輩方に頭が下がる思いです。
まだ私自身は亭主になったことがありませんが、もしその役になったらと思うと冷や汗が出てきそうです。
今回は暑くなってきたことでもあり、朝茶事ということですから、とてもワクワクしました。

その朝は、雨が降っていましたが、朝早く着物を着て出かけました。若いころに京都で作家の方に花の絵柄を描いていただいた単衣の着物です。
雨でしたので直接茶室に入りましたが、懐石をいただいてからは雨が上がりましたので、外の待合で皆さんと待ち、銅鑼の音で路地を歩いて蹲踞で手を清め、茶室のあの小さな躙り口から部屋に入り、薄明かりの中で濃茶、薄茶と頂きました。

静寂と、会話の和やかさとで、気持ちが高揚したひと時でした。
今回のお茶事では、初めて目にする軸や、茶入れや茶碗などのお道具の素晴らしさに目を奪われたのはもちろんですが、空気感が心を穏やかにしてくれて、最後に一人ひとりが亭主にお礼のご挨拶をする際に、私はお礼を述べながら知らずに涙ぐんでしまいました。それほどに感動し、まさに琴線に触れるひと時でした。

あわただしさの中で時間を送っていますと、すべてがルーティーンになってしまいがちですが、時折こんなふうにゆったりとした時間を持つことがどんなに大切かを感じました。
「時は金なり」という言葉がありますが、「時は命なり」と感じた素晴らしい一日でした。

自分自身を見つめ直すことができる時間と空間はこれからも大切にしたいと思います。