・今風のパンクは果たしてパンクと言えるのだろうか?

別にパンクでいいじゃないと思うんですけどね…。「パンクとは精神だ!」とか言う前に、パンクは音楽的観点からは、演奏法の1つにすぎないのですから。それに、ラモーンズやバズコックスなど初期パンクだって今からすれば十分ポップなわけです。激しく、アグレッシヴなもの=パンクではなくて、激しいものやポップでメロディアスのものも含めたもの=パンクで結構だと思います。それに、当然ですがパンクも多のジャンルとクロス・オーバーしたりしているので、今や、パンクとパンクで無いものの境界は非常に曖昧になりつつあります。あと、パンクって実際には「PUNK ROCK」と呼ばれていて、ロックの1種なのです。

まあ、「パンク=○○」だっていう部分には、多分に個人の主義や信条みたいな精神的なものが付き物なので、「俺は認めない」「こんなのパンクじゃねえ」とかの水掛論になってしまう、かなりやっかい代物であることは確かですが。この辺は宗教に似てますよね。難しい(このことはパンクに限らず、どのジャンルにおいても当てはまるのではないでしょうか)。

と、とりあえず、旬のパンクを楽しみましょう。
ポップ・パンクの底力!


-- TRAVOLTAS-「TEENBEAT」 --

なでなで
オランダのアムステルダム出身のPOP PUNKバンドです。あまり情報がなく、実は詳しいことはよく分からないのですが、彼らはベテラン・バンドだそうです。今回とりあげるのは、彼らの3rd(?)アルバム。

とてつもないくらいポップです。
ビーチボーイズとラモーンズが合体したようなサウンドと彼らは形容されていますが、まさにその通りとしか言いようがありません。ハーモニーと手拍子に彩られた、ポップでキャッチーでファニーな、サーフ・ポップ・パンクです。微笑ましいぐらいご機嫌な音楽です。パワーポップ、ポップス好きの方にお薦めの1枚です。

私はこの中に収められている、ボーナストラックの11曲目「American Vitamin」にやられました。この曲は他の曲とは随分異なり、私の大好きなメロディック・コアです。曲が始まると、バッド・レリジョン並の哀愁の漂うコーラスとビーチボーイズの甘いコーラスが合体した極上のコーラスが聴けるのですが、これに瞬殺されました。文句なしです。

ちなみに、アメリカ東海岸のハード・コアの元祖、デッド・ケネディーズも聴いてみてはいかがでしょうか。その曲はダークで不穏であり、高速にうねりをあげるサーフ調に、ビアフラ(Vo)の演劇かかった、嫌悪感さえするヴォーカルがシャウトします。TRAVOLTASとは、まさに対照的。その陰と陽のコントラストを味わうのも、なかなか面白いかもしれません。


-- YELLOWCARD-「Ocean Avenue」 --

日の没する彼女はいかが?
1997年フロリダ州ジャクソンヴィルで結成の5人組。
2003年に発売されたこのアルバムでメジャー・デビューを果たします。

フィドル(ヴァイオリン)とパンク・ロックの融合

硬質な音で作られたメロディック・コア〜ポップ・パンクのビートの疾走に、エモーショナルなメロディーが加わり、そこにフィドルの美しい旋律が響き渡ります。とにかく、加速の中に煌めくエモとフィドルがとても印象的です。心地いいです。そして、アイリッシュミュージックぽい曲、カントリーちっくな曲もあり、心が温まります。演奏は激うまいです。

これはジミー・イート・ワールドが好きな人、ポップ・パンクが好きな人、ロックが好きな人、誰にでもお薦めできます。パンクの新たな一面を感じさせてくれる1枚です。現在、ポ゚ップ・パンクが大量発生して飽和状態気味のパンク・シーンにおいて彼らの存在意義は大きい。まあ、こうしたパンク・シーンがあったからこそ、彼らが生まれることができたのかもしれません。

初期パンクとフィドル(orケルト音楽)の融合が、ポーグス、ウォーターボーイズ、レヴェラーズであり、メロコアとの融合は、ドロップ・キック・マーフィーズであるとするならば、今のパンクとフィドルの融合が彼らYELLOWCARDだと思います。

捨て曲は無しです。


-- SOMETHING CORPORATE-「Leaving Through The Window」 --

皆の視線から大脱走

ブリンク182やニュー・ファウンド・グローリーなどでお馴染みの人気レーベル「ドライヴ・スルー・レコーズ」から2002年にデビュー。1stアルバムです。

ピアノとややエモ風味の今風パンク・ロックが融合

このサムシング・コーポレートの特徴は何と言っても、ピアノです。ニュー・ファウンド・グローリー系の爽やかポップ・パンクにピアノを取り入れたり、ピアノを前面に押し出しオーケストのアレンジをほどこした優雅で美しいポップスなど、聴き入らせる曲もあったりします。本人たちはビリー・ジョエルとエルトン・ジョンから影響を受けたことを公言しているように、良質なメロディーが随所に散りばめられています。それ故に、パワー・ポップ、ロック&ポップス好きの人でも気に入ると思います。逆に、硬派なパンク好きにはキツイ代物かもしれません。

1、2曲目のように、おもわず駆け出したくなるようなパンクあり、3、5、7曲目のように、霧がかった爽やかな朝を思い起こさせる、しっとりとしたメロディアスなロック&ポップスがあったり。

個人的には5曲目が大好きです。この曲のイントロが店で流れていたのを聴いて、思わずCDを購入してしまいました。


-- FINCH-「WHAT IT IS TO BURN」 --

氷の中はカビだらけ

こちらも「ドライヴ・スルー・レコーズ」から2002年にデビューです。1stアルバムです。

堰を切ったかのようにドドドドとかき鳴らされる、ザクザクの硬質なギターリフとシャウトが炸裂する激情系エモの曲があるかと思えば、疾走感あるポップ・パンクにエモを付加したような曲があったりします。彼らの場合、どの曲もメロディーがとても良いので、激しさの中でも、美しさが際立ちます。曲は重いんだけど、その重さを感じさせない、むしろ清涼感すら漂っています。また、メリハリのある演奏が曲に躍動感と切れ味を与えてます。

そして彼らの場合それだけではなく、インダストリアルっぽい電子音や音響系っぽいサウンドを取り入れたりしています。
ですので新感覚のサウンドを楽しめます。
確かな歯ごたえですよー。

1、2、5、8曲は今風のパンキッシュなナンバーですが、
ギターがザクザク、ドラムがドコドコです。4、9曲目は出しからブチ切れ絶叫。激しく、躍動的で、かつ美しい。7、12、13曲目はスローナンバーで、聴き入ってしまいます。12曲目はかなり実験色が強いです。・・・というように、全曲お薦めです。



彼らに著しく影響を与えたデフ・トーンズも併せてお薦めです。デフ・トーンズはハード・コアよりのへヴィー・ロック系。
しかし、3rdアルバム「white pony」では、それまでの速さと暴力性はいくぶん影を潜め、退廃的で仄暗くそして澄みきったまでの美しいメロディーに、音響系のようなサウンドを取り込み、静寂と激烈さが交錯する作品に仕上がっています。凍てつくほどの緊張感とダークさが感じられる1枚です。へヴィー・ロック勢の中でもかなり異色な存在。

また、チノのヴォーカリゼーションも大きな特徴の1つです。
ヘヴィー・ロック、ハード・コア系の咆哮と、UK勢(レディオ・ヘッドのトム・ヨークorU2のボノ)のような自己の内面を吐露し尽くす感情的な歌声を持ち合わせています。

そういうわけもあってか、彼らは「ヘヴィー・ロック界のレディオ・ヘッド」と形容されていたりするそうです。言われてみれば確かにそんな気もしないことはないです。ただ、レディオ・ヘッドに代表されるUK勢的な美メロではなく、やはりUSオルタナ勢的な美メロであると思いますけど。

ヘヴィー・ロック系の音が苦手な人でも、けっこうとっつき易いアルバムではないでしょうか?1度お試しあれ。


-- Break Time --

・パンク
アメリカのアンダー・グラウンド・シーンで産声をあげた新たな音楽形態「パンク」は、海を渡りイギリスにもたらされると、そこで瞬時に音楽シーンを席巻し、一大社会現象にまで発展していきました。そして、今度はイギリスから世界中にパンクが飛び火することになります。こうして世界のあちこちでパンクが猛威を振るう時代が訪れます。わっー!と増殖して、すぐに滅びていってしまいましたが・・・。

・パンク以降
音楽面でパンクに限界を感じたバンドたちは、パンクにその根をおろしつつも、音楽的に脱パンクを志向していきました。既存の枠に捕われない、新たな音楽を追求していくことになります。歪んだり、ひねくれたり、薄暗く退廃的であったりと、実験色の強い音楽を求める者、知能高めで芸術性の高い音楽を求める者などなど。

パンクを単細胞生物とするなら、毛が生えた単細胞生物ものから、見た目がグロテスクな多細胞生物、そして美しい有機生命体まで、多種多様な生物が生み出されたのが、パンク以降です。それをポスト・パンクとかニュー・ウェーヴと形容することもあります。

一方、パンクから遠ざかるのではなく、パンクをさらに追及するものも現れ、パンクの攻撃性を純粋培養し無駄なものを一切そぎ落とし、ビートとシャウトで攻めたてるという、ハード・コアも生まれました。

・パンクのジャンル
メロディーとポップ度合いの観点からは、おおまかに以下のように分けられます(間違ってたらすいません)。右に行くほどメロディーとポップ度合いが高くて聴き易くなります。

グラインド・コア→ハード・コア→メロディック・コア(→初期PUNK)(→メロディック・パンク)→ポップ・パンク


その他に、スカとハードコアの融合→スカ・コア、エモとハード・コアの融合→エモ・コア、といったものがあります。混沌としたカオティック・コアなるものさえあります。

・ジャンル
常に移りゆく音楽を、言葉で必死に捉えようとし、命名しようとする、そういう人間の要求がこうした新たなジャンルや、サブ・ジャンルを生み出しているのでしょう。それに商業的に、分類した方が売りやすいってこともありますし。しかし、あまりにも細分化されすぎると逆に分けわかめになるのも事実ですよね・・・。

また、もう1つの問題点として、狭間の悲劇があります。1度バンドが、あるジャンルにカテゴライズされてしまうと、本来ならば自分好みの音楽にもかかわらず、そのジャンルが好きじゃないが故に、そのバンドに出会うことができなかった。こういうことだって十分に起こりえます。とくにジャンルとジャンルの境界にいるようなバンドは。

例えば、限りなくポップスよりのパンク・バンドが、パンクとしてカテゴライズされるとします。彼らはパンク・ファンからは「こんなのパンクじゃねえ」と罵られ、パンクのジャンルを普段聴かないor嫌っているポップス・ファンには、何らかの偶然がない限り、聴かれることがありません。需要と供給が噛合ってません。
あるいは、パンクでは、ゆっくりでロックっぽい曲は一般にクソ呼ばわれされます。ですので、そういう曲が多くつまったアルバムをパンク・バンドが出すと、ほとんど評価されずに終わります。しかし、そんなアルバムだってパワー・ポップ、ロック&ポップス方面であれば評価が高いってこともありえるわけです。


音楽は可変的、ジャンルは固定的。音楽を捉えようとジャンルという投網を投げども、往々にして音楽はその網を突き破ってしまうものです。

投網を絶えず投げ、投げ、投げまくれ〜!うぉおおおおおおお



BUZZCOCKS-「ANOTHER MUSIC」

わ、わしの顔に何かが
付いておるのか?

イギリスにおけるパンクの立役者たちは、一般的にセックス・ピストルズ、クラッシュ、ダムドとされています。しかし、セックス・ピストルズの音楽に衝撃を受け、マンチェスターで結成されたUKパンクの珍味、バズコックスもそのうちの1人に挙げられると思います。

「ANOTHER MUSIC」は彼らの1stアルバムです。
ファズの効いたギター、ドコドコ叩きまくりのドラム、コケーコケーコケーとけたたましく鳴り響くギターの音、次の瞬間せわしないビートと共に、ピート(Vo)のすっとんきょう極まりない子供っぽい歌声が炸裂する1曲目から、度胆を抜かれることでしょう。

バズコックスは早急なビートに乗っけてポップなメロディーを矢継ぎ早に繰り出してきます。ピートの声からして、もろポップです。そして彼らの場合、ニューウェーブの気もあるので、あちらこちらで、小技やひねりを効かしてきます。彼らのオリジナリティーは、他のオリジナル・パンクバンドに全くひけをとっていません。(恋愛と卑猥なことだらけの歌詞の方も一際異彩を放ってます。なんせ、この時期のパンクは既存の秩序や権力に対して公然と批判するような歌ばかりでしたから・・・。そんな彼らに魅せられた1人に、後にザ・スミスを結成することになる、モリッシー(Vo)がいたりします。)

7曲目「I don't mind」の疾走するビートにからまる、胸に突き刺さるような切ないメロディーとハーモニーは、現在のメロディック・コア勢も顔負けするぐらいの出来映えです。

事実、ポップとパンクを独自の解釈で融合した彼らは、グリーン・デイ、REM、ニルバーナなど、後のメロディック・コア勢やオルタナティヴ勢゚に大きな影響を与えているそうです。


彼らの曲って、純真で一途な感じがするのがたまらなくいいんですよね。あとちょっぴり切ないところとか。


パンク好きの人もパワーポップ好きの方も、そうでない方も、是非1度お聴き下さい。2ndもお薦めです。
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↑パクリ
そういえばイノセンスつまらねー。