( 5 ) 東京見物
東京は小春日和の昼下がり老頭児 (ロウトル) 六人王子の駅へ
荒川線、唯一遺りし都電なりチンチン電車の面影はない
終点の三ノ輪橋よりぞろぞろと目当ては首斬地蔵でござる
ＪＲの線路跨ぎて脇に入る世間憚 (はばか) る寺にぞ見ゆる
「犬・猫の火葬します」の張り紙が。むかし罪人いまペットかね
罪人 ( つみびと) を懐 (ふところ) 深く護るかに坐する地蔵の温顔仰ぐ
首斬地蔵
SECCIN画
浄閑寺
さて次は浄閑寺とう名刹へ投込み寺と俗に謂われる
今を去る三百四十七年前、明暦元年開基と寺史に
安政の大震災に焼死せる遊女多数の遺骨眠れり
大正の大震災に焼死せる遊女らも亦此処に眠れる
戸籍より抹消されし遊女らの遺骨引き取る者ぞなければ
此の墓地に眠れる遊女の総数は二万五千と記されている
「生まれては苦界死しては浄閑寺」 花又花酔翁の句碑あり
供養塔の前にモダンな荷風の碑。故人も遊女を愛せし一人
四たびある災禍、戦火を免れて今にし残る稀有な寺なり
この寺の強運分けてもらうべく賽銭はずみ寺をあとにす
SECCIN画
