( 6 ) 仙人
仙人
雪深き庵に老友訪えば屋根の上より「雪堀りしちょーる」
「齢かいな、あと二ヶ月で八十よ。独り暮らしで ? 困るこたねえ」
「やることは山ほどあるで忙しい。鳥にも餌さをくれにゃならぬし」
「四十雀、山雀、小雀、五十雀、日雀も来るで留守にできぬよ」
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「殺したくなくとも撃たにゃあならぬのよ。それが戦 (いくさ) よ非情なもんさ」
「大戦の罪滅ぼしを三十年。現地の子らは今も過酷だ」
「弟の遺骨探しにモンゴルへ。務め果たして今は悔いなし」
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「四月かね ? シニアスキーの大会よ今年も勿論王座をねらう」
銀嶺の果てなるビデオをわれに見せ 「あれがおらだよ巧いもんずら」
「指折れば五十六年・・・あの頃は映画と言えばモノクロだった」
仙人の案内でゲレンデへ
「目の前に聳ゆる山が鹿島槍。左前方 ? 爺が岳ださ」
「ありゃ雪よ富山側より吹き上げる風の悪戯、雲に見えるが」
「あの尾根のひさしのように突き出したあれが雪屁よ雪崩の巣だな」
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「カーヴィングスキーのコツは膝にあり腰から上は遊んでりゃよし」
手で招き良く見ていろと滑り出す。七十九の爺には見えぬ