特別寄稿 疋田和男師
      
top
酒五首 
渇きたる咽喉をうるほす酒あれば夜の巷の明るくぞ見ゆ

秋風は妙にやさしく吹いてきて酒を飲め飲めと囁いてをる

ぼんやりと眠ったやうなふりをする春の満月さあ酒を飲め

余計なこと言ひながら飲む夜の酒体の芯まで酔ひがまはるぞ

片口で酒を注ぎて一人飲み言葉の裏を考へている
top
next
next
白き便箋 
乱れつつ千曲の水は流れゆき男の意地は藻抜けの殻よ

白馬には白馬のをらず裏道の錆噴く自転車に秋の日光る

電話魔と電話魔とが合ひ寄りて戸隠の蕎麦ほめているなり

春には愛夏には哀の手紙来る白き封筒に白き便箋

平林ひらばやしにぞ住みていて曲者のやうな老樹見上ぐる
back
back