酒五首
渇きたる咽喉をうるほす酒あれば夜の巷の明るくぞ見ゆ
秋風は妙にやさしく吹いてきて酒を飲め飲めと囁いてをる
ぼんやりと眠ったやうなふりをする春の満月さあ酒を飲め
余計なこと言ひながら飲む夜の酒体の芯まで酔ひがまはるぞ
片口で酒を注ぎて一人飲み言葉の裏を考へている
白き便箋
乱れつつ千曲の水は流れゆき男の意地は藻抜けの殻よ
白馬には白馬のをらず裏道の錆噴く自転車に秋の日光る
電話魔と電話魔とが合ひ寄りて戸隠の蕎麦ほめているなり
春には愛夏には哀の手紙来る白き封筒に白き便箋
平林ひらばやしにぞ住みていて曲者のやうな老樹見上ぐる