特別寄稿 疋田和男師
      
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父親と息子 
不器用な亡父の子なれば最近はいよいよ激しく失敗をする

白髪を頭にのせて亡き父の盆栽を見つ盆栽を見つ

正直に亡父の性を引き継いでときまた妻を嗤はせてをり

職工の父にしあれば今頃は星の工場でハンマー使ふか

親の癖われも始めてにんまりと嗤ふ者をり昨日のやうに
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空地 
愚かなる四月の来れば愚かなる桜花の咲きて歌唄ふわれ

ハンバーグ食らひ食らひて七十の入口目指し駆け登るなり

古びたるアパートの裏の空地には倒れたるままの自転車がある

黄昏の一軒の店覗きたるまぐろの男サラダの女

体内に管が一本あるなれば夕べとなりて管を巻くなり
鴉と黒猫 
逃げ道を逃げ回りつつ逃げ延びるみみずにも似る或日のわれは

四月来て四月男はペダル漕ぎ逃げ足早く彼方を目指す

俺にもまた一分の魂あるゆえに怒りを持ちて相手に向かふ

小銭入れどこかの駅で落したり鴉のやつがこちら振り向く

黒猫が廃車の窓より顔を出しばつが悪いか隠れてしまふ