青い島
中年だいや老年だ地図帳をひろげて青い島をばさがす
東急の前に自転車止めてのち規則のやうに鍵をかけたり
ごてごてとペンキ塗りたる秋の山俺には俺の空気があるよ
冬の沼眺めてをればひそかなり地球の眠る予感のしたり
失敗を繰返しつつ繰返し笑ひで誤魔化す夕べとなりぬ
星屑
雪降れば雪降れ降れと松の木はやたらに枝を曲げてぞ見せる
男とは雲のやうなるものなりや風に吹かれて駅より帰る
砂利めける男一匹ここにをり音痴な唄を歌ひつつ行け
星屑がやけに光りてわれの脳狂へとばかり刺激してくる
袋よりにんにく幾つ取り出して焼いて食べるか冬の夕暮れ
秋分の時(雲と迷宮より)
当たり前の男なりけり夕さればスポーツウェアを脱ぎて丸める
日曜日全くの主夫になり果てて金魚の餌を買ひにゆくなり
駅前のいつもの位置にバスを待つ長野市民の顔にもどりて
タクシーに物体のごとく押し込まれ赤ん坊の目に誰もがなれり
広告の裏に書きたる上の句を考へ直し捨てたる夕べ
秋分の時に合せて父帰ること仮定する灰色家族