「何が楽しくてがれきなんて作っているの?」と尋ねられることが少なくありません。最近になって、それに対して自分なりの適切な回答ができるようになりましたが、それまでは、答えに窮することが少なくありませんでした。

最初に「がれきの魅力」に気づいたのは、1997年12月号の『日経デザイン』に掲載された、ある記事を読んだ時のことです。その記事のタイトルは、「キャラクターの立体化に創造性はあるか」。

争点のあらましはこうです。原告である原型師は、被告会社(株式会社ボークス)に勤務時代、本業の傍ら、原型製作も行うようになった。原告が退社後、被告会社は原告が製作した原型を利用してインジェクション・キットを販売した。これに対し原告は、原型を著作物として保護するために裁判を起こしたという次第です。以下、前掲の記事を引用しながら、話を進めてゆきます。

「……筆者は、本判決を読むまでは『モーターヘッド』の『ガレージキット』とは何かを、まったく知らなかった。おそらくは、この事件を担当した裁判官たちも同じだったのではないか」

「……(がれきの)原型の制作は、スケールモデルと比較して、造型上の創作性が強く要求される。著名な制作者は『造型師』と呼ばれ、商品の広告やカタログなどに『原型制作者』として氏名が表示されるという」

上記の認識については、モデラーと意見を同じくするところでしょう。

さて、先ほども述べた通り、原告は被告会社に勤めていた頃から本業の傍らで原型製作も行うようになり、その作品が500個を超えて販売された場合には、原告に給与の他に販売価格の5パーセントが支払われることになっていました。原告は、91年に被告会社を退社します。

その後、最近になって発売された被告会社のプラモデルが、原告の怒りに触れます。原型製作者が別の人の名前になっているけど、どう見ても、自分の原型が使われているじゃないか、と。そこで原告は著作者人格権に基づいて、被告会社および問題の商品に表記された原型製作者に対して、

1. 原告原型による製品について「原告以外の者の名を表示して展示・販売」することや「原告の意に半恣意変更、切除その他の改変」を加えることの禁止

2. 改変した原型による製品について展示・販売することの禁止、

3. 慰謝料など約700万円の支払い

などを求めて提訴しました。

これに対し、被告側の主張です。

「キャラクターを立体化するに際し原型制作者は……可能な限り原画のキャラクターのイメージを忠実に立体化することを目標とする。この立体化の作業において重要なのは、原型制作者の模倣技術能力であって、多様な表現方法の存在を前提とした感性あるいは個性の発露の問題はおこらない。したがって創造性は否定されるべきである」

果たして、そんなものなのでしょうか? つまり、オリジナルの絵に似ていればそれでいいということ? それでは、原型製作者の「解釈」は不必要になります。メーカーの造形物に対する意識の低さを感じます。もっとも、メーカーにとって「良い」造形物とは、「売れる」商品であって、原型師の創造性など、些事にすぎないのかも知れません。

しかし、判決はメーカーの主張を退けました。原型が、著作物として保護されたのです。

「ガレージキット、特にロボット、人形などのキャラクター模型の場合、実物は存在しないので、造型の元となるのは漫画、イラスト、アニメの画面等の平面であるところ、造型師は、それらの各資料の中から、自分の感性で、そのキャラクター性をもっとも生かせると思えるイメージや表現を考えながら、一つ一つの部品を造りあげて行く。

……そして、同一キャラクターの商品が異なる造型師によって数社から発売されることがあるが、その制作者の解釈、表現等が着目されて、マニアの好みにより選択され、その商品の人気に影響している。

このように、ガレージキット業界は、キャラクターの立体化の過程における当該キャラクターの解釈や表現の差異を競う模型ジャンルであるといえ、その制作の過程において、制作者の思想・感情の表現が看られるといえる」

まさにこれこそ、常々がれきについて感じていた「魅力」だったのです。もとのキャラクターに似ている・似ていないではなく、原型師さんのそのキャラクターに対する解釈が自分に合う・合わないというのが、その商品の良い・悪いを決める判断材料になるのだということです。

この「解釈」に触れたり、実際に手を動かしてがれきを作ることで、原型師さんが解釈を造形物に盛り込んでゆく過程を追体験したり、あるいは自分の解釈をちょっとだけ加えたりできるのが、がれきの魅力じゃないかと思うんです。

ああ、胸のつかえが取れた、ということで。

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