見ず知らずのライヴァル

今回のワンダーフェスティバルで、あるベテラン原型師と、イベント初参加のモデラーとが、同じキャラクターを立体化した。二人は、顔を合わせたこともなければ、言葉を交わしたこともない。厳密にいえば、二人ともインターネット上でホームページを開設しており、そのどちらかの電子掲示板システム上で一度だけ、「会話」している。二人はイベント会場で会って、話をしたいと思っていたが、残念ながらその機会には恵まれなかった。

二人の作品は、模型のことには疎いぼくにさえ、素晴らしいものだと感じられた。どちらがどう、というのではない(そもそも相対的価値ではかれるものでも、またはかるべきものでもない)。そのどちらもが、それぞれの良さをもった立体物としてまとめられていた。

イベント当日の夜、ベテラン原型師は自宅で、イベント初参加のモデラーの作品を手に取り、いろいろな角度から眺めていた。上にしたり下にしたり、本格的な仮組こそしなかったものの、パーツを据えてみて、全体のバランスを確認したりした。時折、「ふんふんなるほどー!」と大きな声を出す。「畜生、今回はいろんな意味で負けだよな」と彼。「でも、冬は負けないぜ」

それから3日後の夜、イベント初参加のモデラーは、知人宅でベテラン原型師の作品に接していた。「自分が表現したいことが的確に表現されている」と感嘆して言葉を続ける。「そうか、こう表現すれば良かったんだ」

彼らは直接、話をすることはできなかったが、作品を通じて会話したのである。

残念なことにぼくは、原型を製作する人間にしか通用しないと思われる彼らの「言語」に精通していないため、前述したこと以上に、彼らの言いたかったことを伝えられない。けれど二人の、互いの作品を見つめる真剣な眼差しからは、それぞれの作品に対する敬意を感じることができた。模型の世界に限らず、最近忘れかけられている他者に対する敬意が、そこにあったのだ。

二人が交わした会話の内容は、今はわからないが、半年後に知ることができる。ぼくは、ぜひその内容を知りたい。だからまた、ワンダーフェスティバルの会場へ足を運ぶことになるだろう。

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