― 小川珈琲から真如堂へ ―
  2年ぶりの京都である。「来たあ〜〜!」というよりは懐かしいという気分である。どうしてこんなにまで嫌いだった京都に嵌ってしまったのだろう。自分でも不思議な想い頻(しき)りである。
  大きな荷物を、とはいってもデイバッグ一つなのだが、余分な物も入っているので、要らぬものはいつもの駅ナカのコインロッカーへと預け、まずは腹拵え。
  名立たる京都駅前とは言えさすがに早朝6時過ぎに開いている店といえば、マクドナルドだけである。常なら朝マックという所なのだが、今回は京都観光の他にもう一つの楽しみ、京都のカフェ巡りがある。
  京都には老舗のカフェ、言うなれば昔ながらの喫茶店も数多く残されている。その一つに小川珈琲がある。当初の予定は7時開店のイノダコーヒ本店で「京の朝食」を予定していたのだが、同じ7時開店で京都駅前にある小川珈琲にターゲットを変えてみた。
  小川珈琲は偶然にも、関東は埼玉県の越谷市にある大きな大きなイオン系スーパー内に、1軒というか1店舗だけ支店が出されている。そこへ先日、偶々行く機会があり、京都という看板についフラフラと入ったのが見知った切っ掛けであった。
  そこで飲んだお勧めの珈琲「オーガニックハウスブレンド」というコーヒー。さっぱりとした味にも拘らず、コクがあり、喉越しの酸味が程良く、実に唸るような美味しさであった。京焼の素敵な素敵なカップに入れられてあったのも高得点を得た要因だったかもしれないが、一度飲んでとにかく気に入ってしまった。京へ行ったならまずは小川珈琲と決め込み、まさに京都駅前で午前7時開店となれば行かざるを得まいと心に堅く誓っていたのであった。
  駅前といっても向かいの某ホテルビルの1階にあり、店の入り口は1.5間ほどである。ところが開店時間の午前7時を過ぎても通りに面した入口がなかなか開かない。




              

                  京都駅前中央口店(法華ホテルビル1F)
              (それぞれの画像をクリックすると拡大画像になります)




  ふとガラス越しに中を見ると、既に数人の客が店ナカのカウンター前に並んでいる。???……。並びのホテル入口から中を覗くと、また客らしい人影が壁越しに消えてゆく。「さては、」と、ホテル入口から中へ入ると、案の定ホテル内から店へ入れるドアがあった。
  店の造りは、京都らしいと言えば京都らしいウナギの寝床のような奥行きのある店である。テーブル席が数席と、カウンター席数席、その他ホテルロビーを利用した店外席がある。全体として狭小な店である。



              

                         店内の様子




  私はトーストのモーニングセットにオーガニックハウスブレンドを注文した。カウンター席に座ると、目の前にはロビーとの境になるガラス壁に幅のある格子枠が嵌め込まれ、その一つ一つに色々なコーヒーカップが飾り付けてある。カメラを構え、写真を撮りつつ、目の前なので自然と手に取って眺めてしまうが、もしかしたら高価なカップなのかもしれない。
  そうこうしている内に(結構待ったかな)、注文の品が届けられた。値段の割にバターがしっかりと塗られた大きなトースト、コールスローサラダにゆで卵、それにコーヒーである。コーヒーカップは京焼でなく、普通の小川珈琲のロゴの入った白いオリジナルカップであったが、香り味とも紛れもなくあのコーヒーであった。



                

                           玉子トーストセット



  さて、お腹も満足した次はいよいよ取材の開始である。まずは第一の目標は上賀茂神社である。鴨川の上流で賀茂川と名前を変えて間もない所にある。
  京都駅前からバスに揺られること約50分あまり。上賀茂御薗橋(かみがもみそのばし)で下車。賀茂川に架かる御薗橋を渡って直ぐである。
  バスで揺られている間、バス内のアナウンスに京都らしさを感じた。バスは堀川通りを北上して行くのだが、女性の声のアナウンスで「次は堀川○○、堀川○○」と堀川という言葉を接頭語のように繰り返す。このホリカワという発音が標準語では「ほかわ」と「り」にアクセントが来るのだが、京都では「かわ」と「ほ」にアクセントが来る。まるで英語の発音と同じように聞こえたのである。標準語と言っても、その昔は京言葉が標準語であったのだから、京都での関東言葉は田舎言葉のようで何とも肩身が狭い思いがする。閑話休題。
  この神社は、賀茂家先祖を祀る神社である。正式名称を賀茂別雷(かもわけいかづち)神社。何でも雷の力で厄を払うという有難い神社。そのせいで電気産業界からの信奉が篤い。また位置から言って御所の鬼門に当たり、そうした役目を担っているようだ。今日4月8日には今年の曲水の宴が催される。平安貴族や十二単衣を着て、境内の小川に盃を流し、それが自分の場所へ流れ着く前に和歌を詠む。詠めなければ盃のご酒を飲まなければならないという、平安時代の宴を再現した春の祭礼である。




    

           上賀茂神社入り口





                        

                                       境内1




  私がこの神社に興味を持ったのは、この境内に流れる「奈良の小川」である。まあ、それが曲水の宴に使われる小川な訳ですけど。この奈良と名付けられた小川は、よく時代劇のチャンバラシーンなどに使われるロケ現場なんです。写真を何枚か貼っておきますのでご覧くださいね。




    

               奈良の小川1




                       

                                  奈良の小川2




    

               奈良の小川3




  どうでしょう。見覚えはあるでしょうか。因みにこの神社周辺での名物は、神馬堂(じんば)の焼き餅、近年ブームになっている漬物の「すぐき」がある。すぐきはこの上賀茂神社の神官が作ったのが発祥と言われ、上質の乳酸菌が体に良いとして人気が高い。
  さて、再び路線バスに乗って、今度は東山を目指すが途中で哲学の道の近く、真如堂へ寄る事にした。以前から気になっていた寺である。というのも私の好きな安倍さんに縁のあるお寺なんです。
  「安倍さん?」 何をおっしゃいます。私の小説にも幾度となくご登場戴いた安倍晴明さんですよ。私と似たメタボ体系のおっさんです。
  本来なら三分咲き程の桜の並木道を散策する予定だったのだが、今年は殊の外遅い春となり、京都では桜の開花宣言もまだとなってしまった。それでも、膨れ始めた桜の蕾の元を流れる琵琶湖疏水を眺めながら、久しぶりの哲学の道を散策して、よーじや銀閣寺店の交差点を西へ入り真如堂(しんにょどう)へと進む。途中の白川にはまだ産毛が生え変わっていない灰色の鷺の子供が、餌になる小魚を見つけ出せないのか、つまらなそうに川面を眺めていた。その先の小さな橋を渡り、かなり急な坂をどんどん上がって行くと、真如寺境内の西入口へと辿り着く。
  境内へ入ると、直ぐに三重塔が目に飛び込んで来た。五重塔程の高さが無いせいか、見ていてホッとする高さである。



   

             真如堂 三重塔




                       

                                  真如堂 本堂




  参道正面には本堂がある。創建は千年ほど前だが、応仁の乱などで焼失。江戸期に再建されたものである。創建当時から女性のためのお寺さんだったせいもあって、三井家(のちの三井財閥)ご婦人方の菩提寺ともなっている。この時期、真如堂では涅槃図の特別拝観がなされている。江戸時代の作品であるが、涅槃図にしては珍しい描き方がされていてとても興味深いものだった。
  私がここを訪ねた理由は涅槃図の他に、ここで分けてもらえるお守りがある。一つは冤罪防止のお守り。何でも殺生石の欠片が入っていて、邪気を退治するのだそうだ。
  もう一つは「決定往生(けつじょうおうじょう)の印」。これは安倍晴明が死んであの世へ行った折に、彼の守り本尊であった不動明王が彼の蘇生を閻魔大王に願った所、許しが出、この世に戻される時、この印を持つ者は無条件で極楽往生させる、多くの者を救えという命令の下、「決定往生の印」を賜ってこの世に蘇生し、多くの人々を救ったという。その後、その印と不動明王はこの真如寺に納められた。というのである。
  真如堂では、この印を一枚400円で頒布している。不動明王の火焔か、宝珠、狐火に似た図案の中に晴明さんのトレードマークである五芒星(セーマン)が白抜きされている。400円で極楽往生なんて、そりゃああんた、お買い得でっせ、というわけで、闇雲に買いに走った次第である。
  さて、極楽往生間違い無しというフリーパスを懐に真如堂を後にした。次の取材先である将軍塚を目指す私の顔は、さぞかしにやついていた事だろう。(次回へ続く)




                コーヒーと  極楽切符の  京の春   りゅうや




 
≪ 2012 京の春旅 1 ≫