【知っていると面白い ちょっと家系図(エジプト第四王朝)】 

ここで、ちょっと当時のファラオと実際のピラミッド建造者の関係について。

 エジプト最古の階段ピラミッドを建てたファラオがジョセル王。で、実際の建造者は第1宰相の天才イムホテプ。これは、かなり有名。次に、かの有名なダハシュール屈折ピラミッド・赤ピラミッド、メイドゥムの崩れピラミッドを建てたファラオはスネフェル王。で、実際の建造者は宰相ネフェルマアト。実はネフェルマアトはスネフェルのためにピラミッドをなんと5基も建造している。で、そのネフェルマアトとは誰かと言うとスネフェルの実の息子

 次にエジプト最大のピラミッドを建てたのが有名なスネフェル王の息子クフ王。そのピラミッドの建造者はこれまた天才の宰相ヘムオン。で、そのヘムオンとは誰かと言うとネフェルマアトの息子。だから、クフ王とネフェルマアトは兄弟(母は違う)、ヘムオンはクフの甥。

 で、次にクフ王のピラミッドの東側に建っているピラミッド。いわゆる王妃のピラミッドと呼ばれていて、それはヘテプヘレスメリタテスヘヌットセンの3基。ヘテプヘレスとは誰かと言うとクフ王の母でスネフェル王の王妃のヘテプヘレス1世のこと。

 で、ここからがややこしい(すでにややこしいが)。メリタテスはクフ王の王妃だが、父スネフェルの娘である。ということはクフとメリタテスは異母姉弟。さらに、クフ王の次の王ジェドフラーはクフの息子だが、王妃はこれもクフの娘のヘテプヘレス2世。つまりジェドフラーとヘテプヘレス2世も異母兄妹。さらに、ヘヌットセンとは誰かと言うとクフ王の王妃でその息子が第4代王カフラー。さらに、そのカフラー王の王妃もクフ王の娘カメレルネプチ1世だから、カフラーとカメレルネプチ1世も異母姉弟。その息子が5代王メンカウラーである。

 つまり王には何人もの王妃がいて(これは当然か)、その王と王妃も姉弟同士の不思議な家系(でも、当時はこれも当然か)。さらにこの複雑さの中でドロドロの血生臭い権力争いがあるから面白い(でも、いつの時代もそうか。)。

 なんか、パズルを解いているようで、話がぐちゃぐちゃするので、それをまとめたのが下の家系図(第4王朝)。これが良〜く見ると実に面白〜い。実際にはもっと込み入っていて、わけがわからないくらいなのだが必要最小限の家系図(例えばクフの弟で有名なラーホテプなんて言う人もいるが下には入れてない)。
  注:図中の□枠はファラオ(王)、数字は継承順。

 上の家系図を見ながら当時の人間ドラマを見ると非常に興味深い。まず、古代エジプト王朝の王位継承権は女性にあるという大前提がある。その王位継承権を持つ女性と婚姻を結ばなければ、いかに王(ファラオ)の直系の息子でも王位にはつけない。図の一番上から見よう。フニ王は王位継承権のあるメルサンク1世と結婚し第3王朝最後の5代目ファラオになる。その息子スネフェルは同じく王位継承権を持つメルサンク2世と結婚し第4王朝初代のファラオになる。注目するのはヘテプヘレス1世は王位継承権をもっていないことである。通常であれば順当に行けば王位継承権を持つメルサンク2世の息子ネフェルマアトが次の王位につくはずであった。(そのためにネフェルマアトの王妃に王位継承権が引き継がれないとけない。)

 ところが歴史はそうはならない。なんとスネフェルの王妃メルサンク2世と息子ネフェルマアトは暗殺されてしまう。後ろで糸を引くのは、なんとしてでも王子クフに王位を継がせたい王位継承権のないヘテプヘレス1世。では、なぜついでにヘムオンも殺さなかったのか。

 そこには”太陽信仰”と”星信仰”の争い、さらに大ピラミッド建造にからむ陰謀があったと言われている。いつの時代もそうであるように、当時のエジプト王朝も”太陽信仰”派と”星信仰”派に大きくニ分したドロドロの権力争い。”太陽信仰”とは太陽神(ラー神)を信仰するエジプト人本来の民族派で、地元のエジプト側としてはなんとか実権を握りたい。その神官団はヘリオポリス(オン)に住んでいてその大神官の娘がヘテプヘレス1世である。それに対して”星信仰”は以前からある伝統的な思想だが、もともとが外国(メソポタミア方面)の思想でメルサンク2世はそっちサイド(こちら力ちょっと弱い)。そのため時期王位を巡っての争いが起きないはずがない。
 結局、太陽神の強大な力をバックにしたヘテプヘレス1世が一気に力を発揮した結果らしい。そしてクフが次期王位にほぼ確定。それ以降エジプト王朝は太陽信仰派が絶対的な権力をもつ。(ちなみに”クフ”の本来の意味は「守られし者」の意。なぜか生まれながらに因縁がありそうな名前ねぇ。)

 事実その後、それまで公には出せなかった太陽神ラーの名をクフの息子以降のファラオ名につけている(カフラー、ジェドフラー、メンカウラーなど)。では、星派を完全消滅させるためになぜヘムオンまで手を伸ばさなかったのか。実はピラミッド建設技術は元来”星信仰”派が持ってきた外国産の技術。純粋エジプトの”太陽信仰”派は持っていない技術だった言う。ピラミッド黄金時代に入り、なんとしても父スネフェル王より大きなピラミッド建造を目指すクフ王にとって、宰相ヘムオンがいなければ超巨大ピラミッドは到底できそうにない。(そう言えば、階段ピラミッド建造のイムホテプも、元来のエジプト人ではなくメソポタミアの家系という話。)

 ところが、念願かなってギザの大ピラミッドが完成できたものの、今度は民衆が誰も「クフの大ピラミッド」とは言ってくれない。「ヘムオンの偉大なピラミッド」つまり外国人が作った巨大なピラミッドというヘムオン賞賛の嵐。クフ王はガ〜ックリ〜。そのため、あらぬ疑いをかけてとうとうヘムオンまで処刑した(らしい)。ここで星派は完全消滅。
 星派の家系を次々に暗殺されたヘムオンの唯一の抵抗は、大ピラミッドの入り口を太陽派が要望する”太陽の昇る東側”ではなく、昔からの星派の”北極星”つまり北側に作ることを守り続けたことかも知れない。

 さて不思議な点が一つ、ギザの有名なピラミッド建造者2代王クフと4代王カフラーの間にジェドフラー王という第4王朝第3代ファラオがいる。ジェドフラーはなぜギザに大ピラミッドを建造しなかったのか。実は”太陽信仰”でガッチリ固めたはずのクフ一族の中で唯一”星信仰”に寝返った反逆者だったと言われている。ジェドフラーはギザのクフの横に自分のピラミッドを作らずに、対抗してギザ北方のアブ・ロアシュの丘にピラミッドを建造しようとしている。その古代名は「セヘド星のピラミッド」。完全に”星信仰”の名称。
 それで、これまた陰謀説があり、怒ったクフ王の息子カフラーがジェドフラー王を暗殺して次期ファラオになり、アブロアシュに建設途中のピラミッドを建設中止にしてしまったという血なまぐさい話。

 大昔の権力争いは素人には計り知れないが、いずれにしてもヘムオン亡き後、ピラミッド建造のノウハウは伝承されず建造技術は一気に下がりギザを超える巨大ピラミッドは二度と造られなくなった。

 上の家系図にも載っているが、権力争いの中枢にいたはずのヘテプヘレス、メリタテス、ヘヌットセンの王妃・王女の3基のピラミッドがギザの第1ピラミッド(クフ)にそっと寄り添うように立っている。現地でこの3基のピラミッドを見て当時の様子を頭に思い描いて大感動〜!!

 でも次の瞬間「ヤ〜スイ、ヤス〜イ、ギザばっかりサッカラばっかりニージュマイ、イッチドル〜」と”エジプトおにっちゃん”がうるさいうるさい。「もうサッカラで買ったってーっ。」

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