渥美清主演 山田洋次監督作品。
生き別れの妹を想う海賊タイガーは奴隷船へ乗り込み、戦いの末、奴隷たちを解放。囚われていたのが生まれ故郷のカツシカ島のおじ達であり、助けた年頃の娘が妹のチェリーであると知り、カツシカ島へと帰る事にする…。
そんな夢を映画館でうたた寝しながら見た寅次郎。
一方、とらやではエリザベス女王来日のニュースに湧いており、そんな中にリリーが来訪。リリーは堅気の暮らしが肌に合わず、鮨屋の夫と別れて、元の歌手に戻っていた。そして旅路を急ぐリリーは足早に去って行った。
一方、寅次郎は青森で、妻子を置いて出奔した男・兵頭に付きまとわれ、とりあえずさくらに電話し、兵頭の家族に安否を伝えるよう頼む。
連絡を受け、兵頭の妻がとらやを訪ね、夫の居場所を問うが、まさか頼りの寅次郎がフーテンであるとは言えなかった。
寅次郎と兵頭は金に詰まり、北海道の夜鳴きソバ屋で潰れていると、リリーと再会。3人は宿に入り、翌日は列車を使い、カニを食べ、駅舎に寝泊まり。
3人で潰れた会社の在庫処分セールのフリをして、商売を行い、小樽へ。
兵頭は昔の恋人を訪ねてみると、彼女は夫と死別し、喫茶店を経営しながら、子育てに追われる暮らしをしていた。
兵頭は彼女から声を掛けられるが、そそくさと立ち去った。
寅次郎に自分の情けなさを語る兵頭。だが考え方の基本に男尊女卑を感じたリリーに説教され、寅次郎とリリーは口ゲンカし、別れてしまい、寅次郎は兵頭に後を追わせ、その場に佇んだ。
兵頭が自宅に戻り、寅次郎もとらやへと帰ってくる。
寅次郎はリリーとの事を反省していると、戸口にリリーが現れ、2人は仲直り。寅次郎は店じまいさせ、祝宴を開き、歌を唄い盛り上がった。
翌日、寅次郎はリリーを接待し、御前様や町の皆はふしだらに思い、寅次郎をヒモだと言い募る。
リリーを仕事場のキャバレーへと送って来た寅次郎は、もし自分に金があれば、専用の劇場を作って歌わせたいという思いを皆にのたまう。
源公と子供達と遊んでいた寅次郎の元へ、兵頭がメロンを持って来訪。あれ以来、兵頭は役職を取られ、同僚達から白い目で見られるようになり、寅次郎の生き方に憧れ、定年後は旅をしようと考えており、寅次郎とリリーが結婚するようにと切望し、帰って行った。
一方、リリーはとあるアベックのアパートを訪ね、泊まる場所に困ってさくらの家へと向かう。
バス停までさくらに迎えに来てもらうと、リリーを夜の女だとからかうしつこい酔っ払いを、ひっぱたき、さくらに詫びた。
ある日、メロンを食べる事にしたが、叔母がついうっかり寅次郎の分を勘定に入れ忘れて切り分け、そこに帰って来た寅次郎は激怒し、大ゲンカになるが、リリーが普段の家族の思いを代弁して諌め、寅次郎は源公の小屋へと家出。
そしてある雨の日、寅次郎はとらやへ戻り、駅へリリーを迎えに行き、自然と相合い傘に。
寅次郎が久しぶりに仕事に行き、帽子を叩き売っている頃、さくらは寅次郎とリリーが結婚する事を願い、アパートを見つけたリリーに求めると、リリーは結婚してもいいと考え、戻って来た寅次郎も受け止めるが戸惑い、2人は冗談にしてしまう。
さくらは寅次郎に詰め直したものの、寅次郎はリリーの幸せを願い、身を引いた。
夏になり、兵頭がとらやを訪れ、さくらは、自分が急いだために、2人の友情を割いてしまったと後悔していた。
旅先で海を見つめる寅次郎は、旅行中の函館のキャバレーの連中と一緒になり、マイクロバスに同乗した。
1975年、日本松竹の作品です。
共演:浅岡ルリ子 船越英二
この作品もシリーズ屈指の人気作の一つです。大人気キャラ・リリーが帰って来た作品であり、もっとも寅さんが結婚(所帯を持つ)というところまで近づいた奇跡があるからでしょう。
それにしてもこの頃から、女性のキャラで男勝りというのは絶大な人気を誇っているという実績について考えさせられます。芸能界でも宝塚の男役出身者は当たり前ですが、女優、グラビアアイドル、モデル等々、男に媚びないキャラは消して人気が衰えず階段を上って行く事にウンザリしていますが、社会において、女性の活躍は結局、「男社会の中での」という枕詞が隠れている事に頭を抱えさせられ、ため息を吐かされます。
この作品の人気の理由は他にもあります。現在も続く人気番組「徹子の部屋」に渥美清氏が唯一出演した時(倍賞千恵子氏と同席)に語ったのがちょうどこの作品の事だったからです。
渥美氏は自分の作品をいろんな映画館で観るそうですが、新宿で観た時と浅草で観た時のお客さんの反応に驚いたそうです。
新宿などではメロンのシーンで笑いが起こるそうですが、浅草では寅さん贔屓の客が多く、「なんで寅の分を残しておかないんだ!」と野次が飛ぶそうです。
元々、渥美清さんの徹子の部屋への出演は、黒柳徹子さんとNHKのお笑い番組「夢で逢いましょう」で共演した事による友情出演ですが、黒柳さんが再三お願いしたにもかかわらず、後にも先にも一切出演されなかったのは、役のイメージを大切にしたかったからではないかと、山田洋次監督が出演されて、VTRを見返した際におっしゃっておられました。
今ならば、「杉下右京」のような出演もありますが、「車寅次郎」としての出演も見たかったような気がします。
冒頭の海賊のシーンは当時人気を博した映画「シンドバッド 黄金の航海」という作品をモチーフにしたパロディーです。冒頭のシーンは流行りの映画や作品をパロディーにしていこうという考えがあったようです。