「きんぎょがいた風景」 ¥78,000
永野のり子
「きんぎょがいた風景」
わたしが小さかった頃、東京の街の夕暮れは今ほど明るくなかった。金魚店のコバルトブルーの蛍光灯だけが夕闇にぼおっと浮かび上がっていて、店の中に入るとオレンジ色の金魚たちがキラキラとまぶしかった。わたしはよくその店に通って金魚たちをただ眺めていたが、ある日大きな水槽がわが家の狭い廊下に置かれ、二匹のリュウキンが中で優雅に泳いでいた。彼らは発光体のようだった。寿命が尽きかけている巨大恒星のような濃いオレンジ色の光を発していた。月日が流れて水槽はいつしか庭の隅に放置され、使わない植木鉢や空気の抜けたバレーボールが詰め込まれ庭の石ころと一緒に苔むした。しかし、微かに金魚色の光はいつまでもわたしの記憶の内で発光し続けた。
「きんぎょがいた風景」
わたしが小さかった頃、東京の街の夕暮れは今ほど明るくなかった。金魚店のコバルトブルーの蛍光灯だけが夕闇にぼおっと浮かび上がっていて、店の中に入るとオレンジ色の金魚たちがキラキラとまぶしかった。わたしはよくその店に通って金魚たちをただ眺めていたが、ある日大きな水槽がわが家の狭い廊下に置かれ、二匹のリュウキンが中で優雅に泳いでいた。彼らは発光体のようだった。寿命が尽きかけている巨大恒星のような濃いオレンジ色の光を発していた。月日が流れて水槽はいつしか庭の隅に放置され、使わない植木鉢や空気の抜けたバレーボールが詰め込まれ庭の石ころと一緒に苔むした。しかし、微かに金魚色の光はいつまでもわたしの記憶の内で発光し続けた。