1st Half

2009年10月4日
ナンバー10は、遥かかなた300km離れた福島の地で一人闘っていた。
23人の仲間が1回戦を勝ち抜き、来週はきっと一緒に戦えることを信じて・・・

粘り強い守備で予選リーグ無失点のチームでも、得点源を失えば勝利することは簡単ではない。そのことは誰の目にも明らかだった。
PK戦ならば、主将GKが何とかしてくれるかも知れないが、狙ってPK戦に持ち込めるほどの老獪さは持ち合わせていない。

ただ、一年間ともに闘ってきた彼女の23人の仲間は、エース不在を理由に戦いから逃げてしまうほど弱い選手達ではなかった。
まるで何かにとりつかれたように、自分の体力を無視し、試合開始から勇敢に走り回る選手達の運動量は、40分間持つはずがないようにみえたが・・・

ナンバー10の代役を任された5年生は、能力は申し分ないが、うまくいかなくなると、泣き顔になり、頭が真っ白になり、足を止めてしまう。そのことは織り込み済みで、1つ2つの助言だけをしてピッチに送りだした。
平均点のパフォーマンスでいい・・・、そうすれば中盤の6年生が何とかしてくれるはず・・・

開始間もなく異変に気づく・・・、あいつが闘っている・・・、ナンバー10ほどチームにフィットはしていないが、必死にナンバー10になろうとしている・・・
1年間要求し続けても出来なかったことを、いや、やろうとしなかったことをなり振り構わずやろうとしている。

碓東優勢は必然だった。いないはずのナンバー10が、目の前で相手を混乱させているからだ。
“前半はリスクを犯してまで攻撃する必要はない”との指示を無視するかのような力強い攻撃は、ピッチにいる10人の方がベンチにいる私よりも先に、彼のうれしい異変に気づいていた証拠だった。

攻撃サッカーにはリスクが伴う・・・0-1で前半終了。
でも、不思議と負ける気がしなかった。

ベンチに戻ってきたイレブンは、失点の後悔とゲームを支配しながら点が取れないことにやや焦りはあるものの、気力は充実していた・・・いける。
彼らに対して、技術的に要求することはそう多くはなかった。

“何で下を向くんだ???、ナイスゲームだ。碓東がゲームを支配している。顔を上げろ、胸を張れ。きついかも知れないけど運動量を落とすな。1点返した場面を想像しろ!!!、相手の足は止まり、そうなればもうお前達を止めることは出来ないだろう。必ず1点返せると信じてそのまま行け!!!”
(技術的要求は秘密・・・)