「、たまには顔を出さぬか」
「嫌だね、面倒くさい」
旅禍の問題が一段落ついて掛けられた知己の言葉に、あっさり即答を返す。
周囲には遠巻きに各隊長格。一段落ついたといってもまだ全て片付いたわけではないのに、案の定というか。ほぼ初見の斬魄刀鍛冶師という存在に興味があるらしい。
全員というわけではないようだが。元からいない十二番隊と旅禍を運んでいった四番隊、そして既知である二番隊と興味のない六番隊は自隊へと戻り、事後処理に手をつけているだろう。
は嘆息する。
「大体、斬魄刀を納める以外に何の用があるというんだ?」
「鍛冶師の仕事は造るだけではなかろう」
「斬魄刀は自己修復するだろう。更木のように阿呆な扱い方をしなければ、鍛冶師の手は必要ない」
「オイ……喧嘩売ってんなら買うぞ」
「勝てもしない喧嘩を買うとは、おまえも粋狂だな」
「何だと……」
先刻封じた斬魄刀は、流石に使うことを諦めたらしく手にしてはいない。だが、鬼道の使えない彼が出来ることといえば、残りは白打――体術のみ。
掴みかかってくるその手を軽くかわして。
――ヒュッ、シュルルルッ!
「なッ……!?」
斬魄刀を封じる際に使用した布でぐるぐる巻きにしてやった。
そして、その布の端を側にいた、最も小さい死神に差し出す。
「ほら、草鹿。ここを持てば運びやすいだろう。この馬鹿をつれて自隊へ戻れ」
「え~、でもぉ……」
「斬魄刀含めてこの状態では戦えんだろう。それにコレは自隊舎へ戻らんと解けんぞ」
「はーい、戻りま~す!」
元気な返事を残して、十一番隊副隊長・草鹿やちるはぐるぐる巻きの剣八ごとその場から去った。
とりあえず、うるさいのがひとつ減ったことに息をつく。
「変わっとらんのう……」
「変わってないのはおまえたちもだろう。いい加減に黙れ、流刃若火」
の頭に、先程からずっと響いてきているのは斬魄刀の声。
それは剣八の比ではない。ほぼ全ての斬魄刀が同時に話すものだからうるさくて仕方がないのだ。
その先頭に立っているのが流刃若火だ。
「無駄に長い挨拶口上などいらん。他のやつらもだ」
全ての斬魄刀をひと睨み。それで止めばいいものを、今度は反論がまた同時に来て。
「おまえたち……そんなに私を怒らせたいのか? いいぞ、別に。これ以後は、強制的に黙らせられたいヤツのみ喋るがいい」
片手の指をパキパキ鳴らし、反対の手で白い布をちらつかせる。見渡す眼差しは剣呑そのもの。は、やると言ったら絶対やるのだ。
そのことを知っている斬魄刀たちは、ピタリと一斉に黙り込んだ。
待つことしばし。
完全に口を閉ざしたのを確認して、は布をしまう。
「ふんっ。やっと静かになったか……これだから、死神には関わりたくないんだ」
「やれやれ、仕方がないのう」
諦めたように呟く元柳斎に代わって、今度は冬獅郎が呆れた顔で呟いた。
「そんな理由かよ……」
「私にとっては死活問題だ」
「はぁ~……鍛冶師も大変なのね~……」
「どんな仕事にだって、苦労は付き物だろう。楽なだけでは、遣り甲斐などあるはずもない」
「それはそうだけど……あっ、あの急須! 使わせてもらってるわ♪」
思い出したような乱菊の言葉に、ゆるりと彼女を見る。
冬獅郎と初めて会った日、店に来ていた乱菊は店員の勧めた急須を購入していった。普通のものとは一線を画した、ソレを。
「アレを買うとは、相当特殊な価値観の持ち主だな」
「面白いものは好きなのよ♪」
「つーか、自分で作っといて何言ってやがる」
「暇潰しで作ったものをどうこう言われてもな」
一呼吸の沈黙。
冬獅郎の眉間に皺が刻まれる。
「……店員は、おまえの力作だって言ってたぞ」
「あながち嘘ではないな。アレを作るのに、相当時間をかけたから」
「『暇潰し』で『時間をかけて』、『力作』……? 矛盾してないか?」
「何を言う。有り余る時間を有効に使うには、手の込んだものを作るに限るだろう」
ただの暇潰し。されど、その中から新たなアイディアや技術が生まれることもある。
職人にとっては、かなり有益なことなのだ。
「そういうものなのか……?」
「そういうものだ」
使う側にいる冬獅郎には理解が出来ないらしく、眉間の皺はそのままに溜息をついた。
新しいものへの挑戦も、かなり良い暇潰し方法だが、にはもうひとつ良い方法があったりする。
「まぁ、それはいいとして……前から思ってたんだが、その喋り方何とかならないのか? おまえ一応女だろ?」
「隊長、何気に酷いこと言ってません?」
「事実だろ」
「まあ、そうだな」
あえて否定せずに、は乱菊をじっと見上げる。目が合い小首を傾げた彼女に、ふわっと微笑を向けて。
「それは失礼致しました。これで宜しいでしょうか、日番谷様」
やわらかく微笑んで、女らしい仕草で一礼してみせる。
急な変わり身に冬獅郎は目を丸くしたあと、がっくりと項垂れた。
「すまん……オレが悪かった……」
「ふんっ。わかればいい」
「くっ……」
「らしく振舞うのがここまで似合わない子っていうのも珍しいわね」
「この外見年齢なら、男女の差など大してないだろう」
「おまえのやる気の問題じゃないのか」
「別に特別『女』にこだわる必要もないからな。仕事には一切差し支えないし、子を産む必要も……最低千年は先の話だろうし」
「千年!?」
予想通りの反応に、こっそりほくそ笑む。
それから、くつくつと喉を鳴らして笑った。
「ぅおーい、山じい。アレ、止めなくていいのかい?」
放っておいたら、延々と続きそうだけど。
教え子でもある八番隊隊長・京楽春水の問いに、元柳斎は珍しく笑って答えた。
「構わんじゃろ。あのように楽しげなは久々じゃしな。日番谷自身、己がの暇潰しになっていることに気付くまでは放っておこうではないか」
「元柳斎先生……」
そんな外野の会話も知らず、の本日の暇潰しは、まだ少し続く。
END