――何が起きたのか、わからなかった……
「遠慮させていただきますよ。あなたには確かにまだ力が残っています。死ぬ気の炎ではない、私や六道骸の使うものとも違う、強い幻術の力が、ね。ヌフフフ、その力には利用価値があります。あなたが女性でなければ、器として使わせていただくところですよ」
シモンファミリーの聖地だという無人島にて。シモンファミリーを騙してボンゴレとの戦いを仕組んだのが、シモンファミリーの一人、加藤ジュリーに乗り移った初代ボンゴレ霧の守護者であるD(デイモン)・スペードだと判明した直後のこと。
バトルマニアとしての性か、手合わせを願い出た雲雀に対してDはそう言った。
雲雀は……肯定も否定もしなかった。いつもと変わらぬ様子でいた。けれど、綱吉たちの受けた衝撃は大きく、山本も獄寺も雲雀に疑いの目を向けていた。
そして――
「ああああああああああ――――――――――っ!!!」
六道骸の肉体を乗っ取ったDと戦っていた雲雀が、初めて悲鳴を上げた。
Dに噛まれた首筋を押さえる形で自らの体を抱くようにする雲雀の体が、霧にでも包まれたかのようにぼやける。一瞬後、滝が流れ落ちる如く『恭弥』の姿は消え去り、濡れ羽色の長い髪を持つ女性の姿が現れた。
――綱吉には、何が起きているのか、理解できなかった。
真っ逆さまに落下してくる体を、咄嗟に自力で死ぬ気モードになり抱き止める。
綱吉の腕の中にいるのは、間違いなく女性。未来で偶然目にした大人の姿と比べればまだ少し幼さが残っているものの、確かにそれはだった。
の姿を見たいと切望していた。――けれどそれはこんな形ではないし、まして何かに耐えるように苦しげに歪められた表情を見たかったわけでもない。
「大丈夫か?」
「……っ、死には、しないよ……っ。だから、さっさとあの変態、咬み殺しなよ……っ」
声をかければ、気丈にも答えが返る。その瞳にはまだ強い光が宿っていて、決して屈しない彼女の心を確かに映し出していた。
何がどうしてこんなことになってしまったのか、さっぱりわからなかった。けれど――Dが全ての元凶であることだけはわかるから。
今やるべきことは、D・スペードを倒すこと。
手頃な岩陰にを下ろすと、綱吉はひとつ頷いて見せ、Dに向き合った。
弄ばれたシモンファミリーのため、何よりもの苦しみを取り除くために。綱吉はDとの戦いに挑んだ。
――なのに……
Dは、倒すことができた。今度こそ完全に消えたので、もうDが姿を現す心配はない。
復讐者(ヴィンディチェ)の牢獄に捕らわれていた皆も戻ってきた。
全て終わった――はずなのに。
「ヒバリさん!! 起きてください、ヒバリさん!!」
の意識が、まだ戻っていなかった。リボーンが言うには、綱吉がDと戦い始めてすぐに意識を手放したらしい。つまり、あの時綱吉に答えたのが限界だったということだろう。
それほどまでにダメージを受けていたなんて……もし、このまま目覚めなかったら……
綱吉は言いようのない不安に満たされ、その不吉な考えを否定したくて、を呼び続けていた。
やがて、の指先が微かに動き、瞼が震えた。
やっと現れた目覚めの兆候に、希望を――願いを持って、もう一度呼びかける。
「ヒバリさ――ぶっ」
「耳元でうるさいよ……」
呼びかけは、顔面を掴んできた手によって途中で止められてしまった。そして、返る言葉。
完全に目覚めたことを示すそれに、やっと綱吉は少しだけ気を緩めた。けれど、いつもとは全く違う弱々しい声に、まだ不安は大きく残っていて。
こちらを見たは、呆れを含む怪訝な顔をした。
「何、情けない顔してるの」
「……っ、だって、いくら呼んでも全然目を覚ましてくれないから……っ」
「死にはしないって言ったはずだけど?」
「聞きましたけど、でも! 幻覚空間からも牢獄からもみんな戻ってきたのに……っ」
「そのようだね。咬み殺したいぐらい人の周りに群れているね」
いつもと変わらない態度だけれど、それは現状を全く認識していないことを物語っていて。
たまらず綱吉は不安を吐き出した。
「Dはもういないのに、ヒバリさんだけいつもの姿に戻っていないから……っ。それって、まだヒバリさんの中にDの力が残っているってことですよね!?」
Dを倒せば、全てが終わると信じて戦った。事実、捕らえられていた仲間たちは皆、戻ってきたのに……だけが『恭弥』の姿に戻らなかったのだ。
だから、仲間たちもの周りに集まっていた。幻覚空間で一部始終を見ていたであろう山本と獄寺でさえ、信じられない面持ちで初めて見るその姿を見つめていたのだった。
当のはというと、綱吉の言葉でピクリと片眉が跳ねた。おもむろに襟足へと手を運ぶと、それを体の前へと引いてくる。すると『恭弥』ではあるはずのない、長く美しい濡れ羽色の髪が、窮屈そうに膨らんでいるYシャツの胸元へと流れ落ちた。
次の瞬間、彼女の周囲の温度が一気に下降する。
「……あんの腐れ南国果実野郎が……よくも余計な置き土産を残していってくれたものだなぁ、おい」
地を這うような声、完全に据わりきった目。言葉遣いも全く違うその様子。
もしかして、本当に、本気で、切れちゃっ、た、とか……?
今まで不機嫌だったり怒っていたり、本気の拒絶を向けられたことはあったけれど、それらとは全く違う怖さがある。
体感温度が全然違うのだ。冷たく刺さるような空気。何より喉元に刃を突きつけられているような鋭い雰囲気に、その場にいた全員が息を呑むことさえできずに凍りついた。
殺気であることに間違いはないのに、以前とは違うとはっきりわかる。この差はなんだろう。
「小動物」
「は、はいぃっ!」
「君じゃないほうだよ」
彼女独特の呼びかけに、恐怖心による条件反射から姿勢を正して返事をしたが、は綱吉を見ることもなく学ランの内ポケットから何かを取り出しつつ否を返してきた。
一瞬、頭が真っ白になったが、すぐに記憶が引き出された。
「あ……エンマ?」
「え、僕?」
「この島を覆っていた結界じみた障壁はどうなっている?」
「え、えーっと……要の建物自体が壊されているから、多分もうないと思うけど……」
「あ……雲の人! D・スペードが骸様をおびき出すために解いてた!」
「そう」
古里炎真の不確かな予測と、クローム髑髏の確かな情報。一応は望み通りの答えだったのか、一言だけ呟いて何かを始める。
先程取り出したのは、電子辞書のようなものだ。それがふたつあり、何本かのコードでそれを繋いだ。また、小型の無線マイクにも似たものを片耳につけて、聞いたことのない言葉を呟いた。すると、ふたつの機械が起動したようで、は何かを呟きつつキーボードを叩いていく。
「ヒ、ヒバリ、さん……? え、どこの言葉?」
「主要国の言語じゃねーのは間違いねえな。おそらく、プログラムを起動させる暗号だろ」
一番最初のことから見れば、リボーンの言葉には納得できるけれど……指の動きと言葉がほぼ同時に見えて、今はそれが合っているのかもさっぱりだ。
ややあって、はエンターキーを押し、すべての操作を終えたらしい。小さなふたつの画面が自動的に動いて何かを映し出していく。
それは、まず世界地図から始まった。地図上に四角い枠が現れ、動き、徐々に狭まっていく。狭まると画面は更に拡大した地図になり、また枠が一部を示して、拡大されて――ということを繰り返して最後に映し出されたのは……
「これって、今いるこの聖地じゃねえか」
「あ、一部が点滅してる」
の背後に立って画面を見ていた面々が呟いた。綱吉もそっと覗き込んでみると、確かに船の中で見た地図と同じ場所が映し出されていた。
ここに、何があるというのだろう。
「はッ、ご都合主義もいいところだな。あの野郎の罠でないことを願うね」
嘲笑にも似た、昏く歪んだ笑みを浮かべたは、機械を手に立ち上がった。けれど体に上手く力が入らないのか、よろけた彼女は背後の岩に寄りかかり、息をつく。
その、弱々しい姿に不安がまた綱吉の胸中に満ちていく。
「ヒバリさん!?」
「邪魔だよ、小動物。どきな」
「――待て、雲雀恭弥」
思わずへと伸ばした手は払われ、彼女は綱吉を押しのけて歩き出した。その歩みを止めさせたのは、鈴木アーデルハイト。
未だ『恭弥』と呼ぶその声に、はゆるりと振り返った。
「何か用?」
「ここが我らシモンファミリーの聖地である事実は変わらん。勝手をされては困る」
「なら君がついて来なよ、氷の女王。別に荒らす気はないんだ、いるだけなら構わないよ」
「あっ、オレも行きます!!」
珍しく他人の同行を許した。綱吉は一度は払われた手を伸ばし、今度はきちんとの手首を掴むことに成功した。
いつもとは違いすぎると離れてしまうことが、どうしようもなく不安だった。だから許可されなくてもついていく気でいた。――けれど。
も今度は力ずくで手を払うことはなかった。そうできるだけの力もなかったのかもしれない。代わりにニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、鼻先がくっつきそうなくらい顔を近づけて。
「人の裸を見たがるなんて、見かけによらず随分とケダモノじゃない。このスケベ」
「~~っ!? ちっ、違います違いますそういうつもりじゃ――あっ」
の声で、言葉で囁かれた内容に、一気に顔に熱が集まって。思わず勢いよく後退り両手を体の前でぶんぶん振って否定してしまって、気付いた時にはもう遅い。
見事に拘束を解いたは、さっさと歩き出していた。
だが、流石に今度は追うことはできなかった。は基本的に冗談は言わない。つまり、本当に裸になる予定だということだから。ついていけるわけがない。
アーデルハイトが一緒に行ってくれるのなら、任せるしかない――と。
無理矢理自分を納得させて見送ろうとした綱吉とは逆に、再びの足を止めさせたのはリボーン。
「ヒバリ。こんだけ大々的にバレちまっても、まだ『恭弥』を演じる気なのか? 『』に戻る丁度いいチャンスだろ。戻らねーのか?」
「……アルコバレーノ。答え合わせをする気はないとも、同じことを何度も言わされるのは嫌いだとも言ったはずだよ」
さらりと暴露してくれたリボーンに対し、は振り返ることすらなく歩き去ってしまった。
このあとに起こる騒動に関わりたくなかったのかもしれないが……誰がそれを収束させるというのか。流石にこれだけはっきり暴露されたものを誤魔化せる力も度胸も綱吉にはない。
「リボーンさん!? ヒバリの野郎があの『』って、ホントなんですか!?」
「その証明ならツナの反応見りゃ、モロバレだろ」
「って、ツナ君!? どうしたの!?」
しかも、更に追い打ちをかけてくれるリボーン。本当にどうしろというのか。
もう何もわからなくなってその場にしゃがみこんだ綱吉に気付いた炎真が問うが、それに答えることすらできなかった。
膝を抱える両腕で、真っ赤になっているだろう顔を隠す以外に何も選択肢が思い浮かばない。
――と、山本の軽快な笑い声が踊る。
「ハハッ、そっかそっか! やっと謎が解けたぜ!」
「謎って……」
「山本、おめーは一体何に気付いてたんだ?」
「ん? ツナがヒバリを好きだってことだぜ?」
「っ!?」
思いもよらなかった人物からの爆弾発言に、綱吉は息を呑んで身を硬くした。
まさか、バレていたなんて……
「十代目がヒバリの野郎を好きでいらっしゃるだと!? 嘘つくんじゃ――って、おいテメエ、十代目がお姿を消された時応接室に真っ先に行った理由って、まさかそれか!?」
「あー、まあ、それもあっけどよ……ツナがヒバリを好きだってのは、見てたら何となくわかったぜ?」
「で、謎ってのはなんだ?」
「ん? だからよ、『今』のツナはヒバリのことすげー好きっぽいのに、『未来』のツナが別の人間をすげー好きになって結婚してたってのが、どーしても納得できなかったんだよ。ツナもそれ知ってもヒバリ好きなままであんま気にしてなさそーだったし、なんでかなぁってな」
「なるほどな。ヒバリと『』が同一人物なら全部納得できたってことか」
「おう!」
「え、あの、『未来』って、どういうこと?」
「もしかして、ランボさんの10年バズーカで何か……?」
「おう! おまえらが転校してくるちょっと前にな、オレら全員10年後に行ってきてんだ。そこでな、家継って、ツナそっくりのツナの息子に会ってきたんだよ。その息子を産んだツナの嫁さんの名前が『』だったんだ」
「それは、また……」
「何と言うか……」
シモンファミリーの皆からの視線を感じる……一体何の羞恥プレイだコレ……
もう綱吉は様々な感情でいっぱいになり、頭の中は混乱一色になってしまって、まともな判断力がほとんどなくなっていた。
だから、誤魔化すことも考えられず、沈黙に耐えられるだけの余裕もなくて。
しゃがみこんだまま、ぽつりと呟くように言った。
「山本……いつから気付いてたの?」
「ん、ん~? オレらが初めてヒバリに会ってしばらくしてだから……一年の冬ぐらい、か?」
「オレ、そんな前からヒバリさんのこと好きだった?」
「……自覚なかったんか?」
「あるわけないよ!! その頃なんて、ヒバリさんのこと男だと思って疑ってなんかいなかったんだから!!」
「それは……自覚するはずないよね……同じ状況なら僕だってしないと思うし、しても認めたくない――かな?」
炎真の同意は、かつて綱吉が思ったそのままで。自分が異常だったわけじゃないということを改めて知れて、ほんの少しだけ力が抜けた。
けれど、落ち着くところまではいかない――いかせてくれない存在が。
「ツナ。いつヒバリが女だって気付いた?」
「……こ、黒曜センターで骸たちと戦ったあと……入院してた時……」
「ああ、超直感か」
リボーンの納得した呟きに、綱吉は否を唱えなかった。
本当は違うけれど、真実は言えない……言いたくないから。――男だと思ったまま告白したなんて、言えるわけがない。
勝手に思い込んでいてくれたほうが有難いから、綱吉はそれ以上何も言わなかった。
……言えなかった、が正解かもしれない。何か――自分でもよくわかってはいないけれど、たったひとつのきっかけで、何か言わなくてもいいとんでもないことまで口走ってしまいそうな予感を微かに感じていたから。
今の綱吉には、それが精一杯だった。――のに。
「まあ、これで隠れてヒバリに会いに行かなくてもよくなったんだ。よかったじゃねえか、ツナ」
「でもよ、小僧。今ヒバリは、何つーか、アレだろ? 幻術? の力を取り戻しに行ってるんだろ? あんま変わんなくねえか?」
「幻術の力があろーがなかろーが、強制的に『』に戻るように仕向けちまえば関係ねーよ」
「だっ、ダメだ! やめろよ、そんなこと絶対するなっ!!」
どうしてリボーンは人を追い詰めるようなことばかり言うのだろうか。
折角何も言わないようにすることで、細い細い糸をギリギリのところで保っていたのに。リボーンの一言が見事にそれをぶち切ってくれて、綱吉は顔を上げて叫んだ。
皆が驚いた顔で注目してきたが、綱吉にはもうそれを気にするだけの余裕はない。
ずっと抱えてきた不安が、恐怖へと摩り替わっていくのに、心は――頭は翻弄されていた。
「……なんで止めるんだ、ツナ。おまえにとって悪いことはねえだろ?」
「あるよ!! なんでもかんでも勝手に決めつけるなよ!! リボーンは関係ないだろ!? 放っといてくれよっ!!」
怪訝に見つめてくるリボーンを、睨みつける。けれど、頭の中はぐちゃぐちゃで、涙が溢れそうになるのを反射的に拳を握り爪を立てて堪えていた。
その綱吉の傍らに膝をつき、山本が綱吉の頭に軽く手を置いて、珍しく真面目な表情で覗き込んできた。
「落ち着けって、ツナ。なあ、なんでそんなに怯えてるんだ?」
「――っ」
「ツナ君が怖がっている理由をちゃんと言わないと、多分彼は納得しないんじゃないかな?」
山本とは反対側に炎真が座り込み、綱吉の拳の上にそっと手を置いて静かに言った。
そのぬくもりに促されるように、口を開く。
「ヒ、ヒバリさんが……いなくなっちゃう、から……っ」
「え?」
「ヒバリさんはまだ『恭弥』でいるつもりなのに、『恭弥』の居場所を奪っちゃったら、本当にどこかへ行って、二度と会えなくなる気がする、から……っ」
「そりゃねえな。ボンゴレの組織力がありゃ人一人捜し出すぐらい簡単に――」
「できるわけないこと偉そうに言うなっ!!」
「何だとっ!」
「誰が今までにヒバリさんが女だって気付けてたんだよ!? 幻術だとかパラレルワールドを知るとか、そんな特殊な能力がなければ気付けなかったくせに何が組織力だよ!! リボーンだって、ヒバリさんがワザと残してあった戸籍を調べて見なければどうせ気付けもしなかったんだろ!? ヒバリさんは絶対誰にも何にも束縛されない!! そうできるだけの力があるあの人が本気で姿を消したら、誰が捜し出せるって言うんだよッ!!!」
と二度と会えなくなる――それがこわくてこわくてたまらない……
なのにどうしてリボーンはそれを理解しないのか。何故綱吉が恐れることを現実にしようとするのか……
綱吉の中に、リボーンに対する憎しみにも似た思いが生まれた――その時。
「ふぅん……流石にアルコバレーノよりは、僕のことを理解できているようだね」
聞こえた渦中の人物の声に、全ての視線が集中する。そこには、見慣れた雲雀恭弥の姿があった。本当に、Dの力を取り除いて自らの幻術の力を取り戻したようだ。
雲雀の視線は、鋭くリボーンを射抜いた。
「アルコバレーノ。雲の守護者の席を永久に空席にしたくないのなら、余計なことはしないほうが身のためだよ」
「……おまえがそれを持って逃げるなら、ボンゴレが追うだけだ」
「追いつけない、と言ってるのを理解しなよ。面倒くさいね……ひとつだけ教えてあげるよ。D・スペードが一時的に僕の力をせき止めはしたけど、あれはほんの一部に過ぎない」
「どういうことだ?」
「そうだね……わかりやすく例えるなら、リミッターをかけていた状態だったということだよ。本来の力の10分の1にも満たないほんの一握りの力だけをD・スペードはせき止めただけで、僕を支配した気でいたってことさ」
「10分の、1……」
「そのリミッターを完全にはずしてきた」
「っ!?」
「今の状態がどの程度なのか知りたいなら、そこにいる三人の術士に聞いてみるといいよ。――そして己の無力さを思い知るがいい」
鋭く、厳しく、威厳に満ちた言葉を残して踵を返した雲雀は、来た時と同様に草壁の操縦するヘリコプターに乗って島を去っていった。
ヘリコプターがすっかり見えなくなり、音も止んだ頃、リボーンは倒れたままの骸へと目を向けて、言った。
「骸、ヒバリの言ってたこと、わかるのか?」
「……10年後の僕が魔レンズを通して雲雀恭弥を見た時には、黒い影の奥に本来の姿のシルエットが見えた程度でしたよ」
「今は?」
「この状態で問われても、力を使い果たしていますからね」
骸の言葉に同意を示すように、リボーンが目を向けるとクロームも左右に首を振って答えとした。
彼らに代わって答えたのは、残る一人の術士。シモンファミリーの加藤ジュリーだ。ジュリーは、大きく目を見開き、呆然と呟くように言った。
「なんなんだよ、あいつ……全然なんにも感じなかったぞ……」
「どういうことだ?」
「幻術の気配がなんにもしねえんだよ。さっきのがあの女と同一人物だなんて、知ってても信じらんねえ。あれ、別の姿ですれ違っても気付けねえぞ。少なくとも、俺にはぜってー無理だ」
それこそが、何よりの答え。同じ術士でも、幻術を見破れないのなら、誰が彼女を見つけられる? 情報操作だって雲雀には難はないのだ。『雲雀恭弥』でも『雲雀』でもなくなった彼女に、誰が気付ける? 隣にいたってわからないではないか。
どうして――どうしてこんなことになってしまったのだろう……
「ツナ?」
「ツナ君!? 大丈夫!?」
「なんで、こんなことになったんだろう……好きになっちゃ、ダメだったのかな……告白なんかしなきゃ、もっとずっと会えたのかな……いっしょに、いられたのかなぁ……っ」
「ツナ君、泣かないで。大丈夫だから……あの人はいなくなったりしないから……っ」
「わかんないよ……オレもう、どうしたらいいのか……わかんないよ……っ」
必死に慰めてくれる炎真の声も、もう綱吉には届いていなかった。
もう何も考えられなくなった綱吉は、ただ涙を流し続けていただけだった……