【 く も り ぞ ら 】
未来から来た騒動〈2〉

 ――ぽんっ。
「うわっ!?」

 何の前触れもなくいきなり目の前に現れた煙に、学ランを着た眼鏡の少年は驚きに飛び上がった。煙の中から現れた白い紙を、反射的に受け止める。
 丁寧に四つ折にされたそれは、封筒にこそ入ってはいないが手紙であることは想像に難しくない。
 気弱そうな少年は、それを開くより先にきょろきょろと周囲を窺う。登校時間中の階段の踊り場という、誰が通りかかってもおかしくはない場所だったが、幸いにも丁度人通りが途切れた時だったらしい。この異常な現象を誰にも見られていないことを確認して、少年は胸を撫で下ろした。
 手の上にある紙を見て、生唾を飲み込む。そして、恐る恐る紙を開いてみた。
 中には見覚えのある文字が綺麗に並んでいて、間違いなく手紙であることを示している。

「――っ!?」

 中に書かれている文字を読み始めた少年の顔は、見る見るうちに真っ青になっていく。
 そして、読み終えるや否や、少年は今来たばかりの道を戻り、学校を飛び出した。

2 ・ 時空の迷い子

「きゃあっ!?」

 路地裏に、高い子供の悲鳴が上がる。
 見るからに不良という風体の高校生が三人、大人気もなく幼子を囲み、猫の子よろしく首根っこを掴んで小さな体を持ち上げていた。
 幼子はじたばたと手足を動かして抵抗を示すも、不良にとってはそんなもの抵抗の内にも入らない。幼子の様子など全く意に介さず、不機嫌な顔を近付け幼子の顔を覗き込む。

「ほれ、見ろ。やっぱこのガキ、あの中坊にそっくりだ」
「マジかよ、何だこの瓜似。兄弟ってか?」
「にしても似すぎだろ。気味悪いな」
「やあっ!!」
「っ!」

 顔を近付けすぎたのだろう。幼子を持ち上げている高校生の頬に、幼子の振り回す手が当たった。5歳にも満たない子供の力など高が知れている。痛みを伴うようなものではない。
 だが彼らにとって問題なのは、痛みがあるかどうかなどではなく、自分たちの思い通りになるかならないかなのだ。
 幼子の抵抗は、高校生たちの逆鱗に触れるには充分だった。

「るせえぞ、ガキゃあっ!!」
「きゃんっ!!」

 不良は幼子の体を力任せに塀に叩きつけた。
 大の大人でも固いコンクリート塀に背中を打ち付けるのはかなり痛いのだ、幼い子供にとってその衝撃は大人の比ではない。冷たいアスファルトの上に落ちた幼子は、小さな呻き声を最後に静かになった。
 死んだように動かない体と完全なる沈黙は、幼子が意識を失った証拠。それで満足するような精神など、この不良たちは持ち合わせてなどいない。むしろ、更に残虐な笑みを一様にその顔に刻みつけ、幼子を取り囲む。

「自分の代わりに弟がボロボロにされりゃ、あのガキも自分がケンカ売った相手の恐ろしさってもんを思い知るだろーぜ」
「へっ、中坊の分際で生意気にも反撃なんざしてくるのが悪ぃのさ。ガキはガキらしく、泣き喚いてサンドバッグになってりゃいいってのによ」
「そーそー。ってワケだからな、チビ? うらむならテメェの兄貴をうらめよ?」

 昏き欲望に濁る瞳が、幼子の姿を狩るべき獲物として捉えている。伸ばされた手は、肉食獣の鋭い爪。逃げる力もない子兎の体を引き裂こうとした――その時。


「そこで何してるんですかっ!?」


 凛とした声が路地裏に響き、不良たちは一瞬動きを止めた。
 声のしたほうへと顔を向ける彼らに焦った様子は微塵もない。それは声がまだどこか幼さを残す少女のものだったからだ。
 事実、そこに立っていたのは、名門中学校の制服を身にまとう少女が一人だけ。不良たちは獲物が増えた喜びを口許の笑みで表す。
 そんな不良たちの欲望に気付かぬ少女は、路地へと踏み込んできた。

「小さな子供相手に何してるんですかっ!?」
「べーつにぃ?」
「生意気なガキにしつけしてやってるだけだぜぇ?」

 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべた不良たちの一人が、幼子の胸倉を掴んでその体を持ち上げ、わざと少女に見せびらかすように揺り動かす。
 その行動は少女の怒りに火をつけた。

「やめなさいっ!! 何がしつけですかっ!? あなたたちのはただの虐待ですっ!!」
「やめさせたきゃ、テメエが何とかしてみせろよ。ホレ?」
「う……ハ、ハル、おねーちゃ……ダメ……っ」

 少女に向けて差し出された小さな体。その幼子から、微かな声がこぼれ、少女は改めてその姿を、顔を見て、目を見開いた。

「家継ちゃんですかっ!?」
「あーん? このガキ、まだ意識があるぜ?」
「ってことは~? 小さくてもサンドバッグになりそうってか?」
「なっ!? その子を放しなさいっ!!」
「おっと、テメエはこっちだ」
「いたっ!?」

 不良たちの言葉に思わず駆け出した少女は、けれど一人の不良に手首を掴まれ幼子から引き離されてしまう。コンクリート塀に押さえつけられた少女の目の前には、怪しく光るナイフが突きつけられて、少女は本能的な恐怖に息を呑んだ。

「その顔ぐちゃぐちゃに切り裂かれたくなきゃ、大人しくしてな」

 ペチペチと軽くナイフの腹で少女の頬を叩く不良。恐怖に引きつる少女の顔。それらは幼子の中に覚悟という名の炎を灯した。
 同時に少女もまた、己の恐怖心を振り払い幼子を守るために勇気を振り絞る。

「この鬼畜ギャングっ!! 家継ちゃんを放しなさいっ!!」
「っ!!」

 新体操で鍛えた脚力を駆使して、少女は己を捕らえる不良の股座を蹴り上げた。予想外の反撃にあった不良は悲鳴を上げることもできずにくずおれる。
 仲間の異変に残る二人の注意が幼子から逸れた、その時。幼子もまた動いた。

「このアマっ!!」
「きゃっ!?」
「っ、ダメえぇ――――――――――っ!!」

 仲間の落としたナイフを拾い上げた不良が、少女に向けてそれを振り上げた瞬間。
 幼子の叫びと共に、澄んだオレンジ色の炎が路地裏に溢れた。





 雲雀の八つ当たりから逃れるため学校を飛び出した綱吉と炎真は、どこをどう走ったものか並盛神社前の路上で力尽きていた。
 膝に手をつき、息も絶え絶えになっている。

「はっ、はぁ……っ、な、なんとか……っ、ま、まいた?」
「っていうか……っ、はっ、諦めて、くれた、だけ……かな……はぁ……っ」
「おーい、ツナー!」

 何とか少し回復してきた頃聞こえてきた呼び声は、山本のもの。
 顔を上げて見れば、綱吉が一緒に登校していた三人がこちらへと駆けて来ていた。

「十代目っ、大丈夫ですかっ!? ヒバリの野郎にはとりあえずダイナマイト投げつけて攪乱(かくらん)しておきましたけど……」
「あ、ありがとう、獄寺君……」
「何があったんだ、二人とも?」
「僕は知らないよ。巻き込まれただけだから」
「うっ、ごめん……」

 逃げることに必死で周囲の状況など全く気付いていなかったが、どうやら獄寺のお陰で逃げ切れたらしい。今日ばかりは本気で感謝した。
 けれど山本の問いに答えた炎真には、ただ謝るしかない。本当に炎真は無関係であり、逃げる必要など全くなかったのだから。
 思わず綱吉は小さく縮こまる。
 その綱吉へ追い打ちをかける存在といえば、リボーンが代表格。

「家継には追いつけなかったんだな?」
「う、うん……」
「家継って……確か、ツナ君の未来の息子じゃなかった?」
「うっ……さ、さっき、20年後から来たって家継と会って……それで、なんでか家継、ヒバリさんの神経逆撫でして帰ったみたいで……八つ当たりされそうになって、それで逃げてきたんだけど……」

 想いを寄せる相手を知られているだけでも恥ずかしいのに、その人との間に生まれたという未来の子供の話題を見ていない人に話すなんて、恥ずかしさの極致だ。
 もう、恥ずかしさだけで死ねる――とも思ったりしたけれど……
 綱吉はそれらを含めた己の不幸に、がっくりと肩を落として、深く嘆息。

「はあ……っ、オレいっつもこんなんばっかだよ、もう……」
「損な役回りばっかりなんだね、ツナ君……僕もあんまり人のこと言えないけど……」
「ダメダメコンビらしくていーじゃねえか」
「「 うっ 」」

 やはり追い打ちしかかけてこないリボーンのけなしに、綱吉と炎真は反論もできずに言葉を詰まらせただけだった。
 その、直後。


「「「「「 !? 」」」」」


 この数ヶ月で嫌という程身に染みてしまった日常にはあるはずのない感覚が突然に襲い掛かり、全員が息を呑んで反射的に周囲を警戒する。
 先程までのぬるい日常は消え失せ、彼らの間には緊迫した空気が満ちた。

「何、これ……っ」
「死ぬ気の炎の波動だな。姿が見えねえのにこれだけ感じ取れるんだ。相当な強さだぞ」
「一体、どこに……」
「――あそこ!」

 これは間違いなく死ぬ気の炎の感覚。しかもハイパー死ぬ気モードでもない今の綱吉でもわかるのだから、それがどれだけ強いかが窺える。
 日常ではあるはずのない、マフィアだけが使うもの――即ち、トラブル発生の証。
 前回の騒動が解決してまだ一週間も経っていないのに、また何かが起こったのか、と。うんざりした気持ちを中心に抱きつつ、炎真が指差した方向へと綱吉は条件反射で目を向けた。
 そこは、空だった。綺麗な晴れ渡った青空によく映える、オレンジ色の炎の塊が見える。

「炎の……鳥?」
「……真っ直ぐこっちに向かってきてねえか?」
「敵襲っ!?」

 大きく翼を広げたような形状と羽ばたきを思わせる動きは、その炎が鳥を模していると判断するには充分で。更にそれがはっきりとわかるようになってきているのは、急速に近付いてきている証拠。
 敵の襲撃かと身構える獄寺の反応は、恐らく正当なものだろう。
 けれど、綱吉は違った。

「……ちがう……っ」

 ぽつり、と。こぼれた呟きは、意図的なものではない。
 超直感が、告げたのだ。あれは敵ではない、と。むしろ、己に近しいものだ――と。
 そして、それが正しいのだと告げるように聞こえてきたものは――


「おとーさぁーんっ!!」
「はひぃ――――っ!!」
「っ、家継っ!? ――と、ハルっ!?」


 聞き覚えのあるふたつの声は、炎をまとう大きな鳥の上にいた二人の人物から発せられていたもの。それを認識した次の瞬間にはもう、彼らは目の前に迫っていて……なんと、一瞬で鳥は消え失せ二人の体は宙に投げ出されたではないか。
 真っ直ぐ己に向かってきた幼子の体を反射的に綱吉は抱き止めたが、いかんせん勢いがつきすぎている。踏ん張る前に体は後方に押され、咄嗟に幼子を抱え込むように背中を丸めて――勢いのまま道路をゴロゴロと転がってしまった。
 幼子より数倍大きな三浦ハルは、山本と獄寺、二人がかりで受け止めた模様。
 とりあえず二人共大きな怪我もなく済んだようだと、胸を撫で下ろしつつ起き上がった綱吉は、けれどすぐにぎょっとした。

「って、家継ケガしてるっ!?」
「不良に襲われてたんです!」
「ええっ!?」

 ハルのもたらした情報に、綱吉は家継の体をばっと調べた。
 綱吉の制服についた血は、額にある小さな傷。あとは背中を触った時に顔を歪めたので、打撲か……不良に痛めつけられた経験なら綱吉にも何度だってあるので、何をされたのか予測をつけることは難しくなかった。
 こんな小さな幼子に対して暴力を振るった不良たちに対して、綱吉は怒りを覚えた。
 けれど。

「それで匣使ったんだな」
「だって、ハルおねーちゃんにナイフむけたから」

 家継のものらしい、未来で一度だけ見た覚えのある匣を渡してくるリボーンに答えた幼子の答えで、綱吉の中の怒りは消え失せた。
 代わりに、穏やかで、そして誇らしい気持ちが湧いてきて、綱吉は家継の頭を優しく撫でた。

「……そっか。ハルを守ってくれたんだね……えらいよ、家継」
「えへへっ」
「とにかく、ここじゃ人目につく。神社の境内でひとまず手当てするぞ」

 ほのぼのしかけた雰囲気はリボーンの一言で現実に戻り、全員あたふたと境内へと急ぐ。
 リボーンが持っていた救急セットでひとまず家継の手当てをしていると、炎真がポツリと呟いた。

「話に聞いてた通り、ホントにツナ君そっくりなんだね」
「う……っ」
「でも、どうしてここにいるのかな? 10年後にいるはずなんだよね、あの子……」
「そういえば……」
「10年バズーカってやつ?」
「いや、あれは10年後の自分と5分間だけ入れ替わるものだから……」
「そっか、10年後で使っても過去であるこの時代には来れないね」
「うん。それに、とっくに5分なんて過ぎたし……」

 落ち着いたことで、ようやく現状の異常性に気付く余裕ができた。けれどそれは、ただ謎を呼ぶだけ。考えても答えなどでないし、むしろ先程の20年後から来たという家継の状態と被っている気がして嫌な予感しかしない。
 その内に家継の手当てが終わったようで、救急セットを片しながらリボーンがこの異常事態を理解するため本人に問い掛けた。

「ほら。これでいーだろ」
「ありがとー」
「で、チビツグ」
「『チビツグ』って。リボーン……」
「家継じゃドッペルゲンガーと紛らわしいからな」
「ドッペルゲンガーって言うなよ……」
「おまえ、なんでここにいる?」
「あのね、おうちでおとうさんとかくれんぼしてたの。でもね、いつのまにかおそとにいたの」
「……幼児に説明を求めたのがそもそもの間違いだったな……」

 リボーンの幼子に対する呼びかけに呆れ返る綱吉を無視して発せられた質問だが、それによって望む答えを得られることはなかった。
 当然といえば当然の結果にほとんどの者が肩を落とす中、近くの茂みが風などによるのではない音を立てて――ひとつの影が飛び出す。

「がはははっ! ランボさん、さんじょーだもんねー!!」
「アホ牛のくせに、いいタイミングで出てきたな」
「ぐぴゃっ!!」
「10年バズーカよこせ」
「ぴぎゃあっ!!」

 周囲の都合などお構いなしのうざキャラ、ランボの登場にうんざりする間もなく、リボーンが速攻で叩きのめした上にどこに隠しているのかわからない10年バズーカをもあっさり見つけて奪い取った。
 あまりの手際の良さに子供好きなハルでさえ仲裁に入ることもできずに呆然としている中、慣れた調子で巨大なバズーカを小さな肩に乗せたリボーンは、あろうことかそれを綱吉へと向けてきたではないか。

「どうせ10年後でこいつ探してんだろーから、説明がてら状況把握してこい」
「オレ――――――っ!?」

 綱吉が否を唱える前に引き金が引かれ、辺りは白い煙に包まれた。

「……ホントに損な役回りばっかりなんだね……」

 炎真の呟きが、空しく溶けていった。





「けほっ、けほっ!」

 うっかり吸い込んでしまった煙にむせた綱吉は、瞼を通してでも感じる光に恐る恐る目を開けた。前回は花のにおいが満ちる棺の中だったけれど、今回はちゃんと普通の空間に出たらしく、ほっと胸を撫で下ろす。
 綱吉がいたのは、室内。極々普通の、一般的な家庭のリビングだ。ただそこは、慣れ親しんだ自宅ではなく、全く見覚えのない他人の家のようだった。
 ソファに座る綱吉の前にあるテーブルには、子供向けの絵本が開いて置かれている。
 他に人影はなく、全く状況がつかめない。

「えーっと……ここって……」
「ツナさーん、お待たせでーす」
「え……っ」

 他人の家ということもあり動き回るのに躊躇していると、声を掛けられた。
 自分が聞き慣れているよりも少し低めで落ち着きはあるものの、その声は確かに知っているものだった。
 声のした方向を振り向くと、リビングの戸を開けて黒髪の女性が入って来ていた。
 女性は綱吉を見ると、目を瞠って。

「はひっ! ツナさんが縮んでます!」
「その声と喋り方……っ、まさか、ハルっ!?」
「はい、ハルですよ」

 綱吉の問いにあっさり答えた女性、ハルに。今度は綱吉が目を瞠る番だった。
 綱吉が驚きを言葉に表すより先に、大人ハルが完全にリビングに入ってくる。

「――え……?」

 その、腕に。
 抱かれていたものに、綱吉の目は釘付けになって言葉を失ってしまった。
 あるはずのない現実に、綱吉の脳内は完全にフリーズしてしまったのだ。





「……あれ? えーっと?」
「10年後のツナ、か?」

 煙の中から現れた家継とよく似た男性に、リボーンがバズーカを下ろしながら問い掛けた。きょろきょろと周囲を見渡していた男性はその声に気付くと、リボーンを見下ろして――ひとつ頷く。

「ああ、10年バズーカで入れ替わったのか……うん、そう。24歳の沢田綱吉だよ」
「随分ラフな格好してるが、休暇か?」
「そう、本っ当ーに、久々の休暇中なんだよ」
「じゅ、十代目! ご立派になられて……っ!」
「わあ、僅かとはいえ隼人を見下ろせるって変な感じ」
「な、名前呼び……っ、感激ですっ!!」
「はひーっ、大人ツナさん、すごくカッコイイです!」
「ありがとう、ハル」

 流石に10年も経つと賛辞もさらりと受け取れるらしく、にっこり笑って返された言葉に獄寺とハルは揃って嬉しさで身悶えている。それらを笑って見守っているのが山本で、初めて10年バズーカの効果を目の当たりにした炎真はただ目を丸くしていた。
 リボーンはひとつ溜息をつくと、時間切れになる前に用件を口にする。

「ツナ。効力切れる前に息子引き取れ。どうやって来たのか知ったこっちゃねーが、どうせそっちで探してたんだろ」
「え、いや? 探してないけど……息子って?」
「家継だ。そこにいるだろ」

 きょとんとした大人綱吉の反応に、リボーンが訝しげに家継を示す。
 家継を視界に入れた彼は一瞬目を瞠ったあと、幼子に近付いてその前に膝をつく。そして目を細めてじっと見たあと軽く手をかざし――静止すること数秒。

「……違う……この子は、オレの息子じゃないよ」
「なん、だと……どういうことだ!?」
「オレの息子の家継は、10年後にちゃんといるよ。行方不明になったことなんてない」
「それ、ホントかツナ?」
「うん。ここに来る直前まで絵本読んであげてたからね、間違いないよ」

 立ち上がり膝の土を払う大人綱吉に、見慣れているはずの家継も何故か飛びつくことはしない。この時代の綱吉に対しては甘えるのに、今目の前にいる綱吉に対してはどこか警戒しているようにさえ見える。
 その反応が尚、彼の言った言葉に真実味を与えていて。

「そ、それじゃあ……」
「ここにいる家継は、一体何者だってんだ……?」

 幼子へと集まる視線は、大きな疑惑と不審に染まっていた。