【 く も り ぞ ら 】
未来から来た騒動〈後日談〉

 机の上に無造作に置かれた、一枚の紙。
 そこに書き殴られた、簡潔な文章。
 それらを見下ろしていた30代には全く見えない童顔の男は、深く深く溜息をこぼすと、携帯電話を取り出してどこかへと連絡を入れた。

後日談 ・
ドッペルゲンガー襲来

「いないし……」

 応接室の戸口に立つ茶髪の少年が、主人のいない室内を見渡し落胆の呟きをこぼした。
 その様子を丁度目撃した『風紀』の文字が書かれた腕章をつけたリーゼントの男が少年に近づき、声をかける。

「……沢田、そこで何をしている?」
「あ……どこ行ったか知ってます?」

 声をかけてきた風紀委員副委員長の姿を認めた少年は、応接室内を指差して逆に問い返した。
 風紀副委員長・草壁は応接室に入り、ぐるりと見渡してから少年に向き直る。

「委員長に用事か? 行き先は特に聞いていない。出掛けられているのなら……」

 そうして彼が告げた可能性に、少年はにぱっと笑顔を咲かせてから礼を告げるとその場を後にした。
 草壁は首を傾げて、少年の後ろ姿を見送った。





「ひぃっ!? ヒバリさん!?」
「てめえ、朝から何の用だ!?」

 通学途中の住宅街にて。
 行く手を阻むようにして現れた風紀委員長に対して、綱吉と獄寺がこのような反応をしてしまったのも無理からぬこと。20年後の未来から来た息子への八つ当たりで咬み殺されてから、まだそんなに時間は経っていないのだから。
 片や見るからに怯え、片や完全な警戒&喧嘩腰。
 どちらもまともに話をできる状態ではないのは一目瞭然で、雲雀恭弥はあからさまな溜息をこぼした。そして、くるりと踵を返す。

「ヒバリ、何か用があったんじゃねーのか?」
「……用はもう済んだよ。無駄足なのが判明した」
「何が知りたかったんだ?」
「聞いてどうするんだよ。何の情報も持ってないことがわかりきっているのに話す意味はないね」
「……つまり、こいつらの反応見ただけで有無がわかる情報ってことだな。――家継絡みのことか?」
「え、ええええーっ!? 家継帰ったんじゃないのー!? っていうか何でそーなるのー!?」

 何も言わずに去ろうとする足を止めさせたのは、塀の上に立つ黒いスーツの赤ん坊・リボーン。自己完結を許さずに情報を引き出そうとするリボーンの口から出てきた未来の息子の名前に、綱吉は思わず叫んでしまった。
 その綱吉へ向けられたのは、鋭く、そして冷ややかな二対の瞳と――そして嘆息だった。

「自分で考えろ、ダメツナが」
「やっぱり来なきゃよかったな……何でバカツグの所為でこんなみじめな思いしなきゃならないんだよ……」
「……やっぱ、おまえヒバリじゃねーな」
「へ!?」
「雲雀恭弥であることに間違いはないよ。あんたたちが思ってる人間とは別人だけどな」
「……の息子ってことか」
「はいっ!?」
「雲雀姓なのは跡取りだからか?」
「……はあ~……やっぱり俺、こんなのよりもあんたの血を引いて生まれたかったよ……」
「ええっ!?」
「ほォ~? 母親と違ってカワイイとこあるじゃねーか、おまえ。協力してやろうか?」
「なっ!?」
「できるものなら、お好きにどーぞ。もしそうなっても、それは平行世界になるだけで、残念ながら俺自身に影響はないからどうでもいいよ。じゃあな」
「ちょっ!?」
「で、結局おまえは何しにこの時代へ来たんだ?」
「バカツグの回収だよ」

 綱吉と獄寺を置き去りにして交わされていた会話は、やっぱり勝手に終わりを告げて。今度こそ本当に去って行った恭弥を、綱吉は追うこともできずに見送った。
 頭の中は混乱一色、何をどう考えていいのかもわからなくて。結局、唯一事情を理解してそうなリボーンに助けを求めるしかなかった。

「どういうことだよリボーン!? 今の会話一体何!? 今のアレ、ヒバリさんじゃないの!?」
「雲雀恭弥だって名乗ってただろーが。おまえとの息子だろ。家継の兄弟ってことじゃねーのか?」
「ええっ!?」
「あ、あのー……すみません、リボーンさん。どうしてヤツがヒバリじゃないとわかったんですか?」
「おまえら……もう少し相手をよく見る癖をつけろ」
「すみません!」
「ドッペルツグがしてたのと同じ腕時計みてーなのを着けてたからだ。恐らくアレがヴェルデが作ったっていうタイムトラベル装置ってとこだろ」
「あ……」

 言われて、ようやく気付く。携帯電話を持つ雲雀は腕時計を着けない。それに、何より今現在、彼女の手首にはボンゴレ十代目守護者の証であるVG(ボンゴレギア)――雲のブレスレットがある。それが、何より本物である証拠だ。
 先程の少年がでないことは納得できた。次の問題は、その存在。
 20年後から来た家継と同じものを身に着けていたなら、同じ時間から来た可能性は高い。そこはいい。そして綱吉を見て父親であることを示唆することを言ったし、あの外見だ。と綱吉の間に生まれたと見て間違いはないのだろう。
 問題は――家継との関係だ。
 恭弥は、綱吉に対しても家継に対してもあまりいい感情を持っていないようだった。
 もし、その原因が――恭弥と家継が異母兄弟だということにあるのだとしたら……

「十代目、大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」
「あ……い、家継、は……」

 自分でも血の気が引いているのがわかるくらいだ、今物凄い顔をしているのだろう。気遣う獄寺の声も耳を通り過ぎていく。
 信じたくないなんてないけれど、10年バズーカで行った未来でハルが言ったのだ。家継はハルとの子供だと。あの未来の延長線上にあるのが恭弥たちがいる未来だとするなら、充分にありえる可能性だ。
 それに……今はもうパラレルワールドとなったあの未来の家継が出来た過程を考えるなら、ハルとの間に子供が出来ることだって、なくはない。
 現時点では、が好きだ。以外の女性と関係を持つ気なんて更々ないと自信を持って断言できる。
 けれど――未来なんて、何がきっかけとなって変わってしまうのか、本当にわからないのだと……思い知らされた気持ちでいっぱいだった。
 ……でも、と。綱吉は顔を上げる。

「あれ? ってことは、また家継来てるってこと、か?」
「だな。しかも恭弥の言い方から察するに、今回は頼まれたわけじゃなく勝手に来たって感じだろ」
「っ!」
「十代目!? どちらへ!?」
「学校! っていうか応接室!!」
「ええ!?」
「八つ当たりされたくないからヒバリさんより先に家継見つけて未来へ帰すんだ!!」

 学校へ向けて走り出した綱吉の心は、ひとつの決意に染まっていた。
 未来はいくらでも変えられるもの。ならば、自分の望む形の未来へなるように努力する、と。
 絶対……絶対にあの未来を変えるんだ――と。
 そう決意して、まずはその未来からの訪問者を帰すために走り続けた。





「……ホントに寝てるし……」

 草壁に聞いた通り屋上に上った少年――家継は、コンクリートの上に足を組んで寝転がっている雲雀の姿に肩を落とした。
 いくら天気がいいとはいえ、もう11月だというのに……寒くないのだろうか。
 呆れたまま足を進め、すぐ傍らに立ってその姿を見下ろす。

「どう見ても恭弥だよね……なんで? どうやってこの姿になってるの? ……これが……父さんと結婚してくれなかった理由?」
「そんなこと、この僕に聞かれてもわかるわけがないだろう?」
「っ!?」

 眠っているのだから答えなど返るはずがない。そう思っていた相手がぱっちり目を開けてはっきり答えを返してきて、家継は思い切り飛び上がった。
 口から飛び出るのではと思えるほどばくばく鳴っている心臓を押さえ、ゆっくりと上体を起こす過去の母をただ見ているしかできなかった。
 そんな家継へ、今度は雲雀のほうから呆れた眼差しが向けられる。

「親子揃って同じことするとはね。僕の眠りを妨げた罪は重いよ?」
「……っ、そんなこと言われたって、知らないんだから仕方ないじゃないか……っ」
「無知は言い訳にならない。そもそも大した用もないのに過去へ来たこと自体が、選択ミスなんだからね」
「用ならあるよ!! ちゃんと父さんと結婚して一緒に住んでよ!!」
「それを僕に訴えること自体が間違いだと、向こうで誰かに言われなかったのかい? 君の望みは君自身に関わる環境の変化だろう? 仮にこの僕が君の望み通りにしたとしても、それは平行世界として分離した未来となるだけで、君自身には何の関わりもないことだということも知らないのかい?」
「じゃあ、もう帰らない! ここでならハル姉と年も近いもん! 付き合ったって誰にも馬鹿にされないだろ!!」
「で、君の戸籍や住む場所はどうする気だい? 働ける年齢でもない子供が保証人もなく一人で生きていけるほどこの世界は甘くないよ」
「そんなの父さんに」
「沢田綱吉だって協力はしないだろうね。むしろ君に帰るよう説得するだろう。君がここに残ったとしたら、君のいた時間の者たちの君への気持ちはどうなるんだ――ってね」
「――っ」

 未来が変われば、元の時間とは何の関わりもなくなってしまう。消えてしまった存在は空席のまま埋まることはなく、それまでに築き上げられた関係も……それ以上発展することはない。
 逆に、ここではその関係が完全に白紙。どこにも繋がることのできない存在となってしまう。
 ハルとの関係だって……好きになってもらえるとは限らないのだ。
 熱くなっていた頭に冷水をかけられた気分だった。そrでも引き下がれなくて、ただ拳を握り締めていると、溜息をこぼした雲雀から厳しいが言い放たれる。

「無知な子供の駄々に付き合う気なんて僕にはないよ。咬み殺されたくなければ……痛い目に遭いたくないのなら、さっさと在るべき時間に帰りなよ」

 突き放すような、厳しい態度……確かに父の言った通り、ちっとも甘えさせてくれない。本当の姿さえ、見せてくれない。
 どうしてこんな人が自分の母親なんだろう、と。そう思った。同時に、何故それでも嫌いになれず、今でもまだ母親の愛情を求めているのだろうとも。
 手に入らないとわかっているからこそ、求めて止まないのだろうか――とも。
 こんなに近くにいるのに。拒絶されることがわかりきっているから、手を伸ばすことさえできない。それでも諦めきれずに、愛慕の眼差しを向けていた――その時。

「帰っても痛い目に遭うのは決定済みだよ」

 割って入ってきた第三者の声。それは家継にとっては聞き馴染みのありすぎるもの。
 条件反射で振り返った先には、階下へ通じる扉の前に立つもう一人の雲雀恭弥の姿があって。家継は思いっきり身構え、臨戦態勢になる。

「なんで恭弥がいるわけ?」
「沢田綱吉が母さん経由で依頼してきたからに決まってるだろ。過去の時代に家出するなんて頭の悪いことやらかしたバカツグを回収してきてくれってな」
「父さんがわざわざ恭弥に頼んだの!?」
「それだけおまえのしたことが重大な過ちだってことぐらいわかれよ」
「っていうか恭弥が父さんの言うこと素直に聞いたってのが驚きなんだけど」
「タダなわけないだろ。当然報酬はもらう約束だからな。さっさと帰るぞ」
「……ヤだね」
「帰る前にも痛い目見るか?」
「やれるものならやってみろよ」

 間合いを保ち得物を構え、緊迫した空気が満ちた時間は――ほんの僅かだった。

「何やってるの二人ともぉ――っ!!」

 情けなさを色濃く含む声が、屋上に響いたための、中断だった。





 未来からの訪問者を追って学校へと着いた綱吉。探し人の情報は応接室にいた草壁から得られたのだが、その前に野球部の朝練によって先に来ていた山本と水野薫、そして廊下を走っていたのを見咎めてきた鈴木アーデルハイトと何故か彼女に引きずられていた加藤ジュリーまで加わってしまい、大所帯で屋上へと傾(なだ)れ込むこととなった。
 そして目にした光景は、今にも戦いを始めようとしている家継と恭弥の姿。叫ばずにいられるわけがなかった。

「ホントに家継いるしー! なんで!?」
「用があるからに決まって」
「ねえよ、用なんて。単なる家出だろうが」
「家出ぇっ!?」
「バカツグのやることはホントにバカなことだけだよな。外見だけじゃなくて中身もふんだんにあんたの遺伝子継いだって証拠だ」
「うっ!?」
「そこは否定するところじゃないの父さん!!」
「できるならしてる――って、うわあっ!?」
「「 っ!? 」」

 超直感万歳。背筋がぞわっとした瞬間咄嗟にしゃがみ込んだ綱吉の頭上を、鋭い刃の連なったチェーンが通り過ぎていった。
 それは同時に家継と恭弥の元へも伸びて、二人は飛び退ってかわしていた。
 高い金属音を響かせてチェーンが在るべき場所に納まったそこには、明らかに不機嫌全開で殺気を放つ雲雀の姿があって。

「僕の学校で下らない騒ぎを起こすなんて、覚悟はできてるんだろうね」

 言い訳など聞く耳持たない本気の怒り姿勢は、未来の子供たちにも伝わったのか揃って冷や汗を浮かべている。
 だが、それで止まってくれるほど雲雀は甘くはない。
 ざり、と。雲雀の足が動き、家継と恭弥、そして綱吉もが身構えた――次の瞬間。

「きょーにぃ、かえろー♪」

 緊迫した空気にそぐわない明るい声がすると同時、何もなかった宙からサラサラの黒い髪をふたつに結った小さな小さな幼女が現われ、丁度下にいた雲雀の背にしがみついたではないか。
 子供に対しても決して容赦することのない雲雀。
 突然のこの事態に呆気はまたすぐに緊迫したものへと変わった――のは、この時代の者だけだった。
 未来の子供たちは揃って驚きを声にする。

「「 雛っ!? 」」
「あいっ、ヒナ、おむかえにきました! ……あえ?」

 雛、というらしい幼女は元気に目的を告げたあと、ようやく自分がしがみつく相手の違いに気付いた模様。愛らしくこてんと首を傾げて、振り返った雲雀を見つめて。

「きょーにぃ?」
「人違いだよ。僕に兄弟はいない」
「ちょっと雛、いくら似てるからって間違えるなよ」
「お兄ちゃんはこっちだよ。おいで」
「って、何両手広げてやがるバカツグ。雛は俺の妹だ」
「ぼくら双子なんだから雛はぼくの妹でもあるよ!」
「バカ言え。雛の姓が雲雀の時点で、おまえとは関わりねえよ」
「ないわけないだろ!! 戸籍がどうでも同じ両親から生まれた事実は変わらないよ!!」
「冗っ談! アレが父親なだけでも許し難いのに、てめえが兄だなんて誰が認めるか!!」

 止める隙もなく始まった兄弟喧嘩は、再び二人を臨戦態勢へと導いた。……その時、綱吉は雲雀の――血管か、それとも堪忍袋の緒とかいうやつだろうか。ぷちっと切れた音を聞いた気がした。

「ほえ? ぉっおーっ」
「「 雛っ!? 」」
「すごいすごぉーい! ヒナ、とんだよー!」

 雲雀はなんと、己の背にしがみつく幼女の首根っこを掴むとそのまま遠慮の欠片もなく双子に向かって投げつけたではないか。
 仲が悪くても流石は双子といったところか。二人は同時に駆け出し、見事に妹を受け止め胸を撫で下ろしていた。投げられた幼女は小さな手を叩いて喜んでいて……うん、の血を引いていると思いっきり納得できる。
 重荷が消え、完全に自由となった身体でトンファーを構えた雲雀は、未来からの訪問者たちを睨みつけ、一言。

「三秒以内に僕の目の前から消えなければ全員咬み殺す」
「っ、雛、帰るよ!」
「あいっ! いーにぃもいっしょ!」
「あ、うん……」
「ばいばーい♪」

 雲雀の一言で真っ青になった恭弥に応じた雛に促され、家継もどこか腑に落ちない体ではあったが帰ることを受け入れたようだ。
 幼女の愛らしい笑顔を最後に、三人の姿は一瞬で消え去ってしまった。
 騒がしさが急に消えたことで訪れた沈黙は、ほんの刹那の間。

「あんの糞餓鬼共が……っ、絶対に未来を変えてやる……っ」

 怒り心頭な雲雀の声がその場の空気をも緊迫した色に染めていく。
 そんなものを全く気にしないのは、リボーンぐらいだ。大抵は余計なことを言って却って雲雀の怒りを煽り、その矛先は綱吉へと向けられるのだが――果たして。

「ヒバリ。跡取りはオレを父親に希望してたぞ。協力してやろーか?」
「呪いが解けなければ一生赤ん坊の身で何言ってるのさ君は」
「だから、てめえはその情報をどこから仕入れてきやがる」
「例え呪いが解けたとしても君なんか御免だよ。君と寝るくらいなら、紫のアルコバレーノのほうがまだマシだね」
「おい、こら。オレよりオレのパシリが格上とはどういう了見だ」
「何なに~、結婚しないで子供だけ希望ってんなら俺ちんも立候~ほぶぁっ!?」
「「 黙れ 」」

 今回はリボーンにだけ返されたかと安堵したのも束の間。続いたジュリーの言葉に焦りを覚えた綱吉の前で、彼は雲雀とアーデルハイトによって撃沈させられた。
 実は意外と息の合う雲雀とアーデルハイトの姿にか、山本がいつものように笑う。

「ハハッ、ヒバリ人気者だな。ツナ、ライバルいっぱいじゃねーか」
「え――――っ!? やだよ、ダメダメぜえったいダメ――!! ヒバリさんはオレのなの――!! ……って、うわあっまたぁっ!!」
「誰が、いつ、貴様の物に成り下がった、ええ!?」
「ひ、ひぃっ、すみませえ――――んっ!!」
「咬み殺す!!」

 思わず心のままに叫んでしまった言葉によって、チェーンが再び襲い掛かってきた。そして、ドスのきいた声もまたその後を追って綱吉に降りかかってきて。
 身の危険など、超直感がなくともわかりすぎるそれに、一目散に逃げ出した。





 奇しくも、必ず未来を変えると二人揃って決意を固めたこの時から、またひとつパラレルワールドへのわかれ道は発生したのだった。
 その、証拠に――





「「 おかえり、三人とも 」」
「「 っ 」」
「ただいまです!」

 珍しく両親が揃って笑顔で迎えたことに兄たちは別の意味で驚き、幼い妹は満面の笑顔で答えた。
 素直な娘の体を息子たちの手からさらう一瞬、綱吉は素早く家継の手首から腕時計型のタイムトラベル装置を外してその手に納める。

「コレは没収だよ。もう必要はないものだからね」
「あ……っ」
「恭弥も返して」
「ほらよ。報酬忘れんなよ」
「ああ、場所と時間が確保できたら連絡するよ」
「ったく、マジで一度あんたをぶちのめさなきゃ気が治まらねえ……」
「そんなに過去はお気に召さなかった?」
「最っ悪だね! あんたの側にいた赤ん坊が父親だったらどんなによかったことか、再認識してきたぜ」
「へえ~」

 恭弥の悪態に対してピキリと青筋を浮かべたのは、綱吉ではなくのほう。けれどすぐに鳴りを潜め、両親は同じ笑みを浮かべて息子たちに言った。

「そんなおまえたちに朗報だよ」
「今回、君たちが未来から来たという記憶が私たちの中に補正されることはなかったわ」
「つまりパラレルワールドとして完全に分離したってことだ」
「君たちが行って来た過去は、今のこの時に繋がることはもう二度とないわ」
「例え、おまえたちの望み通りの未来になったとしても、おまえたちはそれを知ることすらできないってことだよ」

「「 さて、ご感想は? 」」

 顔は笑っているけれど、心は正反対状態の両親を前にして、双子の回答は全く別々のものだった。家継は口許を引きつらせ、恭弥はそっぽを向く。

「別に、最初から無関係だってのはわかってたことだからな。どうでもいい」
「ふーん……それじゃあ、君の不満は私に対する挑戦として受け取るわよ」
「何? 久し振りに本気で相手してくれるわけ?」
「そうね。もし君が私に傷ひとつでもつけられたなら、戸籍上だけでも願い通りにしてあげてもいいわ」
「いいね、その勝負、受けるぜ」
「ここで始めないでくださいよ、さん」
「わかってるわよ」

 何やらとんでもないことを言い始めた母子を、父は止めるでもなく別の注意を発するだけ。それに応じて、二人は剣呑な空気をまといつつ、けれど顔だけは楽しそうにして、早々に立ち去ってしまった。
 残された父は、腕の中の娘に笑いかける。

「じゃあ、雛はケーキでも食べながら二人を待ってようか?」
「あいっ!」
「家継はどうする?」
「え……」
「折角ハルが作って持って来てくれた、フルーツたっぷりのロールケーキ。食べないのか?」

 色々と不満があった。どうにかしたかった。けれど、どうにもならない現実を突きつけられただけだった今回の家出。
 納得なんてしていない……けれど……
 それでも、自分にとって一番大事なものは何も変わっていないことはわかったから。

「~~っ、食べるよ!! 食べないわけないだろ!!」

 家継は父の後を追って、リビングへ向かった。